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ゴルゴ「キュゥべえだと……?」(改稿版)第一部
- 1 :56513:2017/04/24(月) 04:51:31.38 ID:fh14YDJqQ
- 「キュゥべえだと……?」
「そうだっ! 失踪した私の娘の日記を見るとあの子はキュゥべえという奴に魔法少女にされたせいでおかしくなってしまったんだ! 読んでいると初めは楽しげだったのに途中から内容が変になっていく。その日付は私達があの子の異変に気づき始めた頃とも合致するんだ!
たっ、頼むっ! 何としても奴を始末してくれっ! この得体の知れない奴を見つけ出し、殺すことの出来そうな男はあなたの他にないんだっ!」
「……」
ゴルゴは公園の木に背をもたせかけながら、目の前で熱を振るって語り続ける男性の言葉を黙って聞いていたが、やがて指につまんだ葉巻を口から離して煙を吹き出すと、ゆっくりと口を開いた。
「その日記はあるのか……?」
「もちろん持ってきてある! 読んでみてくれ!」
男性はゴルゴの声に応えて、半ば白くなった頭を側面をゴルゴの方に向けながら、脇に抱えていた革鞄から慌ただしい調子で学生ノートの帳面を取り出した。
ゴルゴは男性から日記を受け取ると、人差指と中指で葉巻をつまんだままパラパラと開けていき、目を通していく。
「……」
男性は目を大きく開き、手を広げ、口から唾を飛ばさんばかりになおも熱心にゴルゴに語りかけた。
「どうだっ!? 世界的スナイパーの君にこういう話をしても荒唐無稽と思われるかもしれないが、私にはその日記は真実を書いているとしか思えないのだ!」
「……」
ゴルゴはなおもしばらくパラパラと目を通し続けていたが、やがてパタンと日記を閉じると、低く太い声で目の前の相手に向かって言った。
「……いいだろう……。依頼を受けよう……」
男性の顔が喜びにパッと輝いた。
「おおっ! 感謝するっ! ゴルゴ13!」
- 106 :56513:2017/04/30(日) 05:57:52.39 ID:cim9vTGHz
- やがて眼前の一通りの相手を蹴散らすと、ゴルゴによってとどめを刺しきれず、動きの鈍った多くの使い魔達を無視して二人は再び走り出し、敵の間を抜けて疾走した。
狭い廊下を抜けると再び別の大きな広間の一室が開け、先ほどと同じように使い魔たちが現れた。
きっと強く見据えるほむら。
(新手っ……!)
ダダダダダッ ガウーン ターン
ゴルゴは再び、ほむらが最初に目に映った敵達に反応する前から射撃を開始していた。
ほむらも再び遅れて攻撃に参加する。やがて異変に気付いた。ゴルゴが射撃した跡に注意を払い、使い魔達が起き上がってきたら対応しようと視界の端に収めていたほむらの目に、彼に倒されたうちで再び二人に向き直ってくる敵の姿が映らなかった。
目を丸くし、何度もちらちらとそちらの方を確認するが、お菓子姿の使い魔達は仰向けまたはうつ伏せに倒れたままだ。
- 107 :56513:2017/04/30(日) 05:58:42.70 ID:cim9vTGHz
- ほむらの反応に気付いたゴルゴが射撃の騒音の中でよく通る太い声を発した。
「どうやら奴らにも頭部や心臓に相当する部分に急所があるようだな……。そこを狙えば、お前ほどの魔力がない俺の武器でも一撃で仕留めることができる……」
攻撃の手を休めず口にするゴルゴの方をほむらは唖然として見つめた。
(さっきの少しの折衝で私も気づかないような使い魔の弱点を見破ったの……!? そしてあんな小さい対象にそれを実践して命中させることのできる射撃力……!)
- 108 :56513:2017/04/30(日) 05:59:51.86 ID:cim9vTGHz
- ダタタタタッ ガウーン ガウーン
ビスビスビスッ ヒュンッ ヒュヒュンッ
「!」
目を見開くゴルゴ。彼が最初から所有していた拳銃による射撃が使い魔達に衝撃を与えることなく吸収されていった。ライフルでなく、拳銃に狙われた方の彼らは意に介さずひょこひょこと、効果のない射撃を命中させられた体で二人に向かって迫ってくる。
「……」
ゴルゴはその相手の動きを確認するやいなや、迷うことなく右手に持った拳銃を放り出し、一瞬の抜く手で懐からほむらから受け取った別の拳銃を取り出した。
ガウーン ガーン ガウーン
ビスッ ビスッ ビスッ
彼の新しく手に持った拳銃による射撃で、再び使い魔達が倒されていく様をほむらはじっと見つめた。
(どうやら、私が即席で与えた拳銃への魔力が切れたようだけど――それに一瞬で気付いて即座に銃を持ち替えるとは――凄い判断力だわ……)
- 109 :56513:2017/04/30(日) 06:00:24.95 ID:cim9vTGHz
- ダーン ターン ガウーン ズガガガガーン ……
二人が再び敵を掃討してそこを抜け、さらに前の廊下も駆け抜けると今までで最も天井高く広い広間に出た。
そこにはゴルゴも見知った見滝原中学校の女子生徒が二人おり、茫然とした彼女らの見つめる先、魔法少女姿のマミが呆気に取られて見上げたまま、
巨大な頭部から尾にかけて先細った、蛇のように細長い胴体を持つ人魂のような姿形をした、魔女と思しき浮遊した化け物の、白く鋭い牙を持つ巨大な口に今にも呑まれようとするところだった。
- 110 :56513:2017/04/30(日) 06:05:56.09 ID:cim9vTGHz
- 呑み込まれようとするマミの姿にほむらがはっとする。その一瞬のうちに彼女のこめかみに小さな汗のしずくが浮いていた。
(――マミッ……!)
