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刑務所長「嫁が囚人で何が悪い!」囚人嫁「おやつ食べたいから牢屋から出してくれない?」

1 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/20(水) 21:16:18.133 ID:NYW8SA3+0.net
― 刑務所 ―

コソ泥(あーあ、俺としたことがムショ暮らしとは、しくじったなぁ……)

ボス「新入り、お前さんは窃盗でもやらかしたな?」

コソ泥「よく分かったっすね! 誰にも話してないのに!」

ボス「こんぐらい出来なきゃ、このムショのボスにはなれねえさ」


所長「おい、牢屋で私語してんじゃねえぞ! 懲罰房にブチ込まれてぇかっ!!!」


コソ泥「こえー……あれがここの所長っすか」

ボス「ああ、元凄腕の犯罪者ハンターで、若くして所長に抜擢されたんだ」

コソ泥「この監獄の国の王様ってわけっすね」

69 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:13:27.688 ID:zBbsnTT80.net
大統領「何か手があるのかね?」

役人「一つだけ」

大統領「どんな手だ?」

役人「首都近郊の刑務所の力を借りるのです」

ザワッ…

「バカな……犯罪者の手を借りるというのか!?」

「そんなことして、何か問題が起きたら、大統領選にますます悪影響が……」

役人「軍や警察を使えば犯行グループを捕えることは可能でしょう」

役人「しかし、ヤケになった敵のテロを誘発し、確実に首都市民に犠牲者が出ます」

役人「市民に犠牲なく犯行グループを押さえられるとしたら、彼らしかいません」

大統領「分かった……。この件、君に一任しよう」

役人「承知しました!」

70 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:17:46.593 ID:zBbsnTT80.net
― 刑務所 ―

役人はすぐさま刑務所を訪問する。

所長「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。視察の日でもないのに御熱心な――」

役人「挨拶はいい。それより、首都で事件が発生した」

所長「爆破テロ……か?」

役人「耳が早いな」

所長「ていうか、聞こえたもんでね。それで? 俺にどうしろと?」

役人「犯行グループは首都中心部のどこかに潜んでいる……が、政府が動けば確実にテロを誘発してしまう」

役人「奴らを刺激せず捜し出せるとすれば、お前達しかいないと判断した」

役人「そこで、お前……いや、この刑務所に正式に仕事を依頼したい」

役人「どうか、助けてくれ」

深々と頭を下げる役人。

所長「…………」

71 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:18:21.899 ID:5lOJBKbCr.net
熱い展開だ

72 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:20:49.669 ID:zBbsnTT80.net
所長「大統領のためか?」

役人「いや、市民のためだ」

所長「頭上げてくれ」

役人「!」

所長「俺は刑務所を私物化する不良所長、囚人たちは犯罪者だ。アンタは頭なんか下げちゃダメだ」

所長「引き受けよう。爆破テロは俺たちが阻止する」

役人「ありがとう……!」ペコッ

所長「いや、だから頭――」

役人「ありがとう、ありがとう、ありがとう」ペコッペコッペコッ

所長(コイツ、やっぱムカつく!)

73 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:24:48.576 ID:zBbsnTT80.net
……

所長「さて……今回の事件、お前はどう見る?」

嫁「劇場の爆破に死人は出ていない。それに、なるべく死人は出さないというスタンスの声明文……」

嫁「かつての私にそっくり」

所長「俺もそう思った」

所長「この事件、“黒衣の女”リスペクトの犯行だろう。つまり首謀者は元スラム民の可能性が高い」

所長「辛いことになるかもしれないが、協力してくれるか?」

嫁「うん、今の私はあなたの嫁だもの」

所長「ありがとう」

74 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:27:42.326 ID:zBbsnTT80.net
所長「――ってわけだ! 事態は一刻を争う!」

所長「囚人から何人か選抜して、爆破テロ犯捜索に協力してもらう」

所長「主だったメンバーは俺と嫁、ボス、凶悪犯、脱獄囚、そしてコソ泥だ!」

嫁「よろしくね」

ボス「おう」

凶悪犯「ハァ!?」

脱獄囚「先日、妹とも再会できましたし、喜んで協力します!」

コソ泥「俺もっすか!?」

所長「これからお前らにはムショの外に出て、テロやパニックを阻止してもらう」

所長「24時間経っても戻ってこなきゃ、俺は自害する。これは嫁ん時のルールと同じだ」

75 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:30:16.455 ID:zBbsnTT80.net
凶悪犯「ちょっと待てや、所長さん」

