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ζ(゚ー゚*ζAmmo→Re!!のようです

1 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:08:34.573 ID:Llew1w250.net
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2 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:10:58.951 ID:Llew1w250.net
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クラフト山脈を堺に、世界は東と西に分けられる。
文明的な東か、それとも、あらゆる意味で自然的な西か。
もしも力がないのであれば、東側の世界への旅行をお勧めする。
東の世界にはジュスティアがある。

イルトリアのある西の世界は、弱肉強食の世界なのだから。

                       ――GTB旅行代理店の店長、ウッティ・シュランバー

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September 3rd AM04:07

九月だというのに、ヨルロッパ地方の海沿いに吹く風は例年通り凍てつく程の寒さだった。
吐き出した息が全て凍り付くのではないかと錯覚するほどの空気は、水平線から浮かび上がる太陽の光とは真逆だった。
夏の太陽の力をもってしても、この地方の気温は和らぐことを知らない。
日陰になりやすい場所には雪が疎らに残ったままで、この地方が冬になればどれだけ冷えるのか、想像に難くない。

ただ、このヨルロッパ地方の気温ですら、ベルリナー海を越えた北に広がる凍てつく大地に住む人々にとっては、暖かなものに感じるだろう。
極北の大地にある唯一の街“ホワナイト”は、一年中夜が訪れない、世界で最も気温の低い白夜の街だ。
太陽はあるが気温が常にマイナスであるために野菜が実らず、食事は魚か肉が主となる。
そのため、月に数回、荒波を越えて訪れる輸送船が運んでくる野菜の缶詰とビタミン剤がホワナイトにいる人間にとっての命綱になっていた。

輸送船で運ばれてくる大きなコンテナには、食料品や生活必需品が詰まっており、その中身は世界各地からの輸出品がジャーゲンで荷下ろしされ、ホワナイトのためだけに整理された物だ。
それが列車を使って“ギルドの都”ラヴニカに輸送され、更にそこで追加の物資を積み込み、最終的にはポルタレーナという港湾に運ばれて輸出される。
ポルタレーナは街ではなく、そこを利用する人間達によって整備されている“どこの街にも属さない港”であり、カニ漁船の集合場所でもある。
カニ漁の時期になれば世界各地から一攫千金を夢見た者たちが集まり、小さな港が一つの街の様に姿を変える。

食品を販売する者、トレーラーを改造した移動娼館を運転してくる者、船の修理や装置を販売する者などが出稼ぎに来るのだ。
カニ漁は十一月に解禁になるため、出稼ぎ労働者たちはそれよりも一か月前には現地入りし、それぞれの場所を決めるのが習わしとなっている。
無論、それよりも早くに港に行って場所を取る行為は一切禁止されておらず、むしろその辺りのルールはそこを利用する者たちの間で勝手に決まって行くのだ。
ポルタレーナに近いラヴニカもその時期になると職人を派遣するのだが、あくまでも設備の整備と電力の提供だけで、物販などの商売には手出しをしない。

祭りの様に慌ただしかったカニ漁の終わりにはそれぞれが売り上げの一部を使い、港の整備費に充てるのも、彼らが自発的に考え出したルールの一つであった。
この奇妙な関係はずっと昔から受け継がれ続け、今日に至っている。
その空気が病みつきになった人間達が、また翌年もポルタレーナを訪れるのである。

(,,゚,_ア゚)「さぁて、今年はどれくらい稼げるかな」

(-゚ぺ-)「一万ドルは稼ぎたいねぇ」

3 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:11:50 ID:Llew1w250.net
乾き、凍り付いた大地を穏やかな速度で走る大型トラックのハンドルを握るアダム・デルトロと、その妻シャチエはポルタレーナを目指す出稼ぎ労働者の一人だった。
普段は遥か西にある“食い倒れの街”ホールバイトでバーガーショップを経営する夫婦は、年に一度、このカニ漁で屋台を出すことを楽しみにしていた。
彼らが住むホールバイトは食事に関する熱意と肥満率が世界屈指の街であり、食事や料理に費やす金額は破滅的と言ってもいいほどだ。
デルトロ夫婦の店も多分に漏れずその破滅的な店であり、売り上げのほとんどが彼らの飲食と店の材料費で消えてしまう。

いわゆる自転車操業で店を成り立たせ続けて、すでに十年以上が経過しているのは、彼らの経営手腕が優れているのか、それとも運がいいだけなのかは誰にも分からない。
鉄道都市“エライジャクレイグ”が敷いたレールは陸路で移動する人間にとって、この上のない道標になる。
この道を進めば間違いなく人のいる街に辿り着けるだけでなく、安全も約束されているため、線路の脇に轍が絶えることは無い。
エライジャクレイグの線路に付き添うようにして、凍結した地面に道なき道が生まれていく様子が、アダムは好きだった。

荒涼とした砂と岩、そして雪と雑草の広がる景色の中に変化を見出すのは至難の業だ。
だが逆に、変化を見出すことが出来れば、そこには何かがあるということ。
例えば彼らのトラックが走る道がアスファルトで舗装されたものに変わったり、あるいは、視線の先に明らかな人工物が見えてきた時がそうだ。
ラヴニカの街並みが大分大きく見えてきた時、シャチエが声を上げた。

(-゚ぺ-)「……あれ、何?」

(,,゚,_ア゚)「へ?」

シャチエが指さした先に、光る何かがいた。
小さなそれは瞬く間に接近し、彼らの横を通り過ぎた。
音が、やや遅れて聞こえてきた。
一瞬でバックミラーの点となったそれは、もう彼の視界にはいなかった。

土煙だけが、まるで足跡の様に残されていたが、海風がすぐに全てを消し去ってしまう。

(,,゚,_ア゚)「……バイク、だったな」

(-゚ぺ-)「ねぇ、今のバイク、三人ぐらい乗ってなかった?」

(,,゚,_ア゚)「はははっ、んなわけあるか。
     二人だよ。
     三人も乗ってあれだけの速度で走れるバイクなんて、あるもんか」

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4 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:13:08 ID:Llew1w250.net
同日 AM04:11

山から下りてきた冷気は涼しい朝を町に運び、長閑な朝を静かに告げる。
朝の空気を嗅ぎ取った動物たちが、のそりと目を覚ます。
こうして、クラフト山脈の南にあるカントリーデンバーの夏の朝は、周囲を取り囲む山々に住む虫と動物の大合唱から始まる。
カントリーデンバーの人口は百人以下で、並ぶ家屋の間隔は非常に広い。

世界でも有数の自給率を誇るカントリーデンバーの朝は早く、動物たちの次に人間達が目を覚ます。
農具を持つ者、家畜に餌をやる者、搾乳をする者。
この町で働かない人間は身体的、体力的な理由を除けば一人としておらず、老人や子供も体が動くのであれば朝から畑仕事に精を出す。
町にある学校は小さく、様々な学年の子供たちが朝の仕事を終えてから一つの校舎に通っていた。

酪農業を営む家の子供もいれば、当然、農業を営む家の子供もいた。
どの家も昔からこの土地に住む家系であり、ほぼ全員が幼馴染のようなものだった。
その中に、つい最近引っ越してきたばかりの家の人間がいた。
その家はこの町では珍しく、自給自足の輪にまだ入っていなかった。

町に越してくる人間の目的は自給自足に憧れているか、田舎生活を送りたいと思う者たちが大半だ。
彼らが越してきた目的は怪我の療養とだけ周囲には伝わっており、和を乱す存在ではないため、特に不当な扱いを受けているということはなかった。
三人の兄妹の中で学校に通っているのは、一番年下の少女だけだ。
残った兄弟は主に家で小さな菜園を試行錯誤して整え、この町の生活に馴染もうと努力をしていた。

朝から庭の土を耕すクルーカットの若い男は、この涼しい時間帯にできる限り肉体労働を済ませておきたかった。

(´<_`n)「ふぅ……」

額に浮かんだ汗を、首にかけたタオルで拭う。
いくら涼しい時間帯とは言っても、体を動かせば自ずと汗は出る。
広大な庭を耕す作業を一人で黙々とこなし、溜息を吐きながらも男は充実していた。
不自由な体になった兄の世話をすることも、小学生の妹の世話をすることも、全く苦に感じていない。

フィンガーファイブ社に勤めていたころとはまるで労働の内容が違う。
こうして畑を作ろうと鍬を振り下ろしている間、男は自分が生きていることを実感し、充実感を味わうことが出来ていた。
この町では人と人とが助け合い、足りないものを補い合いながら生きている。
その生き方は男が理想とするものであり、これからの世界に必要なものだと感じていた。