ターン ダーン ダーン
広間に駆け込みながら、魔女がマミを襲おうとしているのを視認するやいなや発射されたゴルゴのアサルトライフルの銃弾が巨大な人魂のような魔女の顔面に当たると、
マミを噛み砕こうとしていた相手は受けた衝撃に目を閉じ顔をしかめて、痛みと驚きから怯んで後退した。
目の前の相手によって今にも呑み込まれようとしていたマミは頼りない内股姿で呆然と立ち尽くしたまま、思考が停止し尽くしたかのように呆けてそんな魔女の姿を見上げていた。
- 111 :56513:2017/04/30(日) 06:07:37.84 ID:cim9vTGHz
- ギロッ
食事の邪魔をされた魔女は銃をこちらに向けているゴルゴの姿に気づくと、彼の方を睨み付けた。
顔の白い”地肌”からにょきっと伸び出た鼻の鼻先に付いた星形はサンタの話のトナカイのように真っ赤で、両頬には真ん丸な黄が二つ差している。
縦の楕円形の目の内部は、中心部の瞳にかけて赤、黄、青とカラフルな同心円が5つほども徐々に小さくなって並んでいるが、しかしそれぞれの色位置や数、占める大きさの割合はチカチカと変化していき一定していない。
黒地に赤の水玉模様の胴体部との頭の上部の生え際に赤と青の、その巨大な体を浮遊させるには不釣り合いと思われる小さな、人間の体ほどの大きさの二本の羽毛が飛び出ている。
先ほどまでマミをそこに収めようとしていた巨大な口は、食事の邪魔をされて不機嫌そうにムスッとゴルゴを見つめる目の眉根と同じくしかめられており、感情に合わせてその顔全体の表情は露わに変わるようだ。
顔のカラフルさと、露骨なデフォルメ表現かのように大きく変わるその表情からアメコミアニメを想起させる存在だった。
魔女はマミの上を飛び越え、獲物を食べようとする魚のように口を大きく開けて一散に彼に向かって飛びかかってきた。
ダダダダダッ
ゴルゴは右手に持った拳銃を投げ捨てるとアサルトライフルを両手に持ち替え、その連射を魔女の巨大な顔に向ける。
- 112 :56513:2017/04/30(日) 06:08:49.23 ID:cim9vTGHz
- 咄嗟のことに固まっていた二人の女子生徒が思考を取り戻した。青髪の少女が目を丸くして、突然飛び込んでき、魔女と戦い出したゴルゴの方を見やる。
「――えっ……あのおじさん誰――? 前道で会った――? それに転校生?――」
ピンクのお下げ髪の少女は事態の成り行きを理解できそうにないながらも暗い顔で不安そうに、今魔女に立ち向かっているゴルゴを見つめた。
「……」
少し遅れて、呆然と立っていたマミが思考と判断力を取り戻した。はっとして、ゴルゴに向かった魔女の方を振り返る。
- 113 :56513:2017/04/30(日) 06:11:19.96 ID:cim9vTGHz
- ダダダダダダダダッ
ビシビシビシビシビシッ
アサルトライフルの連射モードで発射された弾丸が魔女の顔の大きな的に次々命中すると、魔女はつぶてを食らったように思いきり目を閉じ、時に痛みに耐え切れず急停止するが、それでも空中を浮遊して真っ直ぐにゴルゴの方に向かった。
連射射撃で魔女をひるませながらゴルゴは円を描くように体を横に移動して、迫りくる相手との距離を取る。
ほむらも両手に構えて狙いを定めた拳銃で魔女にダンダンと弾丸を打ち込むが、胴の側面に弾を食らった魔女はその度にビクンと体をよじらせ、固まらせるが、それでもほむらの方を見ようとはしない。
どうやら狙いはあくまでせっかくのご馳走の邪魔をしたゴルゴのようだ。
ダダダダダダダダッ
体を捌きながら魔女の進行をかわすゴルゴ。
- 114 :56513:2017/04/30(日) 06:12:13.08 ID:cim9vTGHz
- ――ヒュンヒュンヒュヒュンッ
突然、それまで魔女の正面に衝撃とダメージを与えていたライフル弾が相手の大きな顔に溶け込むように通過していった。
何事もないかのように魔女の体の中に吸い込まれてゆく。
ゴルゴは目を見開いた。瞬時に額に汗が浮かぶ。
(――! 魔力切れッ……!)
それまで顔に受けていた衝撃と痛みがいきなり失われた魔女は目をご機嫌よく見開き、両方の口角をにいっと釣り上げて、
何の障害もなくなった進行方向に向けていきなり速度を上げ、真っ直ぐゴルゴに飛びつく。
- 115 :56513:2017/04/30(日) 06:12:39.20 ID:cim9vTGHz
- 見ていた二人の女子生徒が恐怖に目を見開いた。お下げ髪の少女は思わず両手を口にやり、悲鳴を上げる。
「――きゃあっ!」
「おじさん!」
青髪の子も続いて声を発した。魔女を後ろから追いかけていたマミは走りながら届かない手を伸ばし、ぎりと歯を食いしばり、焦りと苦悩に顔を歪める。
「――!」
(――……!)