所長「ん?」

凶悪犯「首輪とかつけねえのか? たとえば、爆薬や発信器がついてるような」

所長「んなもんつけねえよ。これからだだっ広い街中を捜索するってのに、窮屈になっちまうだろ」

凶悪犯「ハァ? 先にいっとくけどな、俺は逃げるぜ。このままムショとおさらばだ」

所長「そうか、なら好きにしな」

凶悪犯「好きに……って。なにいってんだテメェ!」

所長「お前が帰ってこなきゃ、俺の見込み違いってことで、自害するだけだからな」

所長「もし俺に死んで欲しかったら、逃げることをオススメするよ」

76 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:32:27.331 ID:zBbsnTT80.net
凶悪犯「ふざけんなッ!!!」

凶悪犯「アンタが死んだら、残された嫁だとか、部下だとかはどうなる!?」

所長「あぁ?」

凶悪犯「それに逃げた俺が、また殺しをやらかす可能性だってあるんだ!」

凶悪犯「自害自害って、死ねば責任取れると思ってんのかよ!」

所長「別に思ってねえよ」

所長「ていうか、凶悪犯のくせに正論吐いてんじゃねーよ」

凶悪犯「うぐ……!」

凶悪犯「フン……やっぱり俺は逃げないぜ。アンタと決着つけなきゃならねえしな!」

所長「逃げてもいいよ」

凶悪犯「逃げねえよ!」

77 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:36:14.170 ID:zBbsnTT80.net
― 首都・市街地 ―

賑やかな市街。人々は爆破テロのことなど全く知らず、いつも通りの生活を送っている。

ワイワイ… ガヤガヤ… ザワザワ… ガヤガヤ…



ボス「おぉ〜、ここは見晴らしがいいな。人捜しにもってこいだ」

ボス「さて、と……爆破テロの一味を捜すか」

凶悪犯「ボスよぉ……こんな中から一味を捜し出すなんて無理だろ」

ボス「いや……俺は犯罪者を見抜く眼には長けてるからな」

ボス「一人見つければ、そいつに吐かせて、残りをとっつかまえるのも可能だ」

凶悪犯「ホントかよ? エスパーじゃあるまいしよ……」

ボス「任せときなって」

78 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:39:24.714 ID:zBbsnTT80.net
一時間後――

ボス「…………」ジーッ

凶悪犯「ふああ……」



二時間後――

ボス「…………」ジーッ

凶悪犯「見るだけで分かるわけねーって、やっぱ手当たり次第に……」

ボス「……いた」

凶悪犯「えっ」

ボス「あの青年だ……」

凶悪犯「なんてことない奴だけど、本当に爆破テロの一味なのか?」

ボス「俺はこの五年間、ムショで死に物狂いで犯罪者を見極める目を養った……間違いねえ!」

79 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:40:49.263 ID:5lOJBKbCr.net
マジかよ

80 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:43:27.906 ID:zBbsnTT80.net
ボスが目をつけた“標的”に近づく。

ボス「……おい」

青年「なんです?」

ボス「爆破テロなんてやめときな」

青年「!?」ビクッ

青年「――ちっ!」

バキィッ!

ボス「ぐあっ!」

凶悪犯「てめえ、ボスに何しやがる!」

ドゴォッ!

青年「うげぇっ!」ドサッ

凶悪犯「よし、一人確保! こいつに残りの居場所も吐かせてやるぜ!」

ボス「いでで……ナイス。さすが所長も認める腕っぷしだ……」

81 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:46:36.639 ID:zBbsnTT80.net
一方、その頃――

― 首都・路地裏 ―

コソ泥「…………!」


背広男「これでよし。後はあの人からの合図を待つだけ……」


コソ泥(あいつ……! 爆弾を設置してやがる……!)

コソ泥(よーし……!)

