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女「こう寒いと、手を握りたくなってしまうね」

1 :以下、VIPがお送りします:2022/01/07(金) 23:43:11.56 ID:F6C+/WMl1
男「握るな」

女「ふふ、それはボクの勝手さ」

男「俺の都合も考えろ」

女「じゃあ君の息子で我慢しよう」

男「余計意味がわからん」

112 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 21:05:09.98 ID:SgQ63/wl2
男「……」

女「えっと、おしまい」

 ニコッと笑う顔は。

 いつもと同じ顔だった。

 しかし。

 耳がとんでもないくらいに、赤い。

113 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 21:11:05.99 ID:SgQ63/wl2
女「ボクの秘密でした」

男「……」

 ヤツはなんて言った?

 『君のことが好きです』

 そう聴こえたような気がする。

男「ちょっと、俺もお手洗いに行っていいか」

女「うん、行ってらっしゃい」

114 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 21:19:31.27 ID:SgQ63/wl2
 トイレなんか正直どうでもいい。

 少しだけ、離れたかっただけだ。

男「……」

 部屋から出て、廊下。

 扉を後ろ手で閉めて、ゆっくりと息をする。

 ひんやりとした空気が、肺を刺激する。

115 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 21:21:52.63 ID:SgQ63/wl2
男「冷えるな……」

 両の手を擦り合わせる。

 全ての動作が上の空だ。

男「……」

 部屋との寒暖差でより冷える。

男「……」

116 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 21:30:22.33 ID:SgQ63/wl2
 わかってる。

 今俺は、他の事を考えてなんとか理性を保っている状態が。

 目の前の考えなければならないことを、完全に拒否している。

 何もこんなタイミングで言う必要はないというか。

 いや、待て。

男「そもそもそんな深い意味は無いんじゃないか……?」

 そうだ、そうに違いない。

 俺だってアイツのことが好きだ。

 それくらいなら、普通に言えるよな。

117 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 21:44:20.10 ID:SgQ63/wl2
 踵を返し、俺は自分の部屋に入ろうとする。

 ドアノブに手をかけて、押す。

女「うわっ」

 扉の向こうから声が聞こえた。

女「ぶつかるところだった」

男「な、なんでドアの前にいたんだよ」

女「少し遅いなと思って」

 時計を見てみると。

 出た時間から10分ほど経過していた。

118 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 21:50:01.65 ID:SgQ63/wl2
男「すまん、だいぶ経ってたのか」

女「うん。お腹壊してるのかと」

男「大丈夫だ」

女「そっか」

 そう言って、ヤツは定位置に座った。

 俺も、恐る恐るさっきと同じ場所に座る。

119 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 21:56:16.35 ID:SgQ63/wl2
男「……」

女「……」

男「……」

女「……」

男「……」

女「……」

男「……」

 いや。

 なんか喋れよ。

120 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:00:06.61 ID:SgQ63/wl2
 こうなったら。

 俺から話すしかあるまい。

男「さっきの秘密だが」

女「うん」

男「どういうことだ」

女「君のことが好きだってことだよ」

 いや、それはわかる。

121 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:02:26.69 ID:SgQ63/wl2
男「どういう意味だ」

女「君のことが好きだって意味だよ」

 くそ、同じことしか言わん。

男「それなら俺だって言える、俺だってお前のことが好きだ」

女「ほんと?」

 なんでそんな目をキラキラさせるんだ。

 なんなんだ。

122 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:05:51.12 ID:SgQ63/wl2
女「嬉しいけれど、きっとボクの好きとは違うよ」

男「?」

女「ボクの好きは、大好きだから」

男「……」

 大小の違いだろそれは。

女「えっと……だから……」

 もじもじしてやがる。

女「付き合って欲しいんだ」

123 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:10:42.94 ID:SgQ63/wl2
女「……そういう、好きだから」

男「……」

 そういう、好き。

女「えっと、ボクらしくないのは百も承知なのだけれど」

 ああ。

 らしくない、しおらしい顔してるぞ。

124 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:27:22.57 ID:SgQ63/wl2
男「俺は、付き合うってのがよくわからんな」

 ヤツから視線を外して、そう言った。

女「ボクも」

男「だろうな」

女「だからこそ、経験してみたいんだ」

125 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:30:54.96 ID:SgQ63/wl2
女「……」