ライフルを捨て、横に飛びのけようとするゴルゴ。
- 116 :56513:2017/04/30(日) 06:16:50.72 ID:cim9vTGHz
- カチッ
突然、ピンクを基調とした結界内の派手派手しい光景が灰一色になり、今にも噛みつかんとする魔女の動きがゴルゴの目の前で宙に止まった。
空中で進む動きを停止させたのではない。こちらに向けて、先ほどマミに対してしようとしたのと同じように丸呑みにかじりつかんばかりの口をあんぐりと開けた姿そのまま、貼り付いたように空中に静止している。
その巨大な体の後ろ越しに、遠くにこちらを見る二人の女子生徒達
――恐怖の表情をしたピンクのお下げ髪と、体をねじりながらこちらに必死の目を向けている青髪のショートヘアの二人――
と、複数のマスケット銃を宙に浮かせて張り詰めた表情で駆けるマミの姿もあるが、彼女らも一様にその動きを空気に固着させたかのように静止している。
シンとした静寂がゴルゴの耳を打った。
- 117 :56513:2017/04/30(日) 06:17:42.79 ID:cim9vTGHz
- (――……!?)」
気付くと、ゴルゴの鍛え上げられた太い手首をほむらが掴み、その女子中学生らしい華奢な白い手で引いている。
さっきまで数メートル離れた所にいたはずの彼女が彼のすぐそばにおり、ゴルゴはいつの間にか小柄な彼女の導く動きのまま小走りに駆け出していた。
- 118 :56513:2017/04/30(日) 06:18:29.86 ID:cim9vTGHz
- 彼女に腕を引かれたまま、驚かせた顔で周囲を見渡すゴルゴ。ほむらは小さく駆けながら彼に説明した。
「これが私の魔法少女の能力。時間停止能力よ。私と私が触れているものだけが動くことができるの」
「……!」
ゴルゴは目を見開き、驚愕の表情でほむらを見やったが、やがてちらと先ほど周囲を見回した時目に映った青髪の少女の方に目を向けた。
ピンクのお下げ髪の鹿目まどかと同じく、早乙女和子のマンションでその情報を得た、まどか、ほむらと同じクラスメートの美樹さやかという少女だ。
しかし再び厳しく冷たい表情に戻った彼の視線が向かうのはさやかの顔に対してではなかった。
彼女がその両腕に抱えているのは、以前彼がショッピングモールで額を打ち抜いたはずのキュゥべえと呼ばれる生物だ。
”彼”もまた、魔女や三人の少女達と同じく、さやかに抱きかかえられた腕の中でその動きを停止させているが、クリクリした目を他の三人の少女達と同じ方に向けたままのその姿はいたって元気で健康そうだ。
- 119 :56513:2017/04/30(日) 06:21:23.95 ID:cim9vTGHz
- ゴルゴの視線に気づいたほむら。
「当てが外れて残念だったわね。あの通り奴はぴんぴんしているわ。前言ったでしょ? 奴は不死身だって。
――しかし今はこいつが大事よ」
くいと首で今しがた避けてきた場所を示す。そこでは静止した魔女が大きな口を開け、一本一本がゆうに人間の上体ほどの大きさもある、
ギラギラの鋭利な薄い刃物のような歯をむき出しにしていた。もしあれに噛み砕かれたら問題なく胴体は真っ二つだろう。
(……!)
振り返るゴルゴの額に改めて汗が浮かんだ。
ほむらが再び口を開く。
「そろそろよ。時間が切れるわ」
- 120 :56513:2017/04/30(日) 06:22:33.46 ID:cim9vTGHz
- カチッ
周囲が再び明るいピンク色の世界に戻り、大気の動きが二人の肌に押し寄せてきた。
ガキッ
ご馳走を思いきり味わって頂こうという風に目を閉じて勢いよく巨大な歯をとじ合わせた魔女だが、その口の上下から飛び出た刃は空中を噛んだ。
「? ? ?」
訝しげな、不機嫌そうな顔をして辺りを見回す魔女。
と、遠く側方に離れたゴルゴとほむらの姿を認めると、再び襲おうと二人の方へ飛びかかった。
- 121 :56513:2017/04/30(日) 06:24:14.13 ID:cim9vTGHz
- ダーンダーン
二人に襲いかかる魔女の後ろから銃声が鳴り響いた。
背面に攻撃を受けた魔女が大きくびくんと体をのけぞらせる。
「待ちなさいっ! 私が相手よっ!」
見るとマミがキッと吊り上げた眉で魔女の方を睨み付け、彼らの方へ駆け出してきていた。
彼女の周囲に浮かび、その動きに合わせて空中を浮遊してついてくる何本もの銀のマスケット銃の先端から硝煙が立ち上っている。
先ほどゴルゴが襲われるのを恐怖の顔で見ていた二人の女子生徒は、魔女の大きく噛み付く動作に絶望の表情を浮かべたが、
続く魔女のキョロキョロとした仕草に異変を感じ、やがて魔女に襲われた先から彼が忽然と姿を消しているのに気付くと、きょとんとした顔をした。
同じようにあちこちに首を回し、魔女より少し遅れて、離れた場所にほむらとともに立つゴルゴの姿を見て、わけが分からないながらも安堵の表情を見せた。
マミの方も二人の瞬間移動に困惑したものの、戦闘への集中力がそれに勝ったようだ。
離れた所に移ったゴルゴとほむらの二人組を追うか、今しがた後ろから攻撃してきたマミを襲うのとどちらにしようかと、双方に巨大な顔を振って迷っている風の魔女だったが、
やがて、改めて二人を追う気分を削いだマミに反撃する方を選んだらしく、彼女の方を振り向くと、
先ほど食べそこなった彼女を再び口中に収めようと飛びかかって行った。
- 122 :56513:2017/04/30(日) 06:26:06.62 ID:cim9vTGHz
- 「今度は油断しないわ」
力強く言い放つと、両腕を低く広げ、開けた脚の膝を軽く曲げて腰を落とし、重心を低くしてぐっと迎え撃つ姿勢を取る。そんなマミに魔女は真正面から襲いかかった。
ダーン ドーン ダーン
乾いた破裂音の轟音が連続して鳴り響き、彼女の周囲に浮かぶマスケット銃の銃口から太い硝煙が立ち上る。その火薬の臭いが周囲の4人にも届いた。
ドンッ ドスッ ドスッ
顔に弾丸が続けて続けて命中し、魔女は痛みに目を思いきり閉じ、時に弾かれるように顔を大きく仰向けて悶える。