風が体を洗い流すように吹き付ける。
涼しい風が心地よい。
都会と違って澄んだ空気の中で動く贅沢。
失ったものを考えるよりも、今はこうして得られたものを楽しむことが大切なのだと、男は考えを改めていた。

内藤財団から配布されたラジオから聞こえる世界のニュースに耳を傾けつつ、オットー・スコッチグレインは決意を新たに、鍬を振り上げたのであった。

5 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:13:48 ID:Llew1w250.net
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           ( ;; ;: )  ⌒ヽ
      ___ノ  ノ⌒)  .;;:.;.)
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一⌒)                         `゙´           ̄ ̄      \.:ヽ
::.:、::.`ヽ_     _.ィ´ `ヽ.                                ヽ .:V
ー' ̄ ̄´ _,..-'''"     `ー-、_              脚本・監督・総指揮・原案
_,,.;:-−''"´.. .. .: . :. : :.. : .:: ヽ  総合プロデューサー・アソシエイトプロデューサー・制作担当
.. . . .: .: . :. :.:.:___ .: .: .:         \         【ID:KrI9Lnn70】
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  __/|__:/ ..:〉−.:;/:: .: . . .   \     "'''- .._                  l i; l; |
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同日 AM04:33

凍てつくような風を切り裂きながら、その大型バイクは線路の上を猛スピードで駆けている。
次第に速度を落とし、バイクは線路から離れ、舗装されていない道路へと降りた。
乗車している人間は三人いたが、誰もその衝撃に体を揺らすことは無かった。
電子制御されたサスペンションが車体の角度や速度を考慮して衝撃を吸収するように設計されており、姿勢制御装置が絶妙なバランスを調節しているからだ。

大型の猛禽類を彷彿とさせる姿を持つそのバイクの性能は、間違いなくこの世界で最高の物だった。
“理想”の名を冠し、全てのバイクの頂点に立つように設計された旧世代の発明品。
現存する車体に現役で乗っている人間は今、この世界に一組の旅人しかいなかった。
世界で唯一、そのハンドルを握る女性は、ベルリナー海に目を向けた。

凪ぐことを知らない海には小さな漁船が浮かび、浮かんできた太陽の光で乱反射する水面に写る小さな影絵のようになっていた。
車体を傾け、彼女はバイクを海の方に走らせる。
静かに、しかし素早くギアを変え、速度を落とす。
ギアを変えた時の音はまるで聞こえず、エンジンブレーキによる急激な速度減退もなかった。

速度は穏やかに落とされ、正面からの風が和らぐ。
彼女の目的地は小さな港町、ヴォルデモールだ。
ラヴニカに近く、尚且つ、毎年カニ漁の時期に姿を現すポルタレーナにも近いその町は漁業で成り立つ漁師の町だ。
漁師たちは皆、太陽よりも早く海に出て昼前には家に帰り、夜明け前に漁に出るという規則的な生活を送っている。

従って、その町が活気づくのは必然的に朝になるのだ。
パッセンジャーシートには、赤毛の女性が座っていた。
上品に淹れた紅茶を彷彿とさせる髪と瑠璃色の瞳。
その女性は右肩を骨折していたが、ギプスも外れ、完治まで二週間ほどと診断を受けていた。

6 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:15:20 ID:Llew1w250.net
左手は運転手の女性に、そして右手は二人の間に座る少年の肩に添えられていた。
二人の女性に挟まれた少年は風から守られ、心地よい暖かさに耐えられず、眠りについていた。
少年と運転手の女性はベルトで繋がれ、万が一にも転落することは無いよう、気をつけられている。
女性たちは少年が眠っていることに気づいており、ヘルメットにつけたインカムのチャンネルを調節し、二人だけで会話をしていた。

ζ(゚ー゚*ζ「確か、ヴィンスに行ったことがあるんだったわね。
      海路で行ったの?」

それは運転手、デレシアの言葉だ。
パッセンジャーシートで周囲の景色に目を向けるヒート・オロラ・レッドウィングは、肯定の言葉から始めた。

ノパ?゚)「あぁ、昔に家族とな。
    ただ、あんまり記憶に残ってないんだ。
    確かヴィンスの先にイルトリアがあるんだろ?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、普通の人たちは陸路でしか行けない場所よ。
      海運業の人たちは船で行けるけど、基本的に軍港だから観光船は停泊できないのよ」

ノパ?゚)「オアシズはどうなんだ?
    停泊しないのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「オアシズはその先にあるイゴリアス、って街に停まるの。
      そこから陸路で行くのよ。
      イゴリアスはイルトリアから軍事関係の要素を抜いたものだと思えばいいわ」

イルトリアから西に向かうと、比較的大きな街がある。
その街は漁業などを主な産業としており、他の地域にある港町と似た生活を送っている。
ただし、そこに住むのはイルトリアで引退した軍人たちであり、名目上は別の街ということになっているが実質的には同じ街なのだ。
軍需産業を生業とするイルトリアでの生活には常に力と活力が求められ、老後は静かに過ごしたいという人間のための場所が必要だった。

そこでかつての市長が近場に別の街を作り、イルトリアでの生活を終えた人間達にとっての保養所のような街が出来上がったのである。
恨みを買うことの多いイルトリア軍人が退役後に改名し、素性を隠すのと同じように、彼らには安息の地が必要なのだ。
イルトリア人が引退後に移住する街の第一位である背景には、そのような歴史的な事情があるのだった。
歴史的事情を知る人間はあまり多くはないが、イルトリアとの強いつながりは比較的知られていることだった。

ノパ?゚)「しかし流石に海風が冷たいな」

防寒性能と防風性能の高い服を着ているが、隙間から入り込む風は防げない。
ディの風防性能をもってしても、横から吹き付けてくる風はどうしようもないのである。

ζ(゚ー゚*ζ「横殴りの風はどうしようもないからね。
      正面からの風はだいぶ当たらないでしょ?」

ノパ?゚)「あぁ、びっくりするぐらいな。
    そういや、デレシアはホワナイトに行ったことはあるのか?」

水平線の果てにある氷結の街、白夜の街。
ホワナイトを観光地として訪れる人間は極めて稀であり、一年を通して十人もいない程だ。
ベルリナー海の果てに見える白い筋が、全て、氷で出来た極北の地なのである。

7 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:15:44 ID:qL34i8eM0.net
支援

8 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:17:29 ID:Llew1w250.net
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、あるわよ。
      あそこにはペンギンとか色々な動物がいてね、面白い所よ」

ノパ?゚)「ずーっと気になってたんだけどよ、ホワナイトには昔から人がいたのか?
    それとも、人が移っただけなのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、いい質問ね。
      あそこにいる人たちは移っただけで、人は住んでいなかったわ。
      人が住むには厳しすぎる環境なの、あの街は。
      だから今、氷の中に施設を作ろうってしているみたいね」

何せ植物が育たない土地である以上、人間にとって食糧問題は極めて深刻な土地だ。
極寒の土地にある数少ない食料はほとんどが分厚い氷の下を生活の拠点としており、人間が介入できる場所ではない。
それでも、その土地に住もうとする学者たちの情熱は計り知れないものがある。
何度かビニールハウスによる温室野菜製造を試みていたが、その全てが強風と雪によってとん挫し、その代案として今動いているのが氷床を削った氷中施設の開発だ。

これまで足の下にある地面としてだけ認識していた氷に、風と自然災害、そして野生動物の脅威から確実に身を守れるという利点を見出したのである。
地中の街は現存しており、厳しい環境下でも快適に過ごせることが証明されている。
だがそれは岩や地面を掘削したものであり、太陽光によって溶ける危険性のある素材ではない。

ノパ?゚)「氷の中に、ねぇ。
    それだけ分厚い氷なのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、新しい規格で言うなら3キロはあるはずよ。
      最大値は確か、私の知る限りだと5キロね」

ノハ;゚?゚)「そんなに分厚いのか……
    ほとんど山だな」

ζ(゚ー゚*ζ「だからこそ、掘削して建物にしようと思ったんでしょうね」

それを可能にする装備があり、尚且つその後のことまで考えていれば極めて面白い発想だ。
ただ、氷床を削るということは自分たちの頭上がいつ崩れ落ちるかも分からない危険を孕んでいるだけでなく、その出入口が何かの拍子に凍り付くリスクも考えなければならない。
十分な準備をしなければ、豪華な遺体安置所になるだけだ。

ノパ?゚)「しっかし、デレシアは何でも知ってるな。
    旅をしてどれくらいになるんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「ううん、知らないことだらけよ。
      だって、どれくらい旅をしているのかなんて忘れちゃったもの」