82 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:49:05.730 ID:zBbsnTT80.net
タタタタタッ パシッ

コソ泥「爆弾ゲット!」

背広男「あっ!?」

コソ泥「えーっと、所長からもらったスプレーを……」プシュゥゥゥゥゥゥ…

みるみる爆弾が凍結していく。

コソ泥「これでもう、この爆弾は無力化したっす! ざまあっす!」

背広男「しまったぁぁぁ……!」

83 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:51:38.961 ID:zBbsnTT80.net
ある爆破テロ犯――

茶髪「くそっ、どういうことだ!?」

茶髪「軍や警察が動いてる様子はねえのに、連絡の取れない仲間が何人もいやがる!」

茶髪(こうなったら予定より早いけど、爆弾を爆発させてパニックを起こしてやる!)カチッ


ドォォォォォンッ!!!


茶髪(……これでよし!)

84 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:54:50.151 ID:zBbsnTT80.net
市民A「――なんだ、今の音!?」

市民B「爆発だったわ!」

市民C「もしかしてテロなんじゃないか!? 劇場の件ももしかしたら――」

ドヨドヨ… ドヨドヨ…

脱獄囚「皆さん、落ち着いて下さい!」

ザワッ…

脱獄囚「むやみに騒ぐとかえって危険です!」

脱獄囚「避難も脱獄も冷静でなければ上手くいきません! さ、あちらの広場に避難しましょう!」

ゾロゾロ… ゾロゾロ…

脱獄を成功させた冷静さで、パニックを防ぎ市民たちを誘導する。

85 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 00:57:32.755 ID:zBbsnTT80.net
囚人達の活躍は、所長夫婦にも伝わっていた。

所長「さすが俺の見込んだ奴らだ」

所長「ボスと凶悪犯は次々一味を捕まえ、コソ泥は持ち前の身軽さで爆弾を盗みまくり」

所長「脱獄囚はパニックを起こさせないよう市民を避難させてくれてる」

嫁「うん、頼りになるね」

所長「だが、首謀者らしき人物は未だに捕まっていない……」

所長「この状況で、もしお前が首謀者だったらどこを狙う?」

所長「俺だったら、首都中心にある巨大商業ビルなんかを狙うだろうが……」

嫁「そうね、私なら――」

86 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:00:15.452 ID:zBbsnTT80.net
……

黒衣男(どういうことだ……)

黒衣男(仲間達が次々に捕まっている……。パニックも起きていない)

黒衣男(これでは大規模なテロを行うのは、もはや不可能だ……)

黒衣男(政府がどんな手を打ったのか知らないが、俺の負けだということか……)

黒衣男(俺ではやはり姉さんのようにはなれないのか……!)

黒衣男「…………」

黒衣男「かくなる上は――」

87 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:03:26.312 ID:zBbsnTT80.net
― 大統領官邸 ―

大統領を始めとした高級官僚らが集まる、政府の最高機関。

そんな国家の心臓部へ、テロ首謀者“黒衣の男”が、ひっそりと忍び寄っていた。

警備兵A「ん?」

警備兵B「なんだ貴様!」

バキィッ! ドカァッ!

あっさりと蹴り倒される二名の警備。

黒衣男「……しばらく眠ってろ。起きたら官邸の形が変わってるだろうがな」

88 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:05:25.175 ID:zBbsnTT80.net
黒衣男(まだ……まだ終わってはいない!)

黒衣男(ここを爆破してしまえば……!)

黒衣男「――――!」





所長「待ってたぜ。嫁の読み通りだ」

嫁「あなた……だったのね」

待ち受けるは、刑務所が誇る最強夫婦だった。

89 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:06:12.970 ID:zgara5Wdr.net
クライマックスか

90 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:09:28.559 ID:zBbsnTT80.net
黒衣男「……姉さん!」

所長(姉さん? 前話してくれたスラム時代、弟分だった奴か……)

嫁「どうしてこんなことしたの? あなたならスラムを出ても、うまくやっていく才覚があったはず」

嫁「なのに、どうしてこんなバカなことしたの?」

黒衣男「……ふん。復讐さ! 十年前の≪浄化政策≫の復讐をしたかったのさ!」

所長「いーや、違うな」

所長「“黒衣の女”事件の後、首都のテロ対策は強化されている」

所長「誰か協力者がいなきゃ、これほどのことは出来なかったはずだ」

91 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:12:57.942 ID:zBbsnTT80.net
所長「もうじきみんなのお楽しみ大統領選だ。さてはお前、乗せられたな?」