魔法少女の強力な銃撃の連射でひるむ魔女の周囲の地面、壁面から長い黄色いリボンが何本も出てきた。
シュルシュルと伸び出してくるリボンはやがてその端の一部を魔女の体に触れさせると、草木に絡み付くツタのようにそれを手がかりに這い進んでいく。
嫌々をするように体をくねらせる魔女だが、
一本一本が細いリボンは数を重ねてびっしりまとわり付いていき、手足無く、
胴に絡んだそれらを引きちぎる手段を持たない魔女はやがてその巨大な頭と細長い胴体の全体を宙吊りにがんじがらめに縛られた。
- 123 :56513:2017/04/30(日) 06:27:55.31 ID:cim9vTGHz
- じたばたともがこうとするがそれもままならない魔女の姿を見て満足そうに微笑むマミの前方上方に、一際太い黄色のリボンが多数現れて、
何もない宙空に、棒状に包帯を巻くかのように筒状を形作ってゆく。
すると、それは一つの巨大な砲身と化した。今までマミが使用していた銀のマスケット銃の銃身の真ん中を切り詰め、先端の発射口と、撃鉄が付いた後部を直結させたような姿だ。
巨大なそれは銃口の口径だけでもマミの身長と同じくらいあり、砲身の長さは5メートルを超える。
もはや手に取ることの出来ないそれはグリップ部が無く、そのまま大砲のようだ。
空中に静止した巨大なマスケット”砲”の後ろに跳躍して飛びつくと、体全体で抱きかかえるようにして構えるマミ。
彼女は空中で完全に動きを封じられた魔女に対し片目でマスケット砲の狙いを定め、空いた方の目を閉じてニッとウィンクすると、
「ティロ・フィナーレ!」
叫ぶ。
- 124 :56513:2017/04/30(日) 06:28:37.41 ID:cim9vTGHz
- ズドンンンンンンンン
と、空気を震わす轟音と同時に立ち上る太く濃い硝煙とともに巨大マスケット砲が発射されると、
ドーン
次の瞬間、巨大砲の直撃を受けた魔女が巨大な爆発音と煙の中、それまで”彼女”を縛っていたリボンの数々から引きちぎられるようにして吹っ飛んだ。
周囲の視界をもうもうとした煙が覆い隠し、強烈な硝煙臭が見ている四人の鼻を打つ。
やがて立ち込めた煙が薄れ、細く残った筋もたなびき去っていくと、いつの間にか魔女の姿もそれとともにかき消えてしまったかのようにすっかり見えなくなっていた。
- 125 :56513:2017/04/30(日) 06:31:02.42 ID:cim9vTGHz
- 結界内の派手派手しいピンクの風景が溶け落ちるように消えてゆき、彼ら5人はまた元の病院の敷地内の人気のない駐輪場横に戻っていた。
いつの間にか夕闇が近づいており、薄暗くなっている。
じっと立ち尽くす5人。
最初に歩みを進め、口を開いたのはマミだった。周囲の景色が戻るうちにいつの間にか魔法少女の変身を解き、中学校の制服姿に戻っている。
マミは軽く首を傾げ、微笑みながら、
「おじさま、またお会いしましたね。それもこんな形で命を助けられるとは思ってませんでした。お礼を申し上げます。ありがとうございます」
両手を前に揃え、深々と頭を下げる。そんなマミをゴルゴはじっと見下ろし、
「……俺は……借りは返す主義だ……」
太く低い声を発した。
マミはそれを聞くと、軽く握った拳を口に当てくすりと笑う。
「そういえば以前私があなたを助けましたね。――でも、今回のこと本当に感謝してるんですよ?」
「……気にすることではない……」
じっと見上げるマミに対し、相変わらず淡々とした低い声で答えるゴルゴ。
それを聞くと、マミは再び首を傾げ、顔をほころばせてフフッとゴルゴに微笑みかけ、気を取り直したように今度はほむらの方に向き直った。
- 126 :56513:2017/04/30(日) 06:34:06.89 ID:cim9vTGHz
- 「暁美さんね? あなたにも感謝するわ。おじさまと一緒に戦ってくれたし、おじさまの武器にに力を与えてくれたわね?
それに……」
マミはじっと顔を俯ける。
「あなたの忠告通りだったわ。あなた達が来てくれなかったら私は本当に危ないところだった。今頃命を落としていたかもしれないわ。
ありがとう」
先ほどゴルゴに対してしたのと同じように深く頭を下げて謝意を示した。
- 127 :56513:2017/04/30(日) 06:35:32.57 ID:cim9vTGHz
- マミが曲げた腰を戻し、真っ直ぐほむらの方を見つめると、ほむらは顔を上げたマミと視線を合わせるのが気まずいかのように斜めに地面を注視し、
「礼を言われることではないわ……私はその――あなたのことがちょっと心配だっただけよ……」
言うが、普段冷たい態度を取る彼女らしくなく、照れたかのように頬に赤みが差し、地面を見る眼はかすかに泳いでいる。
そんなほむらに対し、マミは柔らかく微笑みかける。
「それでもありがとう。
ただし――」
急に声音が厳しくなった。さやかの抱きかかえたキュウべえの方を向き直る
「あなたが以前キュウべえにしたことを忘れてもいないわ。正直あなたが私達に近づく意図がわからない。
いずれおじさまと同じように借りは返したいと思うけど、完全にあなたのことを信用したわけでもないのよ?」
突き放したように言う。ほむらはそれを聞くとまたふっと普段の冷たい表情に戻り、相手の顔を真正面から見返した。
「……」
- 128 :56513:2017/04/30(日) 06:37:10.65 ID:cim9vTGHz
- 「そうだおじさま」
マミはくるりとゴルゴの方を向き直る。
「私まだおじさまのお名前をうかがってませんでしたね。――よろしいかしら?」
「……デューク・東郷だ……」
「――デューク・東郷……。ハーフの方かしら……? 東郷さんね。素敵な名前だわ。
――それであの……、もしよろしければだけど――」
- 129 :56513:2017/04/30(日) 06:38:54.39 ID:cim9vTGHz
- それまでの明るく自信に満ちた表情を思い惑うようにして曇らせて顔を俯ける。もじもじとして口を開く。