そして二人は秘密を共有した少女の様に、静かに笑い合う。
過ぎ去る景色が、夜明けを迎えて間もない空と共にその色彩を変えていく。
瑠璃色の空から青空へと切り替わるまでの僅かな時間。
月の輪郭が青空に溶けつつある幻想的な風景を眺めて、デレシアは目を細めた。

ζ(゚ー゚*ζ「奇麗ね」

ノパー゚)「あぁ、いい景色だ」

9 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:20:36.975 ID:Llew1w250.net
空に浮かぶ雲が流れ、形を変え、色を変える。
夏を象徴する大きな入道雲が、空の彼方に悠然と佇んでいる。
気温は冬だが、鼻孔を通り抜ける空気は確かに夏のそれだ。
不思議と気分が高揚する、力に満ちた香りのする空気。

どれだけ旅をしても、この空気の気持ちよさは決して飽きることは無い。
彼女は人間が空気で季節を察知できる理由を詳しく知らないが、あまり深く考えたこともないし、考えるつもりもない。
ヒートに言った通り、デレシアには知らないことがいくらでもある。
しかし、知らないことが悪い事でないことは知っている。

理由を考えてもどうしようもないことは、やはり、どうしようもないのだから。

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ー'゙´    ァ=ーっ   ,x<´  ¢_¢  `>x   ヽ.ヽ編集・録音・テキストエフェクトデザイン
      // 广´ /〃↑゙ヽ l÷l 〃♂ヽ {\__ノ ⌒^゙ヽ  撮影監督・美術監督
      //  } ∩/ @乂__,.彡,.」⊥L乂__,.ノ__\    美術設定・ビジュアルコーディネート
    /   U } `¨丁/      `丶.丁¨´{      /
    {       |ニニニ7    〃⌒ヽ.   マニニ|x-‐─《        【ID:KrI9Lnn70】
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同日 AM05:06

陸路を使って輸送をするのは、何も列車に限った話ではない。
列車はエライジャクレイグの所属でなければ使えないため、そうでない輸送業者はトラックを使うしかない。
長距離輸送トラックは一台で走ることはなく、基本的に最低でも三台が一緒に移動することになっていた。
これは道中にトラックを襲う強盗に対抗するためと、万が一トラブルが発生した場合に助け合えるようにという工夫だった。

同じ企業のトラックがグループを組むのが普通ではあるが、必要であれば同業他社とグループを組んで走ることもある。
トラックドライバーの連携力は企業間のそれよりもはるかに強く、極めて密な関係が作られていた。
その日、ラヴニカを出発したトラックの一団は十台にもなる大きなグループだった。
彼らが運ぶのは精密機器の類であり、強盗によって奪われたり、事故で配送できないことがあってはならない商品だった。

無線機を使って連絡を取り合い、適宜休憩などをしつつも、運転手はラジオや好みの音楽を聴いてそれぞれの時間を満喫している。
ラヴニカで復元された自動操縦補助装置の試運転もかねて構成された一団は、全く同じ速度と車間を保ったまま、しばらくの間舗装された道路を進む。
彼らの納品先はイルトリアであり、ここから先は、長く険しい道のりになることが分かり切っている。
運転で使うストレスを少しでも軽減するために導入された装置は、彼らの想像以上の効果を発揮していた。

細かなブレーキ操作もいらず、情報が登録されている車輌の加減速を検知して自動でその操作を行うため、運転手は緊急時の操作だけを気にすればいいのだ。
長い一直線の道路を走る場合は仮眠することも出来るため、ドライバーたちは先頭の位置を順番で交代し、目的地を目指す。
彼らはダイナーの駐車場で朝食を済ませようと無線で相談し、現在位置から最も近く、そして最も広い駐車場を持つ店に行くことになった。
この時間帯に先頭を走るのは、熟練ドライバーのポットラック・ポイフルだ。

何度も通った道ではあるが、彼の視線は油断なく周囲に向けられていた。
輸送トラックを狙う人間はいつどこから来るのか分からない。
こちらが大所帯であったとしても、命知らずのならず者は躊躇なく襲ってくる。
積み荷に損害を与えでもすれば、彼らはまとめて職を失うだけでなく、膨大な借金を背負うことになるだろう。

10 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:23:53 ID:Llew1w250.net
短機関銃やライフル弾までならこのトラックは耐えられるが、それ以上の火力を用意されればひとたまりもない。
特に、タイヤへの攻撃は避けなければならない。
トラック本体の装甲は厚く硬いが、タイヤは強化繊維を使ったゴムであるため、爆破されたり軸を地面から吹き飛ばされたりすれば、それだけで走行不可能になる。
走れなくなったトラックは格好の標的となり、運転席に賊が押し入ればそれまでだ。

運転席から手が伸ばせる範囲には、合計で三丁の銃が隠されているが、どこまで抵抗できるのかはその時の運次第だ。

从´_ゝ从「ダイナーまであと数分だ。
     駐車は自分たちで頼むぞ」

無線機にそう呼びかけると、次々と返事が返ってくる。
雪と地面とがまばらに見える道を進み、やがて、店の数十倍はあろうかという広大な駐車場を持つダイナーが見えてきた。
陸路を使う人間達をメインターゲットに据えた経営をするそのダイナーは、数十年以上の歴史を持つ老舗中の老舗だ。
昔から店が続くためには実績と実力が伴わなければならないが、そのダイナー“MVF”はどちらも満たしている優良店だった。

店の売りは何と言っても、食べ応えのある料理そのものだ。
パンケーキもサンドイッチも、その全てが長距離運転をする人間達の空腹を満たすに足る量でありつつも、しっかりとした味付けがされている。
特に有名なのが、運転中でも食べられることを前提として作られたボリュームのあるサンドイッチだ。
これは手ごろなバゲットに薄くスライスしたローストビーフを何層にも重ね、その上に薄切りにしたタマネギときゅうりのピクルス、程よく溶けたプロセスチーズを挟んだものだ。

そして、それをコンソメと野菜で作った特製のスープに浸し、防水性の高い紙で包み、紙コップに入れて提供するのである。
パンがスープでふやけているため、口の中が渇くことなく、そしてストレスなくサンドイッチを食べることが出来る一品だ。
それを紙コップに入れることで、手を汚すことなく、更にトラックに備え付けられているドリンクホルダーに置くこともでき、更には滴るスープやはみ出した具材は全てカップの中に落ちる。
そのため、最後はコップを傾けてまるでスープを飲む様に全てを食べつくすことが出来るのだ。

ラヴニカで店を出していた夫婦が始めた店は、この“ディップ”というサンドイッチ一つで運送業の人間達の心を鷲掴みにした。
ポットラックもそのサンドイッチに魅せられた一人だ。
MVFの看板が見え、彼は減速し、補助装置のスイッチを切る。
全員が余裕をもって駐車し、ポットラックだけがトラックを降りた。

彼が車を離れている間、駐車場にいる仲間たちが彼のトラックを見張ることになっている。
寒さで震える手でダイナーの戸を開くと、外の空気とはまるで異なる温かな空気で満たされていた。
独特の甘く柔らかな香りの中、席には疎らに客が座り、談笑している。
持ち帰り注文用の札を掲げ、大声で注文をする。

从´_ゝ从「ディップのラージを十個と、コーヒーを同じだけ頼む!!」

給仕がポットラックを一瞥して頷き、その注文を厨房に向けて繰り返した。
注文した品が来るまでの間、レジの傍に置かれていた新聞を手に取って広げる。
ラヴニカでの騒動の鎮静化とその後の動きについての記事が一面の半分に大きく書かれ、その下には同じぐらいの大きさで別の記事が載っていた。

从´_ゝ从「へぇ、ジュスティアがねぇ」

ここから遠く離れた街のニュースの見出しにそんな声を出した時、彼の横に立つ男が現れた。

(=゚д゚)「ディップのラージを二つとコーヒー二つ頼むラギ!!」

頬に傷を持つ男の声は混雑する店内でも非常に良く通る、腹から出された声をしていた。
低く、まるで獣の咆哮のように重圧的な声は男らしさに溢れ、力強い。
叫ばずにそれだけの声量を出す男は、まるで教師か歌手のようだった。
頬に走る深い傷跡が手負いの獣のように男を見せている。

11 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:26:07 ID:Llew1w250.net
(=゚д゚)「あんちゃん、トラックの運転手ラギか?」