所長「“首都でテロが起これば、政権を奪える。そしたら元スラム民の待遇をよくしてやる”とかよ」

黒衣男「!」ビクッ

所長「ハハハッ、ポーカーできねえタイプだなァ、お前」

所長「そんな約束は守られず、切り捨てられるのがオチだろうに、まんまと利用されちまって」

黒衣男「黙れっ! 俺は俺の意志でテロを起こしたんだ!」

所長「ま、それならそれでいいさ。で、どうする? もうお前の仲間はほとんど捕まえたぞ」

黒衣男「俺一人でもやり遂げてやるさ……官邸を爆破することでなァ!」

所長「残念だが、そりゃ無理だ」

所長「お前は俺がひっ捕らえてやるよ」

92 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:14:52.033 ID:zBbsnTT80.net
黒衣男「…………」サッ

所長「ナイフか……賢明だな。こんなとこで銃や爆弾使ったら、すぐ誰か飛んでくる」

所長「だったら俺は当然……警棒で相手をしよう」

嫁「あなた……」

所長「分かってる。お前の弟分だったんだから、腕は相当なもんだろ」

所長「この緊張感……たまんねえな」ニヤッ

黒衣男「行くぞ!」

一対一の決闘が始まった。

93 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:18:15.338 ID:zBbsnTT80.net
――バサァッ!

所長「……な!?」

服を投げつけることでの目くらまし。

所長「くっ!」

首筋にナイフの刃先が――

所長「あっぶね!」ガキンッ

すかさず警棒で受け止める。

黒衣男「セヤァッ!」ブオンッ

ガキィッ!

体勢が崩れたところに、強烈な回し蹴り。

所長「ぐはぁっ!」ドザッ

94 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:21:11.122 ID:zBbsnTT80.net
嫁「あなた!」

所長「手ェ出すなよ。出したら……離婚だからな」

嫁「ずいぶん強くなったね……」

黒衣男「ああ、姉さんが“黒衣の女”として大暴れしたことは俺とて知っていたが」

黒衣男「俺だって≪浄化政策≫で姉さんと生き別れた後、いくつも修羅場を越えてきた」

黒衣男「俺はもう、姉さんを追いかけてばかりいた俺じゃない」

所長「ふん、ひん曲がった義理の弟は俺がお仕置きしてやらねえとなっ!」

黒衣男「誰が弟だ!」

ガキンッ! ――ヒュバッ!

所長の頬に傷ができる。

所長「……ちっ!」

95 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:23:11.937 ID:zBbsnTT80.net
所長「強いな……“刑務所長”としての俺じゃ勝てねえかもしれねえ」

所長「だったら……久々に“犯罪者ハンター”に戻ったつもりでやらせてもらう」フゥ…

所長「ハアアッ!」ダッ

黒衣男「!」

ブオンッ! ビュオッ! ブオンッ! ドガッ!

血に飢えた猛獣のような苛烈な連続攻撃。

黒衣男「くううっ……!」

ガツッ!

警棒がクリーンヒット。

黒衣男「うあっ……!」ヨロ…

所長「――もらった!」

96 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:25:47.041 ID:zBbsnTT80.net
意識を失いかけた黒衣の男の脳裏に――

黒衣男『本当に……テロを起こせば、スラム民を救ってくれるのだな?』

『ああ、約束しよう。今のままでは君たちの大部分は最底辺の暮らしを強いられ続ける』

『しかし、我々が政権を握れば、君たちを存分に支援してやることができる』

黒衣男『分かった……ただし方法は俺に任せてもらう。それでいいな?』

『ふふふ……期待しているよ』


…………

……


黒衣男(ここで……ここで倒れるわけにはいかないッ!)

97 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:28:51.039 ID:zBbsnTT80.net
ザグゥ……!

所長「あ……?」

思わぬ反撃。

いつの間にか、左手に持ち替えられていたナイフが肩に突き刺さっていた。

所長「ぐあああっ……!」

黒衣男「トドメだッ!」ビュオッ

バキィッ!