男「……」

女「ごめん、やっぱりやめよう」

 ヤツは立ち上がって、

女「ボクの気の迷いだった」

 「かもしれない」

 と、ヤツは続けて言った。

126 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:32:59.34 ID:SgQ63/wl2
女「帰るよ」

男「……」

女「また明日……あ、明日もおやすみか」

男「そうだな」

女「……また、明後日」

 そう言って。

 足早に部屋を出て行った。

127 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:41:26.94 ID:SgQ63/wl2
男「……ふぅ」

 静かになる。

 さっきまでも静かではあったが。

 圧倒的な沈黙だ。

男「……どうしろというんだ」

 ベッドに倒れ込む。

 あんな表情をしたヤツは初めてだ。

128 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:43:10.32 ID:SgQ63/wl2
 部屋を出るまでの笑顔は。

 初めて見るくらいに。

 偽物の笑顔だった。

男「……」

 目を閉じると。

 ヤツのその表情ばかりが浮かんだ。

129 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:47:38.96 ID:SgQ63/wl2
男「……ん」

 目を開けて気づく。

男「寝てたか」

 窓が真っ暗になっていることに気づく。

男「よっと」

 上体を起こして、窓の外を見る。

 ヤツの家が見える。

男「……あれ?」

 ヤツの部屋から明かりがついていない。

130 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:51:00.62 ID:SgQ63/wl2
男「帰ったんじゃなかった」

 呟いて、少し跳ねた髪を撫でる。

男「……部屋にいないだけだよな」

 きっとそうだろう。

 そう、思い込むことにする。

131 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:54:36.09 ID:SgQ63/wl2
>>130
×男「帰ったんじゃなかった」
〇男「帰ったんじゃなかったか……?」

132 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:55:48.36 ID:SgQ63/wl2
 ベッドに戻って仰向けに寝転ぶ。

男「……」

 寝るつもりではない。

 モヤモヤした気持ちを落ち着かせているだけだ。

 そのつもりだったのだが。

 全然晴れる気がしない。

133 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 22:59:13.08 ID:SgQ63/wl2
男「あークソ!」

 ベッドから立ち上がり、俺は上着を羽織った。

 そして、部屋を勢いよく飛び出した。

 どこに行くかは聞くな。

 もう動き出したもんは止まれん。

134 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:03:26.20 ID:SgQ63/wl2
 ヤツがこの時間に部屋にいないなんておかしい。

 間違いなく、家には帰ってない。

男「どこ行きやがったんだ」

 いつもより歩くスピードは速い。

 息も、荒くなる。

135 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:07:12.33 ID:SgQ63/wl2
 学校に行っても門は閉まっていた。

 今日はどうやら部活もないらしい。

 ここにいないとなると。

 別の場所にいるはず。

 ただヤツはあまり人のいる場所を好まない。

 長年の付き合いだ。

 それくらいわかる。

136 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:09:36.29 ID:SgQ63/wl2
 ヤツのことは、中学の頃から知っている。

 隣の家に越してきて、気づけば一緒にいた。

 ほとんどいつも一緒にいた。

 そんなヤツがどこに行くかくらい。

 俺には簡単にわかる。

137 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:14:17.07 ID:SgQ63/wl2
男「……おい」

女「!」

 少し遠い公園のベンチ。

 ヤツはそこにポツンと座っていた。

女「どうして……」

男「心配させるなよ」

 ベンチにヤツと少しだけ距離を置いて座った。

138 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:15:17.09 ID:SgQ63/wl2
女「ごめん」

男「謝らんでいい」

 調子が狂う。

男「……」

女「……」

男「色々考えてみたんだが」

女「何を?」

 聞くなよ。わかるだろ。

139 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:16:44.96 ID:SgQ63/wl2
男「お前と付き合う話」

女「それはもう無しでいいよ」

男「なんで」

女「ボクの好きと君の好きは、違うみたいだから」

男「……」

女「さっき、好きって言ってくれて嬉しかった。でもそれはきっと友達としての好きだ」

 だから。

女「君とボクは付き合えない」

140 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:18:13.17 ID:SgQ63/wl2
男「……勝手に話進めるなよ」

女「でも、本当のことだから」

男「……」

 コイツはどうやら勘違いをしているようだ。

男「言っておくけどな」

 俺は。

男「お前が思っている以上に、お前のことが好きなんだぞ」

141 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:20:47.32 ID:SgQ63/wl2
女「え……」