「――あの……、――無関係なあなたにこんなことを頼むのもどうかと思うのですけど――……。東郷さんもこの方面の経験はおありのようなので……」
もじもじとしゃべっていたが、思い切って顔を見上げた。
「よろしければ、私と一緒に戦ってもらえないかしら」
ゴルゴの方を半ば潤んではいるが、精一杯力を込めた眼で見つめる。
「!」
成り行きを見ていた少女三人は突然のマミの態度に驚きの表情を浮かべる。
ゴルゴはマミの願いに反応を示すことなく、無表情に見返すだけだった。
「……」
そのゴルゴの姿を、キュゥべえは白くフカフカした体をさやかに抱き抱えられたまま、クリクリと可愛らしくあるが、傍からその内の感情の変化が読み取れない赤い瞳でじっと見つめていた。
「……」
- 130 :56513:2017/04/30(日) 06:39:41.33 ID:cim9vTGHz
- ――――――――――――――――――――――――――――――――
- 131 :56513:2017/04/30(日) 06:41:16.99 ID:cim9vTGHz
- 「話があるのだけれどいいかしら」
宵闇が迫りくる見滝原の大通りを市の中心部に向かって歩いているゴルゴの背に声がかかった。
ゴルゴはあの後魔女の結界を脱した病棟の壁横でマミと共にいた二人の少女の紹介を受け――和子のマンションで調べた通り、ピンク髪の少女は鹿目まどか、青髪の少女は美樹さやかという名前だった。
彼女らはクラスメイトの暁美ほむらが、デューク・東郷と名乗った彼と知り合いだったのに少し驚いた様子だったが、すぐに受け入れた――、病院を出て少女達とキュゥべえから別れてきたところだった。
- 132 :56513:2017/04/30(日) 06:42:13.33 ID:cim9vTGHz
- 「……」
振り返ると、仕事終わりの勤め人や、夕飯の買い出しの人々で賑わう広い歩道の雑踏の浮かれ騒ぐ喧騒の中で、
暁美ほむらがその陰気な無表情で周囲からぽつんと取り残されたように立ち、少し離れた所からじっとゴルゴの方を見つめていた。
「……何か用か……?」
ゴルゴが立ち止まって尋ねると、
「――長くなりそうな話だわ」
ほむらは腕を振り、つかつかと迷いない足取りで前に立つゴルゴの巨躯の横にすっと体を寄せた。
「どこか喫茶店にでも入って話したいのだけど、いいかしら?」
「……」
ゴルゴが黙っていると、ほむらは返事を待つつもりはないという風に一人でさっさと早足で歩き始めた。
そんな彼女をゴルゴはしばらく眺めていたが、やがてその大きな体躯の広い歩幅でゆったりと後をついていった。
- 133 :56513:2017/04/30(日) 06:43:53.84 ID:cim9vTGHz
- 初夏の長い日の暮れは、ビルに隠れた地平から届く弱い日の光で西の空の半分が下からオレンジ、紫、藍にかすかに明るく色付いており、
通りは灯された街灯と、両側の種々雑多な店の店内からの明かり及び客引きの看板の電飾で煌々と照らされ、暗さが人々の活動を妨げ、その活気を奪うということが全くない。
むしろ、灯光によって照らし出された空気がその青い薄闇でかえって実在感を強め、皆の陽気にはしゃぐ感覚を共有する紐帯となっているかのようだった。
そして触媒として人々の間に感情を信号のように次々と伝達していく。
この見滝原の中都市内で一番賑わうここ繁華街に集まった皆が老若男女問わず、この宵の時刻の下、高揚した多幸感で一つにつながっているようだった。
その人々の楽天的に張り詰めたつながりを暁美ほむらが雑踏の中をさっさと早足に歩くことで人の動きの流れとともに断ち切って行く。
小柄な体に見滝原中学の制服を着た彼女は一目で女子中学生とわかるのだが、陽気にはしゃぐのを好むのが常な年頃の少女らしくもなく、能面のように動かない無表情を顔に貼り付けたまま、周囲の楽しげな空気も意に介さぬようにさっさと人混みの間を縫って歩いていった。
時々周囲の情景や店に気を取られて不注意な人間が彼女に気付かずぶつかりそうになっても、すっとそれをかわしては、変わらず真っ直ぐ顔を向けたまま気にも留めず、ずんずんとやはり前へと人の波を避けて進んでいく。
ぶつかりそうになった方は寸前で彼女に気付くのだが、目の前の少女の自己完結し、周りとの感覚の共有を否定するような表情と動きの、周囲から浮いた様に一瞬固まり、ぎょっとしたように目の前を通り過ぎていく相手を見下ろし、時には後を目で追う。
そして顔を前に戻すと、今度はそんな彼女の後を大きな歩幅で悠然と追っていくゴルゴの巨躯と剃刀のように鋭い目付きの顔が見え、威圧感から目を丸くして驚き、また立ち尽くしてまじまじと彼の方を見つめるのだ。
明らかにこの二人は、ありふれた街の平凡な生活を送っている人々の日常にとって異質な存在だった。
- 134 :56513:2017/04/30(日) 06:45:10.87 ID:cim9vTGHz
- 「ここがいいわ。いい具合に今は客があまりいないみたい」
暁美ほむらは大通りに面した喫茶店の一つの前で足を止めるとそれを腕で示した。
そこそこの大きさの喫茶店で、宵時の大通りに店内の明かりを投げかける大きな表ウィンドウ越しに見える店内の様子は木調の床板や柱で出来た内装の小奇麗で洒落た感じだったが、
ほむらの言う通り、外の喧騒とは裏腹に、連れ立った女性客が何人かまばらに入っているだけだった。
昼下がりの女子学生や主婦達の気楽なショッピングの合間によく利用されて賑わうこうしたお洒落な喫茶店は、
本格的な夕食を取るためにレストランに客が流れるこの時間帯にはあまり客が入らないようだ。
「……」
ゴルゴが黙っていると、ほむらは先ほど一人で歩きだした時のように、さっさと店先入り口前の赤いマットが敷かれたステップの上に足を乗せると、
大きく重量感のある格子ガラスのドアの立派な木組みの取っ手に手をかけ、ぐいっとその小さな体の胴体をひねるようにして引き開けて、ドアの上に付けられたベルのチリンチリンという音と共に店内に入っていった。