声をかけられ、ポットラックは思わず彼の事を見つめていることに気が付いた。

从´_ゝ从「あぁ、そうだ。
     あんたは?」

(=゚д゚)「ヒッチハイカーラギ」

从´_ゝ从「こんなところでヒッチハイク?
     捕まらねぇだろ」

観光地ではない上に、車の利用率もこの周辺は極めて低い。
車旅をする人間もいることにはいるが、よほどの物好きぐらいしかおらず、それも八月の頭から半ばにかけてしかいない。
言わずもがな、治安の悪さと気温の厳しさ、悪路が影響しているため、基本的には皆列車を使うのである。
ヒッチハイカーに扮した強盗も世の中にはいるため、仮に見たとしても、関わり合いにならないのが普通だ。

(=゚д゚)「ダメラギね。
   これがボインのねーちゃんなら、入れ食いだったんだろうけど、男が二人ってのがネックみたいラギ」

从´_ゝ从「おいおい、そっちの趣味があるのかよ」

(=゚д゚)「いや、そういう趣味はねぇラギ。
   それが悪いとは言わねぇけどな」

この言葉に、ポットラックは少し心を開いた。
同性愛者である彼は、そのことを誰にも話したことがない。
例え親しい間柄の人間であっても、正直に話せば差別を受けるのは目に見えている。
一般的に同性愛は嫌悪されるもので、肩身の狭い思いをしなければならないのがこの時代なのだ。

他人と違うというハンデ。
一般から逸しているという異端。
こうして運送業をしているのは金が溜まること、そして何よりも人との接点が最小で済むということが理由だった。
人と関わり合いになることが増えれば、彼は自分の気持ちを誤魔化しきれなくなってしまう。

それは彼が学校で、そして家庭で学んだ処世術であり、生き方だった。

(=゚д゚)「昔の知り合いがストーンウォールにいてな、ま、他人に迷惑をかけないんならどうでもいいラギよ」

同性愛者にとっての楽園、ストーンウォール。
そこに知り合いがいるならば、その知り合いは間違いなく同性愛者だ。
この男は同性愛者に対して、何も偏見を持っていないのだろうか。

从´_ゝ从「あんた、変わってるな」

(=゚д゚)「よく言われるラギ」

从´_ゝ从「ちなみに、どこを目指してるんだ?」

(=゚д゚)「イルトリアラギ」

从´_ゝ从「よりにもよってイルトリアか。
     観光、じゃあねぇな」

12 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:32:00.382 ID:Llew1w250.net
イルトリアに観光に行く人間は真っ当な人間ではない。
間違いなく頭のネジが外れているか、堅気ではないはずだ。

(=゚д゚)「あぁ、やることがあってな。
    だがこのペースじゃ、間に合わなそうラギね」

ポットラックが注文したメニューが大きな袋に入れて運ばれてきた。
運転手相手に商売をしている店員はこちらが何も言わずとも、コーヒーとディップを小分けの袋に入れてくれていた。
そして、隣の男にも紙袋が二つ手渡される。

从´_ゝ从「なぁ、あんたさえよければこの袋持つの手伝ってくれないか?」

その声掛けは、ある種の期待を込めたものだった。
確実な理由は分からないが、この男は悪人ではない。
それ故に、ポットラックはこの男との出会いをここで終わりにするべきではないと判断したのである。

(=゚д゚)「あぁ、いいラギよ。
    外の連中に持っていくんだろ?」

从´_ゝ从「助かるよ。
     流石のこの人数分は持てなくてな」

(=゚д゚)「なぁに、どうせ手は空いているから気にするな。
    もう一人は外にいるから、そいつにも持たせるラギ」

从´_ゝ从「そのお礼と言っちゃなんだが、俺のトラックに乗ってくか?
     納品先がイルトリアなんだ」

(=゚д゚)「マジかよ、そいつは助かるラギ」

从´_ゝ从「ポットラック・ポイフルだ、よろしく頼む」

ポットラックは握手を求め、右手を差し出した。
男は笑みを浮かべ、握手に応じてくれた。
力強く握手を交わし、男が名乗った。

(=゚д゚)「トラギコ・マウンテンライトだ。
    腕っぷしはいいから、ま、用心棒と思ってくれればいいラギよ」

幸か不幸か、このトラギコの言葉の意味を理解するのはその日の夜のことであった。

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: : : : : : : : : : :|: o: : : : : : : : |: : : : : : :_。s≦二二ー      /.
     総作画監督・脳内キャラクターデザイン・グラフィックデザイン【ID:KrI9Lnn70】
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13 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:34:55.916 ID:Llew1w250.net
同日 AM05:13

三人を乗せたバイクが、ヴォルデモールの入り口に到着した時、すでに市場は活気づいていた。
その様子を見なくても、港の方から聞こえてくる大きな声が何よりの証拠だ。
漁に出ていた船のいくつかが荷下ろしを始めているのが見え、競りもすでに始まっているのが分かる。
身を切り裂くような強く冷たい海風とは逆に、太陽の光は徐々に強くなりつつある。

ひと際強い風が吹くと、二人の女性の間で眠っていた少年、ブーンは身をよじらせた。

(∪-ω-)「おー」

ノパ听)「ブーン、起きな。
    着いたぞ」

ヒートに肩を揺らされ、ブーンがゆっくりと目を覚ました。

(∪´ω`)「お」

ノパー゚)「おはよう、ブーン」

ζ(^ー^*ζ「おはよう、ブーンちゃん。
       よく眠れたかしら?」

(∪*´ω`)゛「あ……はい、眠れましたお」

気恥ずかしそうにしつつ、ブーンはそう答えた。
三人はバイクを降り、市場に向かって歩き出した。
ヴォルデモールの朝市は漁師と地元の人間達で賑わいを見せ、市場に卸されたばかりの新鮮な魚介類が店先に並び、威勢のいい売り子の声が市場に響き渡る。
何度も朝市を見たが、ブーンにとってはその光景が色褪せることは無く、視線を四方に巡らせては好奇心にローブの下にある尻尾が揺れるのであった。

ζ(゚ー゚*ζ「朝ごはんは何か食べたいものはある?
      ここでは新鮮なお魚が並ぶから、海鮮丼とか美味しいわよ。
      生の魚をご飯の上に乗せて、特製のソースがかかったやつよ。
      お味噌汁もついてくるわよ」

新鮮な魚は漁港の特権だ。
それを贅沢に使った海鮮丼は大抵の港町で販売されており、その味は期待を裏切ることはほとんどない。

(∪*´ω`)゛「海鮮丼、食べたいですお」

周囲に目を向けていたヒートが、屋台の看板を見て声を上げた。

ノパー゚)「おっ、フィッシュアンドチップスもあるんだな。
    ここのは美味いのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「ラヴニカのはああいう味だけど、ここのはまたちょっと違う味なのよ。
      油と魚が新鮮で、魚に下味をしみ込ませているから塩も酢もかけなくて美味しいの」

ノパ听)「へぇ、新鮮な油がここで採れるのか?」

14 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:35:18.965 ID:Llew1w250.net
ヒートの疑問はもっともだ。
この辺りでは植物性の油を採るのが難しく、実際にそれは高級品の類になっている。
そのため、使用される油は動物性の物が主になるのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ここの油は海で取れた動物性の油よ。
      シャチとかクジラとか、何ならクジラ肉の料理も美味しいわよ」

クジラなどの大型の哺乳類は貴重なたんぱく源であり、様々な資源をもたらす重要な生物だ。
捕鯨を生業にする漁師はベルリナー海に面した漁村の中でも、捕鯨船を持ち、それをメンテナンスできる街に限られる。
ラヴニカから近い街はほとんどが捕鯨を行える設備を持ち、その船で漁に出ることは漁師たちにとって一種のステータスになっている。
一頭持ち帰るだけで十分な食料と資源が手に入り、加工した品を売ることで現金も手に入る。

大型の銛を打ち出す捕鯨砲を操ることは特に名誉とされ、どれだけ素早く、そして確実に対象を仕留めるのかが実力とされている。

(∪*´ω`)「クジラ……」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、美味しいわよ、ここのクジラ肉は。
      この先にある定食屋に行けば、美味しい海鮮丼もクジラ肉も食べられるわ。
      そのお店のご主人が元捕鯨漁の偉い人で、獲れた肉をすぐに分けてもらえるのよ」

ノパー゚)「いいね、上等なクジラ肉は久しぶりだ」

声の飛び交う市場を進み、デレシア達は人の間を泳ぐように進む。
店先に並ぶ色とりどり、大小さまざまな魚に思わず目移りしてしまう。
それは他の二人も同じで、ヒートとブーンは変わった魚を見る度に感想を言い合っている。
色鮮やかな魚もいれば、角を持ったものや牙を持ったもの、一目で魚とは分からない奇妙な形をした魚もいる。