男「好きじゃなかったら、ここに来るか?」

女「……わからないよ」

男「お前言ったよな、また明後日って」

 コクリと素直に頷く。

男「俺は、またすぐにお前に会いたくなっちまったんだよ」

142 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:22:19.77 ID:SgQ63/wl2
女「……」

男「部屋を出る時の顔が気に入らなかった」

 好きな人の悲しい顔は見たくない。

男「俺はお前に、いつも笑ってて欲しいんだ」

 俺のせいで笑えないなら。

 それごとぶっ壊すしかない。

143 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:23:17.47 ID:SgQ63/wl2
男「だから、悲しい顔するな」

女「……」

男「……」

 勢い任せの告白。

 言葉も全然決まってないし。

 これははたして告白と言えるのかも少し謎だ。

144 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:24:28.29 ID:SgQ63/wl2
女「ふふっ」

男「?」

女「実に君らしい台詞だね」

男「なんだよそれ」

 ヤツに笑顔が戻った。

 しかし、目からは。

 涙を浮かべていた。

145 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:26:04.19 ID:SgQ63/wl2
男「お前、そんな薄着でここまで来たのか?」

女「うん。君の家からそのままここに来たからね」

 ってことは。

 結構時間経ってんじゃねえか。

女「だから君に気づかれないようにしていたけれど」

 身体が小刻みに震えだす。

女「とっても寒いね」

 そりゃそうだろ!!

146 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:27:29.38 ID:SgQ63/wl2
男「何やってんだよ……ほら」

女「なんだい?」

男「俺の羽織れ。少しはマシだろ」

女「君は?」

男「さっきまで羽織ってたんだ、大丈夫」

女「……ありがとう」

 上着を脱いだ瞬間。

 めちゃくちゃ寒いことに気づく。

147 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:28:19.79 ID:SgQ63/wl2
女「君のぬくもりだ」

 変な言い方するな。

 ……と思ったけど。

 別に、変でもないか。

 さっきまで着てたわけだしな。

男「帰るぞ」

女「あ、待って」

 今度はなんだ。

148 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:29:42.82 ID:SgQ63/wl2
女「まだ少し寒いかも」

男「おいおい、もう何も持ってきてないぞ」

女「うん、わかってる」

 わかってるなら言うな。

女「でもさ」

男「あん?」

女「こう寒いと、手を握りたくなってしまうね」

149 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:32:11.25 ID:SgQ63/wl2
男「……」

女「いい?」

男「好きにしろ」

女「ありがとう」

 そう言って。

 ヤツは俺の手を握った。

女「あったかい」

男「つめてぇ」

女「あはは、仕方ないよ」

150 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:33:54.85 ID:SgQ63/wl2
女「付き合うって、どんな感じなんだろうね」

男「……さあな」

女「これから経験していくのが楽しみだ」

男「好奇心旺盛だな」

女「うん。だって、これからも君とずっと一緒にいれるんだから」

 クサい言葉がペラペラ出てくるな。

 でもまあ。

 今日という寒い日には、ちょうど良いかもな。

 そんな、寒い日のある日のことだった。

 
 END

151 :以下、VIPがお送りします:2022/01/10(月) 23:34:31.30 ID:SgQ63/wl2
終わりです。

三連休中に書き切れてよかった……乙でした。

152 :四八歳:2022/01/11(火) 00:21:05.25
お疲れ様でした、今から読みます

153 :以下、VIPがお送りします:2022/01/11(火) 18:23:22.84 ID:39s1CHV+S
すてき。

154 :ぜろちゃん:2022/01/12(水) 09:26:31.89
ほしゅ〜

155 :以下、VIPがお送りします:2022/01/12(水) 21:07:09.98 ID:Po1xcr+Xw
懐かしいものを見た

156 :ワイ氏:2022/01/12(水) 21:58:29.07 ID:hDCiqtCID
良スレ

157 :ぜろちゃん:2022/01/13(木) 05:34:13.49
今日も保守、木曜日です

158 :以下、VIPがお送りします:2022/01/14(金) 09:30:11.94 ID:DL7G4lJyH
良かったで

159 :以下、VIPがお送りします:2022/01/15(土) 17:30:10.50 ID:JA8nAV9NG
近年稀に見る良スレ

160 :四八歳:2022/01/17(月) 07:44:19.85
素晴らしかった
保守

161 :以下、VIPがお送りします:2022/01/17(月) 16:27:56.98 ID:w/nJzIsxA
ほう

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