ゴルゴはその様子を黙って見ていたが、続いて大股に足を進めると、ほむらの手が離されたドアがスプリングのゆっくりした動きで閉め切らないうちにその縁をつかんで無造作にのけるように開けると、
彼女の後をついて店内に入っていった。
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- ――――――――――――――――――――――――――――――――
「お待たせしました」
呼びかけと共に栗毛に染めたショートヘアをした制服姿の若い女性店員が店内奥手のソファ席に向かい合って座る二人のテーブルにそれぞれ飲み物を置いた。
ゴルゴが最奥部の壁側にどっしりと座り込み、その巨躯の重みで革ソファのクッションの、太く発達した腰が乗せられた座面と、上体を預けた背もたれの部分が沈み込んでいた。
くつろいだ姿勢を取っているが、その占めた位置から時々店内や入口の様子を濃い眉毛の下の鋭い目付きでぎろりと油断なく見渡す。そうした時彼の剃刀のような眼は冷たい光を帯びるようだった。
向かいの席に座る暁美ほむらは両の前腕を二人に挟まれた大きな角テーブルに預け、背筋を伸ばしている。
背もたれに体をもたせかけないその姿勢は、ゴルゴの巨大な体躯との対照で、
中学生女子としての華奢で小柄な印象が強められた体をソファの上にちょこんと軽く乗せているだけのように見えるが、
彼女の顔もまた、目の前の相手に劣らず冷たく無表情で、向かい合って押し黙った沈黙の重苦しさが一層強まっていた。
柱と、胸辺りの高さの仕切り板によって隔離されたその一角は一種異様な雰囲気を醸し出していた。
店内にまばらに入っている他の客は店に入ってすぐの、大通りに面したウィンドウ側に近く寄っており、二人の周囲には座る人気も無い。
二人が注文したのはゴルゴがコーヒー、ほむらがオレンジジュースだった。
- 136 :56513:2017/04/30(日) 06:51:15.47 ID:cim9vTGHz
- 「結構だ……」
女店員が続けて給じようとした砂糖とフレッシュをゴルゴが辞退し、彼女が去っていくと、
ほむらはゴルゴが注文し、何も加えないままのブラックコーヒーを眺めてフッと軽く微笑んだ。
「コーヒーね……。私も飲みたいのだけれど……」
「……
カフェインの摂取は不静脈につながることがある……。持病の心臓病か……?」
過剰に張り詰めた空気を和らげようかとするかのように声を発するほむらに対し、
ゴルゴはそんな相手に同調しようとしない、変わらず厳しい眼差しで彼女を見つめながら、ナイフで刺すかのように鋭く容赦なく言葉を返した。
「!」
ハッと目を見開くほむら。
コーヒーカップを持ち上げ、今にも口に持って行こうとしていたゴルゴだったが、目の前の少女に言葉を投げると途中でソーサーにカップを戻し、胸ポケットから折りたたんだ紙を取り出した。
開けるとほむらの目の前に突き付ける。
紙はパソコンからプリントアウトしたもので、そこにはデータの文字情報と共に、眼鏡をかけた、見滝原中学校に転校前の暁美ほむらの顔写真画像が写っていた。
三つ編みに眼鏡。顔のしまりがなく、おどおどと内気そうな表情だ。
ゴルゴは彼女にプリント紙を突き付ける動作と同じように、目の前の相手を視線で切り裂くかのように鋭く見据えながら、なおも厳しく言葉を発する。
「……お前は一体何者だ……?」
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- ほむらの冷たく取り繕われた無表情が動揺に大きく崩れた。
目と口を大きく開いて、突きつけられた過去の自分の写真画像と対峙しながら、喘ぐように口を開く。
「――私のこと……、調べたのね……!? ――」
ゴルゴは続けた。
「お前には訊きたいことが山ほどある……。――いつどうやって魔法少女になった……?
――魔法少女とは何なのだ……? ――そしてこの写真の姿の変わりようは何だ……? これも魔法少女の力なのか……?」
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- ほむらは驚愕の表情でなおも突きつけられたプリント紙を見ていたが、
ゴルゴが質問を発しているうちに少しずつ表に表れた動揺が収まり、激しい息遣いも徐々に穏やかになっていった。
目を閉じて大きく上体が動くほど息を吸い、また吐く。
深呼吸で軽くうつむいた顔を上げ、再びきっとまっすぐゴルゴの顔を見据えたが、その瞳は先ほどまでの動揺がどこかに飛んでいったように、また元の冷たさを取り戻していた。
ほむらは今までの彼との会話とと同じように、またぽつぽつと深い底での水の動きのように踊らずゆっくりと口を開いた。
口調に反映される呼吸の乱れももうない。
「――魔法少女のことについては後で話すわ。でもまずはこっちが先――」
ほむらは片手でふぁさっと顔の横にかかった長い黒髪をかき上げると、目を閉じて小さな声で歌いだした
「こころのよろこび♪ われはうたわん♪ うたいてあかしせし♪ 主のさかえを♪」
(! 讃美歌十三番!)
今度はゴルゴの表情に驚きの亀裂が走った
- 139 :56513:2017/04/30(日) 06:56:29.28 ID:cim9vTGHz
- 「東洋系、身長185センチ、がっちりした体躯。角刈りの頭に濃い眉毛、カミソリのような厳しく冷たい眼。ファイルの通りね」
ボードゲームで反撃の一手を指したかのように、今度は自分が相手に驚きの動揺を与えたことに満足の色をその瞳と口元に一瞬見せたか、
しかしすぐにほむらは目を閉じ、再びふぁさと髪の毛をかき上げた。
「――あなたがゴルゴ13ね。依頼したいことがあるのだけれど」
「……」
ゴルゴは厳しく口元を引き結び、ほむらを厳しく見つめながら黙っている。
ほむらははきょろきょろと店内を見渡すと、他からの視界に入る場所に別の客も店員がいないことを確認すると、手のひらから銀の装飾付きの紫色の宝石のような物をにゅっと出し、
パアァァァァッ!