(∪´ω`)「お?」

ノパ听)「お?」

ζ(゚、゚*ζ「ん?」

二人が同時に不思議な声を出して立ち止まり、ある店の前に置かれている魚の切り身と札を見ていた。
デレシアも立ち止まってそれを見ると、そこには警告文が書かれていた。

ノパ听)「死に至る恐れがありますが、美味です。
     自己責任で食べてください、ってどういうこった?」

ζ(゚ー゚*ζ「あらあら……バラムツね、これ」

(∪´ω`)「バラムツ?」

ζ(゚ー゚*ζ「人間には消化できない類の油を持つ魚よ。
      私は食べたことないけど、美味しいらしいわね。
      でも、絶対にお勧めはしないわ」

その理由を今語ることはしないが、魚介類にはこういった面白さがある。
陸上生物と比べて、海の生物はその多くが謎に包まれている。
未発見の生物も多く、研究者たちは日々新たな発見と新たな謎に一喜一憂し、前文明が残した情報を更新していた。
ホワナイトの研究に最も出資をしている学者たちの街“テルコナレーラ”では、生物に限らず様々な知識と情報が収集され、解明されている。

いつの時代でも、成し遂げようとする人間のその気持ちこそが、何よりも強い原動力として人を動かすのだ。

15 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:37:08.715 ID:Llew1w250.net
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     /   人 : : :  -=ニ二 ̄}川 >、  `''ー 一    ∠斗匕/´ ̄ ̄ ̄`Y: :{/: /
     {   { 厂      . : { /⌒\          .イ///: : : .____   人: :\/
     ':   ∨} _: : : : 二二/ /   | \_   -=≦⌒\く_: : /: : : : : : :_:): :\: :\
            撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】
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同日 AM06:10

打刻カードを専用の機械に通し、夏用の薄いスーツを着た男は自分に与えられた席に着いた。
机の上は奇麗に整頓され、無駄なものはほとんど置かれていない。
出勤途中に購入したアイスコーヒーを一口飲み、一息つく。
机上に置かれていた文字の入力と出力が行える機械を起動し、男は昨日途中まで入力していた書類の続きを書き始めた。

仕事をしている間、他の席の人間達と違って、彼は世間話をすることなく仕事に没頭していた。
愛想が悪いわけではなく、この職場での仕事にまだ慣れていないわけでもなかった。
男に与えられた仕事は極めて単純だが、彼にしかできない仕事であり、その仕事には集中力が必要だった。
その点、彼には集中力における才能があった。

一つのことに没頭し、それを最後まで貫き通す圧倒的な集中力。
それは、彼の仕事においては明確なまでの才能だった。

「頑張りすぎるなよ」

通りすがりに同僚がそう言って、彼の机に茶菓子をいくつか置いて去った。
男は礼を言って、ありがたく茶菓子を口にした。
砂糖漬けのオレンジピールをほろ苦いチョコレートでコーティングした菓子は、コーヒーと抜群に相性が良かった。
この職場の人間は、彼がこれまでに務めてきた職場の人間とは違い、ぶっきらぼうに親切な人間が多かった。

しばらくすると、彼が待っていた人物が現れた。

<ヽ`∀´>「悪い悪い、待ったニダ?」

細く鋭い目をした壮年の男、ニダー・スベヌは彼の世話係のようなものだった。
背はそこまで高くはないが、その分黒いポロシャツの下にある体つきはしっかりとしており、歳を感じさせない若々しさがある。
同僚への面倒見がよく、仕事も出来るために人望が厚い人間だ。
彼と共に働いて過ごした時間は短いが、彼ほど優れた上司は見たことがなかった。

周囲へのフォローもそうだが、何より、上司として罵倒ではなく的確な指示やアドバイスを与えるのだ。

(-@∀@)「いえいえ、今来たところですよ」

そして眼鏡をかけた男、アサピー・ポストマンは初任給で買った眼鏡のブリッジを指で上げつつ、ゆっくりと席を立った。
彼は今、ジュスティア警察で働くことになっていた。
ジュスティア警察に連行され、聴取を受けた彼は勤めていたモーニングスター新聞を解雇になり、その場で警察への就職が決定したのであった。
臨時採用の身分ではあるが、給与も待遇も文句はない。

16 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:39:13 ID:Llew1w250.net
当初、アサピーは厳しい取り調べを受けるかと覚悟をしていたが、その通りにはならなかった。
拘束され、彼は最初に警察の取調室に連れていかれた。
そこで島で起きたことを話すと、すぐにホテルに案内された。
監視付きではあったが、彼らの姿も気配もアサピーには関知することも出来なかったのは言うまでもない。

豪華な三食が提供されるだけでなく、更には広々とした個室に広い湯船まであり、サービスも完ぺきだった。
間違いなく彼がこれまでの人生で過ごした中で最高のホテルだった。
二日後、連れて行かれたのは市長室だった。
市長室の椅子に座る男を、アサピーは知っていた。

正義の都ジュスティア市を統べる、正義の体現者。
事実上、ジュスティアにおける全ての組織の最高責任者。

爪'ー`)『やぁ、君がアサピー・ポストマンだね?
    うちのトラギコが世話になった。
    市長の、フォックス・ジャラン・スリウァヤだ』

それからコーヒーを馳走になり、世間話とアサピーのこれまでの仕事についての賛辞があった。
ジュスティア市長は笑みと共に、アサピーが解雇された旨を伝えた。

爪'ー`)『非常に言いづらいんだが、君はモーニングスター社を解雇処分にされてしまったよ』

(;-@∀@)『でえぇぇっ?!』

爪'ー`)『言っておくが、我々は一切圧力をかけていない。
    確かな情報筋によれば、内藤財団からの圧力だよ。
    あのティンカーベルで君が襲われたその日に、君は内藤財団からの指示で解雇になったんだ』

(;-@∀@)『そ、そんな……』

モーニングスター社は大手の新聞社だが、その運営にはスポンサーがいなければ成り立たない部分が多い。
世界最大の企業である内藤財団からの圧力があれば、従業員を一人解雇することなど痛くもかゆくもないはずだ。
ティンカーベル支社の従業員が彼一人を残し、全員殺されてしまったことを考えれば、適当な理由を付けて解雇するのは容易だろう。

爪'ー`)『君は多くを知りすぎた。
     そして、君が知っていることは多くの人間が知らないことだ。
     内藤財団にとって、君は邪魔な存在のようだね。
     何か心当たりはあるのかな?』

言うまでもなく、フォックスはアサピーが考えるよりも遥かに優れた人間だ。
アサピーやトラギコが想定している敵組織の概要について、出てきた情報からすでに答えを導き出しているのだろる。
確認するまでもなく、島で事件を起こした組織の背後に内藤財団の影があることを突き止めているはずだ。

(;-@∀@)『えっと……』

ただし、トラギコも危惧していたが、この街にも組織の息のかかった人間がいないとは断言できない。
実際問題、名のあるジュスティア出身者が組織の中にいるのだ。
それを考えれば、市長が組織の人間ではないという根拠がない。
情報を知りすぎた人間が消されるのは、フィクションの世界だけでなく、どの世界においても存在する問題なのだ。

爪'ー`)『君が警戒するのは当然のことだ。
    これについてはまた今度話をしよう。
    さて、本題なんだが、しばらくの間は警察で働いてもらいたいんだ。
    いきなり正規採用、とは出来ないが、それ相応の待遇で迎え入れたい』

17 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:39:45 ID:Llew1w250.net
(;-@∀@)『ぼ、僕がですか?』

爪'ー`)『君は、写真に命をかけられる人間だ。
    その力をぜひ捜査に活かしてもらいたい。
    警察には優秀な人材が多くいるが、写真一枚にそこまで情熱をかけられる人間はいないんだ。
    一枚の写真がもたらす影響力を知らないからさ』

(;-@∀@)『でも僕は、トラギコさんと一緒に――』

爪'ー`)『あぁ、彼はスノー・ピアサーで出張に行ってもらった。
    ヨルロッパ地方にね』

頭で理解するまでに数秒を要し、アサピーが口にしたのは、恥も何もないそのままの感想だった。

(;-@∀@)『僕を置いて?!』

爪'ー`)『彼を恨まないであげてくれ。
     自由人に見えるが、彼は結構多忙でね。
     特に優秀な人材だから、どうしても動いてもらわないといけなかったんだ』