さらに回し蹴りによる追い打ち。

嫁「あなたぁっ!」

黒衣男「さあ、次は姉さんだ。仕上げに官邸を爆破――」

98 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:31:15.722 ID:zBbsnTT80.net
所長「待て……勝手に勝負終わらせんじゃねえよ」

所長は踏みとどまっていた。

黒衣男「なんだと……!」

所長「こんくらいで倒れてたら、あのムショの所長は務まらねえ……」

所長「それに――」

所長「義理の弟に……んな大犯罪やらせるわけにゃいかねーよ……」ヨロッ…

黒衣男「まだ、やれるのか……!」

所長「うおりゃああぁぁぁぁぁッ!!!」

所長の気迫に、黒衣の男も後退する。

黒衣男(なんて精神力だ! ならもう一度――)

99 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:33:30.925 ID:zBbsnTT80.net
所長(それを――)

所長「待ってたぜッ!!!」


ゴキィッ!


所長の一撃が、黒衣の男の右肩を砕いた。

黒衣男「ぐおあああああっ……!」

所長「さすが姉弟のように育っただけのことはある……同じクセを持っていたな」

所長「嫁との戦いがなかったら、俺がやられてたかもしんねえ」

黒衣男「くそっ……! ナイフを持ち替える瞬間を……!」

100 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:36:51.887 ID:zBbsnTT80.net
黒衣男「まだ……!」

所長「もうやめとけ」

バキィ!

黒衣男「ぐふっ!」ドザッ

所長「お前の負けだ……大人しく捕まれ。黒幕のことも洗いざらい吐いてもらおうか」

黒衣男「そうは……いかない」バッ

所長「!」

嫁「!」

夫婦の目に飛び込んできたのは、体じゅうに巻かれた爆弾だった。

黒衣男「情報は吐かない……あの世まで持ってくさ」

黒衣男「このスイッチを押せば爆発する……アンタらはとっとと俺から離れろ」

所長「最初から死ぬ覚悟だったってことか……」

101 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:40:34.901 ID:zBbsnTT80.net
所長「なら俺も付き合うぜ」

黒衣男「な、なにをいってる!?」

所長「まだ若いのに一人で死ぬのも寂しいだろ」

所長「それに、このまま自爆したんじゃ、お前いい笑いもんだぞ?」

所長「はるばる首都までやってきて、やったことが劇場爆破と自爆だけじゃなァ」

黒衣男「……黙れ!」

所長「だが……悪名高い、みんなが恐れる刑務所長を道連れにしたんなら伝説になれる」

所長「義理の兄からの餞別だ。ありがたく受け取ってくれや」

黒衣男「頭がおかしいのか、お前!? 姉さん、コイツを説得してくれ!」

102 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:43:22.067 ID:zBbsnTT80.net
嫁「じゃあ私も」スッ

黒衣男「ハァ!?」

嫁「やっと再会できた弟分を独りで死なせるのも忍びないし……」

嫁「愛する夫と爆死っていうのも案外悪くないと思うから」

所長「照れるぜ……」

黒衣男「…………ッ!」

黒衣男(この二人……本気だ。本当に俺と死ぬつもりで――)

黒衣男(なんて奴らだ……敵わない……)

黒衣男「分かったよ……。ここまでされて、アンタらを巻き込むわけにはいかない」

黒衣男「俺は……自爆をやめるよ……」

103 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:46:16.191 ID:zBbsnTT80.net
所長「多分、俺たち地獄行きだよなぁ?」

嫁「うん、間違いないでしょ」

黒衣男「あの……」

所長「もし地獄にも刑務所が会ったら、また所長にしてもらおっかな」

嫁「だったらまた私は嫁になる」

所長「おほっ、マジで?」

嫁「当然でしょ」

黒衣男「もしもし?」

所長「地獄でも楽しくハッピーに暮らそうな!」

嫁「うん、私たちならできる」

黒衣男「人の話を聞けぇぇぇっ!!!」

黒衣男「俺はもう自爆はやめる! だからさっさと俺を捕まえてくれ!」

所長&嫁「え、やめるの!?」

104 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:48:52.746 ID:zBbsnTT80.net
所長「せっかく地獄に落ちる覚悟が出来たんだ。押してくれよ」

嫁「そうよ」

黒衣男「ハァ!? ――おいっ! 危ないって! ……触るな!」

所長「このスイッチか?」

嫁「早く押しちゃって」

黒衣男「バカ! 押すんじゃねえ! ――吹っ飛ぶぞ!」

所長「それじゃ――」

黒衣男「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

ドカァッ! バキィッ!