体全体から発する光と共に、先ほど結界の中で使い魔と魔女と戦った時と同じ、鋭角的なデザインのセーラー服を基調とした魔法少女姿に変身した。
魔法少女に変身したほむらは左腕に装着された盾からその何倍もの容積のある大きなスーツケースをにゅっと引っ張りだし、テーブルの空いたスペースにどんと置く。
ゴルゴの方に中身が見えるように開けてみせたスーツケースの中は札束でいっ ぱいだった。
彼女は冷たくも深く黒い瞳でゴルゴの方を上目遣いに見上げながら落ち着いた言葉を発した。
「ここに10万ドルあるわ。これで鹿目まどかが魔法少女になるのから守ってほしいの」
- 140 :56513:2017/04/30(日) 06:59:55.46 ID:cim9vTGHz
- 見滝原ビジネスホテルの最上階の一室。
シャワーを浴びたゴルゴは備え付けのバスタオルで体を拭いて洗面所から出ると、下着一枚の姿のまま電気の消えた居間のベッドに座り込む。
重みでベッドのスプリングが軋んだ。
シャワーを浴びた熱気を夏の夜の暑さのなかで冷ますにはこの格好が一番よかった。
開け放した窓からひんやりした爽やかな夜気が吹き込んできて、火照った体をほどよく冷ましてくれる。
シュボッ
半ば閉ざされた洗面所の戸から明かりが漏れ出た薄暗い室内にライターの火がきらめき、カポラル葉巻の先に火をつける。
窓から見える見滝原の繁華街の夜景に目をやりながら、ゴルゴは先ほどのほむらとのやり取りを思い出していた。
- 141 :56513:2017/04/30(日) 07:01:07.55 ID:cim9vTGHz
- ――――――――――――――――――――――――――――――――
10万ドルが入ったトランクをゴルゴに開け示してほむらは言う。
「鹿目まどかが魔法少女になるのから守ってほしいの」
ゴルゴは直接それには答えなかった。
「……どこで俺のことを知った……?」
静かで落ち着いた態度だが、眼だけは鋭く、測るように見据えてくるゴルゴに、ほむらは軽く目をしばたいた。
「――……鋭いあなたのことなら察することができるのじゃないかしら。
さっきの私の能力を見たでしょ。時を止める能力。それで、こういったもの
――ほむらは盾に突っ込んだ手から掴み出した拳銃の銃把をちらりとゴルゴに見せてまた中に戻した――
を手に入れたりする時に、一緒にあなたの情報が入ったファイルを偶然目にしたのよ。
主に大きな警察署の署長室や暴力団の組長室なんかでね。警察署ではトップシークレット扱いで、暴力団内部でもあなたの情報は厳重に秘匿されていたわ。
この前、デューク・東郷という名を聞いた時どこかに引っかかりがあって調べ直してみたら案の定だったわ。
この10万ドルはそのため――今あなたに依頼するため――に手に入れてきたというわけ」
「……」
- 142 :56513:2017/04/30(日) 07:02:16.34 ID:cim9vTGHz
- ほむらは再びさっと周囲を見回して一瞬の淡い光とともに魔法少女の変身を解くと、ここに入った時と同じ見滝原中学校の制服姿に戻った。
彼女は続ける。
「――そのことはもういいでしょう。それより先ほどのあなたの戦いぶりを見て確信したわ。あなたなら私の願いをかなえるだけの力があるわ――」
その後、彼女は魔法少女について語り始めた。あの獣のような姿をしたキュゥべえに選ばれた少女が彼と契約して魔法少女になること。
魔法少女になった者は魂が肉体から離れてソウルジェムと呼ばれる物質に取り込まれること。
魔力の使用や負傷、感情の落ち込みによってソウルジェムが濁ること。それを浄化する、魔女が落すグリーフシードのこと。
そして、ソウルジェムが真っ黒に濁った時魔法少女自身が魔女になること。
つまり、今まで彼らが戦ってきた魔女は彼女ら魔法少女自身の成れの果てということになる。
ほむらによるそれらの説明を聞いている間、ゴルゴの頭の中に、依頼者から受け取った彼女の娘の日記の中に書かれていた様々な見知らぬ言葉が去来した。
『ソウルジェム』『グリーフシード』『真っ黒に濁る……』
ただ、ほむらは自分がいかにして魔法少女になったか、これまでどういう戦いを経験してきたのかは語らなかった。
- 143 :56513:2017/04/30(日) 07:05:44.93 ID:cim9vTGHz
- 「……つまり……お前が俺に依頼したいことは、鹿目まどかが魔法少女になるのを阻止することで、
それによって彼女が魔女になる可能性を排除したいというわけだな……?」
「そんなところよ」
二人はじっと見つめ合った。
「……
悪いが……その依頼は受けることができない……」
一瞬大きく目を見開き、息を呑んだほむらだったが、すぐに冷静さを取り戻した。
「それは私が正体を明かさないから?」
ゴルゴはピクリと片方の眉を動かした。
「――そういうことではない……。俺は現在別の依頼を遂行中だ……」
「キュゥべえの抹殺かしら?」
ほむらは身を乗り出して口を挟むが、ゴルゴはそれには答えなかった。じっと鋭い目で見つめ続けたまま、一瞬の間を空けて言葉を続ける。
「……仮に俺が今依頼を受けられる状態だとしても、俺の専門はスナイプ及び敵の殲滅だ……。
誰かを守るなど……、ましてや魔法少女になるのを止めてくれなどというあやふやな依頼を受ける気はない……。
話がそれだけならもう行かせてもらおう……」
ゴルゴはコーヒーを飲み干し、座っていたソファ席から立ち上がろうとしたが、そんな彼に対し、ほむらは慌てる様子も見せず、座ったまま手を差し伸べて声をかけた。
「協力ということではどうかしら?」
「……」
- 144 :56513:2017/04/30(日) 07:07:41.05 ID:cim9vTGHz
- 顔をほむらに向け、テーブルとの隙間のスペースから出ようと横に向けた体を元の正面に戻しはしないものの、浮かせかけた腰を再びソファに沈めたゴルゴ。
「あなたの専門が狙撃および殲滅ならその条件で協力を申し出たいわ。私があなたに協力するのでも、あなたが私に協力するのでもいい。
まどかが魔法少女になろうとする前に、彼女がそうする動機であるところの魔女を全滅させる。まどかに危害を加えようとする魔女を倒す。
そしてもちろん、そもそもまどかを魔法少女にしようとしているキュゥべえを始末するという選択肢もあるわ。
大体あなたも魔法少女や魔女のことをよく知り、キュウべえを抹殺する機会を窺うために、さっきのマミのお願いを聞いてあげたんでしょう。
私も、いえ、私 が一番魔法少女と魔女のことを知り尽くしているわ。そしてなにより私もキュウべえのことを狙っている。これならギブ&テイクでしょう?」