(;-@∀@)『はぁ…… それで、僕に一体どんな仕事を望んでいるので?』

爪'ー`)『写真を撮ってもらいたいのさ。
     ただ、それだけだよ』

彼に出来る仕事はそれだけであり、それを活かせるのであれば構わなかった。
トラギコとの合流はいつになるか分からないが、ジュスティアで暮らすのも悪くはない。
そして、アサピーはしばらくの間ジュスティアで生計を立てていくことになったのであった。

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                   =ニニニニニ=
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                  =ニニニニニニニ=
                 |ニニニニニニニニ}
              丿ニニニニニニニニ|
              〈ニニニニニ,ニニニニ{
            ヽニニニ/ニニニニヘ
              丶ニニ/ニニニニニ|_
                 > ´ニニニニニニニ=
          _‐=ニ二二二二二二二二二二二ニ=‐_
       _‐=ニ二二二二二二二二二二二二二二二二=‐_
     ≦二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二二≧
    /二二二二二二二二二二二二制作協力【全てのブーン系読者・作者の皆さん】
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同日 AM06:11

男は森の中で古びたオフロードバイクを降り、積んでいた荷物を無言で降ろし始めた。
同乗者も同行者もいない、一人きりの荷ほどきは淡々と、そして的確な動線で素早く行われた。
無駄のない動きは機械じみた精確さを秘めており、男の手足は彼が思った通りに最短の動線で動いていた。
小型のテントがくぼみのある斜面に設営され、その上に目の細かい森林迷彩のネットがかぶせられ、木の枝や木の葉が括りつけられる。

18 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:41:01 ID:Llew1w250.net
偽装掩蔽壕のような姿となったテントの中にはバイクも、そして他の荷物も全てが収納され、小さいながらも立派な拠点と化した。
登山客も山菜取りの人間も、猟師さえも寄り付かない山中に建てられたその拠点は、狩りをするためのものだった。
男はライフルをテント内に持ち込んでおり、設営が終わると同時に僅かな光の中で整備を始めていた。
そのライフルは、明らかに獣を狩るための物ではなかった。

高倍率のスコープには反射防止のレンズカバーが装着され、本体には黒い塗装面を隠すために偽装用の布が巻かれている。
獣相手であればここまでの偽装は不要だが、何よりもそのライフル自体が最初から獣を相手にしていないのだと如実に物語っている。
それは細部に改造の施された対物ライフル、チェイタックM200だった。
ドラムマガジンには50発の特注品の銃弾が込められ、ライフルの銃身は通常よりも長く、そして狭く設計されている。

全ての部品が吟味され、取り替えられたそのライフルはラヴニカで最高の銃匠が手掛けた専用のカスタム品だ。
この世に一挺しか存在せず、同じ品は一度として作られていない逸品。
最大有効射程は5000メートルにも及び、その威力は防弾仕様の鉄板でさえ貫通する程だ。
少なくとも、獣以上の何かを殺すのでなければこれほどの改造は不要だろう。

事実、男は獣を狩りに来たのではなかった。
男は人間を狩りに来ていた。
用意したライフルは三種類。
このテントに置かれたライフルはその中でも最大の物であり、他のライフルはまた別の用途のために用意した彼の愛銃だった。

夏の山に巣くう如何なる獣でも、彼ほど恐ろしい生物はいないだろう。
姿の見えない場所から確実に標的を仕留めるその男は、淡々と準備を進める。
彼の頭にあるのは一つの考えだった。
全ては。

そう、全ては――

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                     Ammo→Re!!のようです
                     Ammo for Remnant!!編

                序章【Remnants of dream-夢の残滓-】

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19 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:41:36 ID:Llew1w250.net
同日 AM06:29

朝食後に街の見学と食料の買い出しを終えた三人は、駐車していたバイク――ディ――の元へと戻った。
荷物を積み直し、ヘルメットを被ったところで、デレシアが悪戯っぽく微笑んだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、ブーンちゃん。
      ディに“ただいま”って、言ってあげてくれるかしら?」






(∪´ω`)「お? ディ、ただいまだお」






その言葉の直後、ディのエンジンが低い音を立てて始動した。
そして――











(#゚;;-゚)「お帰りなさい、ブーン」











――その時のブーンの喜び様は、彼女が予想した以上のものだった。

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               これは、力が世界を動かす時代の物語
      This is the story about the world where the force can change everything...

                 そして、新たな旅の始まりである
              And it is the beginning of new Ammo→Re!!


                序章【Remnants of dream-夢の残滓-】 了

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20 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:47:14 ID:CbtR+BTO0.net
簡単なあらすじ教えてくれ

21 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:49:04 ID:Llew1w250.net
>>20
ポストアポカリプス
おねショタの旅
暗躍する組織の影
なんかやんやあって今に至る

というところです

22 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:50:27 ID:Llew1w250.net
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列車は確かに便利だ。
だが、必要がない限り俺はトラックを選ぶ。
列車は寄り道できないが、トラックは好きなように動けるからだ。
この仕事の醍醐味は、寄り道にあるんだ。

                               レオルロイド運輸社長 ルーズ・サントス

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September 3rd AM06:30

世界最高のバイクを目指して作られた“アイディール”の持つ特徴の一つに、自己学習型の人工知能が搭載されている点がある。
自ら思考し、乗り手の癖や走っている路面の情報などを元に最適な設定を随時行うだけでなく、対話が出来るようにも設計されていた。
だがその機能は、必ずしも全てのバイク乗りに歓迎される機能ではないため、販売時にはオプションとして別売りされた機能だった。
人工知能と人間との対話という夢物語のような機能は多くのバイク乗りに望まれ、実現したものだ。

当初はネットワークを用いた情報の提供などが主だったが、搭載されている人工知能は設計者の想像を超えて、遥かに優秀だった。
会話と情報が蓄積されるにつれ、アイディールはその乗り手を本人以上に理解する存在へと昇華し得たのだ。
残念なことに、その夢が結実するまでには時間が必要であり、当時の世界情勢がそれを許さなかった。
デレシアはその機能について知っており、ラヴニカの街でそのオプション機能を有効にする道具を揃えた。

必要だったのは音声を出力するための装置だけだったため、そこまで難しい作業ではなかった。
インカム越しの音声だけでなく、ヘルメットを装着していない状態での会話も可能になったディに、ブーンは興奮して喜んでいる。
プレゼントをもらった子供が見せる素直な反応は、見ていて気持ちが良い物だ。

(∪*´ω`)「ディ、喋れるようになったんですかお?!」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、ラヴニカでちょっと道具を揃えてね」

子供はこの状況を素直に受け入れられるが、知識や常識で世界を見る大人にとってはにわかに信じがたい光景のはずだ。
流石のヒートも、バイクが喋ったことに対して、すぐに受け入れることが出来ていない様子だった。
この時代で人工知能がここまで復元されたのは、恐らくは初めてのことだろう。

ノハ;゚?゚)「バイクが喋るのか……」

(#゚;;-゚)「肯定します。 私にはその機能が備わっており、デレシア様に機能を開放していただきました」

ディの声は抑揚のない、機械が作り出した若い女性の合成音声だったが、人との会話を経てその喋り方も変わってくるはずだ。
情報の獲得による自己学習能力は、生き物と形容しても何ら遜色のないものだ。
ディは既に膨大な量の情報を持っていたが、人との対話はこれが初めてのことだった。

(∪*´ω`)「ディすごいお!」

(#゚;;-゚)「肯定します。 私はすごい」

心なしか、その声は誇らしげな響きを含んでいた。

ノハ;゚?゚)「ジョークなのか、それとも本気なのかも分からねぇが、確かに凄いな。
    会話はどこまで返答が出来るんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「話せば話すほど、この子は学習するわ。
      私達の会話を聞いて、そこからも学ぶわよ」

23 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:51:05 ID:Llew1w250.net
初期状態で理解できる会話内容は限られているが、それでも、膨大な量の情報をもとに作られたプリセットだ。
そのプリセットを状況に応じて変化させ、それを使用した際の反応を元に、更に別の方法を模索して会話対象に合わせて最適化をしていく。
人間の会話を通して情報を獲得するため、話すことでディは成長し続けるのだ。

(#゚;;-゚)「肯定します。 皆さんの会話を聞いて、私は学習することが出来ます」

(∪*´ω`)「一緒に勉強するお」

(#゚;;-゚)「賛同します。 ブーンと私は、共に勉強することでより多くを身に付けられると考えます」

ノパ?゚)「あたしらの名前はどうやって覚えたんだ?」

(#゚;;-゚)「ヒート様たちが私の近くで会話をしている時に、そこから搭乗者の名前と特徴を学習しました」

ディには使用者に応じて設定を最適化する機能が備わっており、名前の記録はその一環だ。
他にも声や体重、運転時の癖や好みの傾向などの細かい情報が記録されるため、その人間そのもののデータがディの中には保存されている。