所長「ぐはっ!」

嫁「いだっ!」

蹴り飛ばされる夫婦。

105 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:50:37.024 ID:zBbsnTT80.net
黒衣男「ハァ、ハァ、ハァ……」

黒衣男「危ないだろっ!!!」

黒衣男「爆発したらどうすんだ! 命を粗末にしやがって……」

嫁「……ごめんなさい」

所長「あーあ、今日はよく凶悪犯に正論吐かれる日だぜ」





こうして所長夫婦と囚人達の活躍で、大規模な爆破テロは防がれた。

106 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:51:17.433 ID:dBIg7rNRr.net
バカ夫婦www

107 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:55:03.125 ID:zBbsnTT80.net
……

ボス「いやぁ〜、年寄りにゃしんどい仕事だった!」

コソ泥「でもちょっと楽しかったっす! 俺らもまだまだ捨てたもんじゃないっすね!」

脱獄囚「多少爆発騒ぎはありましたが、犠牲者が出なくて何よりです……」

所長「おう、みんなご苦労! しばらくは多少メシを多めにしてやるよ!」

所長「……それとお前、逃げなかったのか」

凶悪犯「ふん」

所長「今からでも逃げるか?」

凶悪犯「逃げねえよ。シャバよりムショにいる方がよっぽど退屈しねえからな」

ボス「ハッハッハ、そりゃ一理あるな!」

コソ泥「刑務所としちゃどうなんすかねえ、それ」

108 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 01:59:52.632 ID:zBbsnTT80.net
― 刑務所 ―

役人「ご苦労だったな。後日、大統領から正式に謝礼が出るだろう」

役人「黒衣の男は全て白状した。やはり、反大統領派の面々が奴を利用していたようだ」

役人「半ば脅しも含んだ甘言でな。まったく……ヘドが出る」

所長「こっから先はアンタらの仕事だ。頼むぜ」

役人「ああ、任せておけ。徹底的に捜査し、追及してやる」

役人「今回の件、結果としてはほとんど犠牲なく、国家の膿をあぶり出すことができた」

役人「あの首謀者にはむしろ感謝するべき部分もある」

所長「だったらさ……元スラム民の待遇について、ちょいと考えてやってくれねえか?」

役人「もちろんだ。彼らは≪浄化政策≫の被害者でもあるからな」

所長「それとさ、首謀者のあいつ……できればうちの刑務所に欲しいんだけど」

役人「……考えておく」

109 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 02:02:48.228 ID:zBbsnTT80.net
役人「……さて帰るか」

所長「もう帰るの? せっかくだし、晩飯ぐらい一緒に食べていっても……」

役人「誰が食うか!」

役人「ああ、それとこれだけは言っておく」

役人「いつかこの刑務所は必ず取り潰してやる!」

所長「あーはいはい。楽しみにしてまーす」



コソ泥「ハハハ、あの役人も相変わらずっすね〜」

ボス「しかし、奴は優秀だ。この国でも数少ない、我が身を省みず国のために動けるタイプの男だ」

コソ泥「へぇ〜、そうなんすか。ちょっと意外っす」

110 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 02:04:27.823 ID:zBbsnTT80.net
ボス「≪浄化政策≫をやらかした大臣、奴の不正を暴き、失脚に追い込んだのもあいつだからな」

コソ泥「マジっすか!」

ボス「ま、内部告発じみたことしたせいで、周囲から恐れられ出世の芽は断たれちまったが」

コソ泥「だから、こんなムショの視察をやらされてるんすねえ」

コソ泥「あ、そういや、失脚した治安大臣ってどこにいるんすか? もう死んだんすか?」

ボス「いや、生きてるよ」

コソ泥「へぇ〜? ひっそりと田舎暮らしでもしてるんすか?」

ボス「今、お前さんの目の前にいるよ」

コソ泥「……え!?」

ボス「さぁーって、クソでもひってくるか」

コソ泥「…………」

コソ泥(なんて刑務所だ、ここは……)