「……」
「それに――」
ほむらは軽く目を閉じ、首を傾げてフッと笑いながらふぁさっと髪をかき上げた。どうやらこの動作が彼女の癖のようだ。
「先ほどマミに言っていたわね。あなたは『借りは返す主義』だって――。さっきの私の借りを返すという形ででも協力してほしいのだけど?」
「……」
ゴルゴの脳裏に、体の寸前まで迫ったお菓子の魔女の薄く鋭い巨大な刃のような牙がよぎった。
「私もあなたに助けられてマミを救うことができたけど、あなたも私の魔法と魔力のおかげで助かったでしょう」
ほむらはゴルゴに向けた顔にふふっといたずらっぽい笑みを浮かべた。
「――本当はこんな風に年上の人を脅すようなことはしたくないのだけれど」
- 145 :56513:2017/04/30(日) 07:08:41.87 ID:cim9vTGHz
- ――――――――――――――――――――――――――――――――
「……」
ゴルゴは立ち上がって、外に向けて開け放された掃き出し窓の前に移動していた。
このビジネスホテルの立地は先ほど彼が後にしてきた繁華街から少し外れた場所に立地しており、夜景を見下ろすには絶好の場所にある。
高所の空気から吹き込んでくる涼しい風を受けながら、色とりどりの輝く照明の粒を見下ろすゴルゴ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
- 146 :56513:2017/04/30(日) 07:10:03.20 ID:cim9vTGHz
- 喫茶店を出た後、ほむらはゴルゴを人気のない路地裏に誘い、再び魔法少女姿に変身すると、ゴルゴに拳銃や手榴弾、サバイバルナイフなど携行可能な武器の数々を渡した。
「できるだけ持っておきなさい。さっきのような魔力切れになったら生身のあなたでは太刀打ちできないわ。
マミがいれば魔力を供給してくれるだろうけど、一人でいるときに魔女や使い魔に襲われたら大変だもの。
それと――あなたの武器もしばらく私に預けてくれたら今のうちに魔力を注入しておいてあげられるのだけれど」
「……」
ゴルゴはいったん見滝原ビジネスホテルの自室に戻ると、茶色の外革張りのアタッシェケースを提げて戻ってきた。
中にはライフル銃が分解されてきれいに収められている。
「M-16……これもデータの通りね。さっきあなたがブルパップ銃に一瞬躊躇したのもわかるわ」
「……」
- 147 :56513:2017/04/30(日) 07:11:02.54 ID:cim9vTGHz
- ほむらはゴルゴが組み立て直したライフルをシュルシュルと盾に収めると、魔法少女の変身を解いた。
「これで全部ね。あとはマミと同じようにあなたの携帯の連絡先を聞いておきたいのだけれど?」
「……」
ゴルゴは懐の内ポケットから携帯電話を取り出した。
「これはプリペイド型携帯かしら? さすが用心深いのね」
「……」
興味深そうにまじまじと見つめるほむらに答えず、ゴルゴは携帯電話を開いて手早く操作すると、先の方を相手に向けて差し出した。
ほむらもそれに応えて自分の携帯電話を取り出す。赤外線通信によって互いの電話番号が交換された。
ほむらはゴルゴと連絡先を交換するとまた携帯電話をスクールバッグの中にしまい、ふぁさと髪をかき上げると、
「さて、もう行くわ。あなたの協力を得られることができて本当に感謝してるわ」
歩き去って行った。
- 148 :56513:2017/04/30(日) 07:13:23.87 ID:cim9vTGHz
- ――――――――――――――――――――――――――――――――
「……」
葉巻の煙を深く肺に吸い込み、また吐きだしてまたたく無数の明かりを見下ろしながらゴルゴは回想する。
――――――――――――――――――――――――――――――――
喫茶店の席を二人揃って立つ前にほむらはあと一つのことを言った。
「――‘ワルプルギスの夜’という魔女がいるの。――空中を高く飛び、自然災害レベルの被害と犠牲を生み起こす最強の魔女よ――」
ワルプルギスの夜――4月30日の夜から5月1日にかけて行われる、魔女の周回サバトの中でも最大規模の物の事だ――、不吉な名前だ。
誰が付けたかわからないが、ほむらの言う通り――彼女の口調ではそれこそ他の魔女たちなど問題にならないという風だった――最強の魔女というなら、まさに相応しい呼び名と言えるだろう。
ほむらは付け加えて言っていた。
「それが一月後に来る」
- 149 :56513:2017/04/30(日) 07:15:00.32 ID:cim9vTGHz
- ――――――――――――――――――――――――――――――――
「……」
ゴルゴはカポラル葉巻を指に挟んだまま、ベッドの前に行き、上に放り出してある携帯電話を手に取ると、放たれる液晶画面の光を顔に浴びながら通話の操作を始めた。
しばしの呼び出し音の後、男の陽気な英語の声が受話部の向こうから届いてくる。
「へい、旦那!」
「ジムか……? 25日以内に揃えてほしいものがある……」
かけ終えたゴルゴは携帯電話をチャッと折りたたみ直し、ベッドの上に投げ捨てた。
下着姿のまま窓の真正面に立ち直したゴルゴの全身に涼しく、心地よい夜気が再び吹き付けてきた。
――第1部完
- 150 :以下、VIPがお送りします:2017/05/01(月) 16:25:57.37 ID:OJHT/yrTW
- 保守
- 151 :以下、VIPがお送りします:2017/05/03(水) 15:55:45.58 ID:KevpXQoz6
- age
- 152 :以下、VIPがお送りします:2017/05/04(木) 02:09:57.22 ID:xQRd4Jhqg
- http://i.imgur.com/8drprzn.png
- 153 :56513:2017/05/04(木) 06:31:49.34 ID:3L+waCblJ
- あ、ありがとうございます
しかしこの第1部(つまりこの立てたスレ分)は終わりました…
その旨書こうとしても連投規制かかったのですが…
第2部以降はいつになるかわかりませぬが頑張ります…
- 154 :以下、VIPがお送りします:2017/05/04(木) 15:48:59.20 ID:9QFwUjLlm
- おつかれさま
- 155 :以下、VIPがお送りします:2017/05/06(土) 05:21:54.32 ID:eA5KWPvRD
- 完結でも暫く残そう
総レス数 155
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