ノパ?゚)「へぇ、すげぇな。
    ところでよ、何であたしらは様、をつけるんだ?」

(#゚;;-゚)「彼の年齢を考慮、および、お二人の会話から最適な呼称を導き出しました。
   修正が必要であればお申し付けください」

ノパー゚)「ならよ、あたしのことはヒートでいいよ。
    様なんて柄じゃねぇ。
    それと、もっと砕けた言葉遣いを学んでくれるとあたしは嬉しいな」

ヒートは既にディを機械としてではなく、友人の様に扱うことに決めたようだ。
それはブーンがディを友人として扱っていることもあるのだろうが、きっと、彼女自身の人間性がそうさせるのもあるのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「あたしも、デレシアでいいわよ。
      一緒に旅をするんだから、他人行儀じゃない口調を学んでね」

(#゚;;-゚)「かしこまりました」

(∪*´ω`)「わーい! ディとお話できるお!」

(#゚;;-゚)「私も、ブーンとお話ができるのを楽しみにしておりました」

そして三人がディに跨り、三人と一台の旅が再開された。
ブーンは移動中も積極的にディと会話をし、互いに学びを深めた。
どちらも会話が不得手ではあるが、ブーンはディとの会話で単語を覚え、文法を覚えた。
逆にディは砕けた表現や子供の言葉遣いを覚え、彼に対して適切な距離を模索した。

その微笑ましい会話を聞いて、デレシアもヒートも、笑みを絶やさずにはいられなかった。
疑問に思ったことを次から次へと訊き、ブーンは知識を増やしていく。
本を読むのもいいが、こうして他人の言葉で教えられた方が覚えることも多い。
思いもよらぬ単語が出てきたのは、次の目的地である海辺のキャンプ場の入り口まで残り10キロの地点でのことだった。

(∪´ω`)「ディは、海鮮丼って知ってるかお?」

(#゚;;-゚)「はい、知っています。 魚介類を乗せた丼物料理のことですね。
   わさび醤油をかけて食べるのが一般的とされ、その主な発祥地はジャネーゼであるとされています」

(∪´ω`)「ジャネーゼ? それはどんな街なんだお?」

24 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:52:21 ID:Llew1w250.net
(#゚;;-゚)「いいえ、違います。 ジャネーゼは国です」

(∪´ω`)「国?」

ノパ?゚)「国?」

(#゚;;-゚)「国です。 国家です」

二人が聞き返したことに対し、言葉を変えて答えたディに悪気はない。
ただ、彼女の中にあるデータベースには、国という概念が失われているという前提がないのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「昔の単位ね。 村や街が集まって、一つの組織になった状態が国よ」

今は国などなく、その全てが第三次世界大戦で滅びた。
そして時が流れても、人々は街以上の大きな存在を作ろうとはしなかった。
シャルラは自治区で分かれているが、実際は家屋の間隔が広いだけの広大な田舎町だ。
その形に追従する街がないことからも分かる通り、今の時代には街以上の組織は必要とされていないのだ。

(#゚;;-゚)「はい、そうです。
    デレシアに質問です。
    現在、国は存在していますか?」

二人の反応だけで、ディは答えを見つけたようだ。
自らが製造された時間と今の時間の差を考慮し、その答えを見つけたのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「ゼロ、なしよ」

(#゚;;-゚)「情報の更新を行いました。
    ご協力感謝いたします。
    地形データは以前の物がありますが、国のデータについては更新されておりませんでした」

ζ(゚ー゚*ζ「ネットワークが死んでいるから、仕方ないわ。
      その辺りのデータについては、また今度入力してあげるわね」

(#゚;;-゚)「ありがとうございます」

(∪´ω`)「どうして、一つにまとめる必要があるんですかお?」

ノパ?゚)「あぁ、確かにそうだな」

それはブーンの素朴な疑問だったが、ヒートも小さな声で同意の言葉を口にした。
国という概念がない以上、彼女たちの頭に浮かぶのは街と村が手を組んでいる光景だろう。
その利点がすぐに浮かばないのは、今の時代では仕方のない話である。

ζ(゚ー゚*ζ「大きくなればなるほど、力の強い国になるの。
      力が強ければ、他の人たちに侵略されないで済むでしょ?」

(∪´ω`)゛「おー、なるほど」

ζ(゚ー゚*ζ「ただ、意見の統一が大変なのよ」

25 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:52:55 ID:Llew1w250.net
ノパ?゚)「ジュスティアとイルトリアをまとめるようなもんか」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね、全然異なる意見の街でもまとめないといけないの。
      だから国と言っても、その街ごとのルールをある程度保ったまま、国としてのルールも守らせる形のもあったのよ」

(#゚;;-゚)「州や県という単位であると捕捉をします。
    今は州すらもないのですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「……いえ、似たような物であれば最近出たわね」

ノパ?゚)「どこだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「カルディコルフィファームよ。
      一か月ぐらい前に、3つの街が一つになったアレよ」

ノパ?゚)「内藤財団が手を貸してる、って街だな」

ζ(゚ー゚*ζ「隣接しているならまだしも、離れた場所にある街を3つも一つにしたのだもの。
      州を作る実験と実績を手に入れたかったんでしょうね」

ノパ?゚)「実験ってことは、目的は別にあるのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「あいつらの目的が昔と変わっていなければ、ね。
      世界を一つの国にするのが、あいつらのゴールよ」

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           ィfて_,ノ) ノ^¨ ̄              `''…‐-=彡
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           】‐-‐〈:.:.:.:. : :,xAmmo for Remnant!!編
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           第一章【Remnants of footprints-足跡の残滓-】
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26 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 20:54:34 ID:Llew1w250.net
同日 AM07:30

アサピー・ポストマンにとって、カメラとは武器そのものだ。
狙撃手が一撃二殺・一発必中を信条とするように、彼はシャッターを切るその一瞬に全てをかけた。
効果的なアングルやタイミングは後でいくらでも言えるが、何よりも重要なのは、撮影する機会を見逃さないことだ。
ジュスティア警察で働くことになった彼に与えられたフィルムを必要としないカメラは、これまでに使ってきたどのカメラよりも彼の目的に合致した性能を有していた。

間違いなく最高級品に分類されるカメラを首から下げ、アサピーはコインパーキングに停めた車の中で朝食のレタスサンドイッチを頬張っている。
運転席に座るニダー・スベヌは紅茶とブリトーを食べながら、窓の外に目を向けている。
車内にはラジオから聞こえる陽気な音楽とパーソナリティの声が流れ、その合間合間に二人の咀嚼音が入った。
アサピーに依頼された仕事は写真の撮影だが、その内容は捜査に関係するものばかりだった。

最初に彼が任されたのは密売人の胴元を撮影することで、これはすぐに完了した。
そして彼が撮影した写真は翌日、胴元の逮捕に大きく貢献することになった。
単独で行動したいというのが本音だったが、アサピーはティンカーベルで起きた事件の重要参考人として警察に保護されることになっていた。
そのため、自由な行動は制限がかかり、仕事中は必ずニダーと共にいなければならなかった。

仕事をこなす中で、アサピーはニダーの人間性が気に入り、この保護期間が苦ではなかった。
トラギコ・マウンテンライトが約束したスクープについては、半ば諦めているが、新しい土地での生活は悪くはない。
むしろ、ティンカーベル支社にいた頃よりも遥かに充実している。
サンドイッチを食べ終え、カフェインレスコーヒーを口にしたアサピーは視線を車外に向けたまま、ニダーに声をかけた。

(-@∀@)「今日はどんな仕事をする予定なので?」

<ヽ`∀´>「密輸組織の構成を把握したり、その辺の捜査をしたりするニダよ。
      輸入品のチェックは厳しめだけど、どうしても把握しきれないものがあるニダ。
      品が流れているか、とかそういったところニダ」

彼の食べているブリトーはピザの具を使ったもので、トマトとバジル、そしてベーコンとモッツァレラチーズの得も言われぬ香りがする。
食欲をそそる匂いの正体はその中に隠れた胡椒とニンニクの香ばしさだ。
レンジで一度温められているため、彼が一口かじるたびにチーズが伸び、視覚的にも美味そうだった。