111 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 02:08:07.851 ID:zBbsnTT80.net
五年前、役人の手で全てを暴かれた大臣は極秘裏に逮捕され、刑務所で嫁と会っていた。

元大臣『あの政策は過ちだった……。もはや悔いても悔い切れぬ』

元大臣『君のことは聞いた。スラム出身としてさぞかし私を恨んでることだろう……殺してくれ』

嫁『力を失ったあなたに復讐してもつまらないし、そんなつもりないわ』

元大臣『なんだと?』

嫁『それよりあなた、大臣まで出世したんだから、のし上がるのはお手のものでしょ?』

嫁『だからもし、≪浄化政策≫のことを少しは反省してるんだったら……』

嫁『死に物狂いで囚人のボスになって、主人を少しでも助けてあげて』

元大臣『それで……いいのか』

嫁『うん、今のままじゃあの人過労死しちゃうもの』



ボス「…………」

ボス(残る人生、私は囚人達のボスとしてここで過ごす……)

ボス(それが私に出来る唯一の償い……。いや、彼女に示された“道”なのだから)

112 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 02:09:03.676 ID:dBIg7rNRr.net
ボス…

113 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 02:11:17.268 ID:zBbsnTT80.net
夜――

二人きりになった夫婦。

嫁「あなた、お疲れ」

所長「お互いにな。もしお前の弟分がこのムショに入ったら、さらに賑やかになるなぁ」

嫁「ふふっ、楽しみ」

所長「……にしても、今日はマジで疲れた。お前の弟分が手強かったのもあるが――」

所長「特に凶悪犯にいわれた一言……グサッと心に響いたよ」


『自害自害って、死ねば責任取れると思ってんのかよ!』


所長「俺はやっぱりまだ死にたがってんのかなぁ……」

114 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 02:13:37.708 ID:zBbsnTT80.net
所長「犯罪者ハンター時代、俺は何人もの犯罪者を捕えてきた」

所長「そん中にゃ、当然同情できるような奴、逃がしてやりたくなるような奴もいた」

所長「だが、俺はそういう奴らだって容赦なく叩きのめした。金と名誉のために……」

所長「だから、ハンターをやめた俺は、囚人達のために仕事をしようって刑務所仕事を選んだが」

所長「今でも……たまに夢を見るんだ」

所長「赤ん坊のミルク欲しさに盗みを働いたオヤジをボコボコにする夢……」

所長「まだガキみたいな奴を押さえつけて、拷問まがいの尋問をかます夢……」

嫁「あなた」

嫁「私にだけは……私にだけは甘えていいんだからね?」

所長「うん……」

抱き締め合う二人。



…………

……

115 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 02:15:39.534 ID:zBbsnTT80.net
しばらくして――

― 刑務所 ―

コソ泥「え〜〜〜〜〜っ!? 赤ちゃんが出来たんすかァ!?」

所長「おう」

嫁「うん」

弟分「おめでとう、姉さん!」

ボス「こりゃめでたい! 刑務所をあげて祝福しねえとなぁ!」

脱獄囚「二人のお子さんなら、きっといい子に育ちますよ!」

凶悪犯「きっと父親以上に凶暴で、母親以上に冷酷なガキになるだろうさ……ククッ」

所長「なんだとコラァ!」

嫁「やめて、二人とも」

116 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 02:17:18.893 ID:zBbsnTT80.net
所長「――ってわけだ!」

所長「今から子供部屋を用意したいから、どこかの牢屋から囚人追い出して改装しねえとな!」

囚人達「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」

嫁「ふふっ……あなたったら」

コソ泥「私物化もここまでいくと、もうなんもいえねっす!」

ボス「まったくだぜ」







― 終 ―

117 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 02:17:48.753 ID:zBbsnTT80.net
以上で完結となります
ありがとうございました

118 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2019/02/21(木) 02:23:06.388 ID:dBIg7rNRr.net

このムショの行く末が楽しみだ

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