(-@∀@)「へぇ、例えばどんな品を?」

対して、アサピーのレタスサンドは文字通りレタスが主な具として挟まった簡素なものだ。
スライスオニオンとマヨネーズ、そしてクレソンが挟まっている。
健康と財布に優しいものを選んだ結果がこれだが、ニダーの食べているブリトーにすればよかったと後悔していた。

<ヽ`∀´>「薬物が一番多いけど、禁輸品が一番ニダね。
      毒物や汚い爆弾がそれにあたるニダ」

(-@∀@)「汚い爆弾?」

聞いたことのない言葉に、アサピーが聞き返す。
ニダーは説明の言葉を考えるようにふむ、と言ってそれから続けた。

<ヽ`∀´>「シャルラ方面で時々見つかることがある、科学物質を使った爆弾ニダ。
      特殊な毒、と言ったほうが分かりやすいニダね。
      爆発して拡散するだけじゃなくて、その物質が毒を発するニダ。
      しかも、かなり長期間にわたって残留するから厄介ニダよ。

      一番厄介なのは、目的が大量殺戮ではなく汚染ってところにあるニダ。
      紛争地域ではよく使われるニダよ。
      汚染地域は人が長期間住めなくなるし、外部との接触も一気に無くなるニダ。
      相手の町を潰すならこれが一番安くて手っ取り早いニダ」

(-@∀@)「なるほど、そんなものを持ち込まれたら危険ですものね」

27 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 21:06:50 ID:tvRM6Nera.net
規制を食らいました……

28 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 21:08:06 ID:HYxCc4Dk0.net
VIPでブーン系見るの久しぶりな気がする

29 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 21:10:45 ID:ic122LF/0.net
しえん

30 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 21:13:17 ID:A/BL2nb70.net
来てた支援

31 :必殺テザリング!:2020/05/16(土) 21:14:54 ID:trzQzfi9a.net
細菌兵器やウィルスを使った攻撃は世界中至る所で行われている。
特に重宝されるのが、長期間の潜伏期間を経て大規模に感染し、死亡率の低いものだ。
知らずに自らが運び手となり、親しい人間を次々と感染させていくのは見えない恐怖をまき散らすのに最も適している。
最高なのはそのワクチンが存在することで、相手に対して理不尽なまでの要求をすることが出来る状態だ。

相手の街を攻撃し、金や何かしらの要求をのませる為に手段を選ばない人間は後を絶たない。
企業間の争いでもそれは健在であり、それを未然に防ぐためにも、警備関係の組織との契約は保険と同等の価値を持っている。
世界中で契約されている警備関係の会社の多くが、ジュスティアかイルトリア関係というのも納得できる話だ。
現時点で最も力を持つ街を列挙すれば、間違いなくこの二つの街が名を連ねることになる。

相反する思想を持つ街でありながら、その力が同じ市場で拮抗しているのは面白い話だ。
互いに互いを認め、そして反発していなければこの世界の在り方は変わっていたことだろう。

<ヽ`∀´>「後は時々、違法にこの街に入ろうとする人間がいるニダ。
      ジュスティアは税金が高い分、色々な社会保障のサービスが充実しているから、難民が流れてくることがあるニダ。
      正規の手続きをせずに、っていうのが厄介ニダよ」

(-@∀@)「どうしてそんなことを?」

アサピーはその性分から、分かっていても訊かずにはいられなかった。
自分の中で理由についてある程度検討がついていても、それとは違う問題が出てくることがある。
確認の意味を込めた質問に、ニダーは嫌な顔ひとつしないで答えた。

<ヽ`∀´>「通り過ぎる分には構わないけど、留まったまま出て行かないニダ。
     で、勝手に居座って税金を払わないだけじゃなく、厚かましく社会保障を受けようとするニダよ。
     権利ばかり主張するくせに、やることをやらないから困るニダ。
     そういう輩は後ろめたいから正規よりも安い賃金で働かせやすいし、あくどい商売の餌食になるニダ」

(-@∀@)「なるほど」

法がある以上、それを掻い潜ろうとする人間は必ず現れる。
法の縛りを抜けた先に得られる莫大な利益、そして独占的な市場。
特に人件費の削減と同時に相手の弱みを握れるのは、風俗関係の店にとっては大きな魅力だろう。
これまでジュスティアという街について深く関わることのなかったアサピーにとって、この数十日間は極めて貴重な日々だった。

実情と噂はやはり相容れないものだ。
街の法律で規制されている風俗関係の業界はその実、暗黙の了解で認知されており、過激なことをしなければその存在は摘発の対象外になっている。
しかし、従業員に対して何らかの不正行為などが発覚した際には容赦なくその店は摘発され、見せしめを受ける。
対外的には綺麗な街ではあるが、やはり、警察は取り締まりすぎると問題が起こりやすいことを知っているのだ。

このことを万が一記事にしようものなら、アサピーが朝日を拝むことは二度とないだろう。
暗黙のルールとは総じてそういうものなのだ。
踏み越えてはならない一線。
それを暴き立てることで得をするのが自分一人しかいないのであれば、それは報道するべきものではない。

少なくとも、この街の警察は全ての不義を叩き潰しているわけではないのだ。
口にはしないが、恐らく、このことは市長の耳にも届いていないのではないだろうか。

<ヽ`∀´>「正直者がバカを見ることのないようにするのが警察の仕事ニダ。
      密輸組織は潰しても潰しても湧いて出てくるから、いっそ全貌を把握しようと思うニダ。
      だからそのためには、まず末端を見つけてそこから大物を見つけ出すのが目的ニダ」

32 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 21:37:30 ID:56Rwy01J0.net
しえん

33 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 21:46:07.860 ID:tvRM6Nera.net
ぢぐじょう……

34 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 21:48:11 ID:J/rg8HVma.net
獅子を仕留める際は四肢を奪え、という言葉が示すとおり、大きく厄介な獲物を仕留めるために足元から囲んでいくという考えだ。
これはジュスティアの中で浸透している考えであり、特に、警察の中で大きな割合を占めえる考えでもあった。
大捕物が行われる時には、間違いなくその末端が発端となるため、捜査方針の鉄則と言ってもいいだろう。

(-@∀@)「もしも不法に入ってきた人間を見つけたらどうするつもりで?」

<ヽ`∀´>「放っておけばそこからまた腐るから、捕まえるしかないニダよ。
      で、今日アサピーに協力してもらいたいのはその人間達の生活とかを撮影してもらいたいニダ」

(-@∀@)「え? 捜査現場とか、密輸品現場とかそういうのでなく?」

警察の広報活動をするのであれば、警察の活躍を撮影する必要がある。
例えば、警官が犯人を逮捕する瞬間や、悪人が悪事を働く瞬間がそれにあたる。
逮捕された人間が、何故に逮捕されるのかを大衆に知らしめるためにもその類の写真は必要不可欠だ。
犯人に関しては可能な限り極悪そうに、そして、反省の色がないような一枚を撮影するのはアサピーたちのような人間にとっては絶対だ。

犯行現場の写真においては、同情をされるような写真が撮れたとしたら、大抵が破棄される運命にある。
子供の写真や、監禁されていたような痕跡一つでもそうだ。
真実は複数あってはならない。
新聞記者やジャーナリストの仕事は詰まるところ、“トマトはこんなにも赤いのだ”、と大声で叫ぶことにある。

それは真実を告げるのではなく、真実を可能な限り大々的に、そして衝撃的な言葉で伝えることなのだ。
単純な真実であればあるだけ、人はそれを盲目的に信じてしまう。
そうなればその記事を取り扱った社の新聞は売れ、犯人――ではない人間も含めて――は社会的な制裁を判決以上に受けることになる。
それこそが、新聞記者たちの仕事なのだ。

例えそれが真実ではないものだとしても、大衆が求めるものであれば必要なだけ誇張するのだ。
記者を志す人間ならば、初心が違ったとしても、自ずとその力が身についてしまう。
アサピーもその技術を持っているが、幸か不幸か記事を書くという才能には恵まれず、執念深い取材というのも得意ではなかった。
彼は写真撮影においてのみ特化した人間であり、それが彼を生きながらえさせるための力だった。

ニダーの指示は、これまでにアサピーが手掛けてきた仕事の中でも、かなり変わったものになることは間違いなかった。

35 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 21:51:36 ID:ic122LF/0.net
支援だ頑張れ

36 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 21:53:10.132 ID:J/rg8HVma.net
獅子を仕留める際は四肢を奪え、という言葉が示すとおり、大きく厄介な獲物を仕留めるために足元から囲んでいくという考えだ。
これはジュスティアの中で浸透している考えであり、特に、警察の中で大きな割合を占めえる考えでもあった。
大捕物が行われる時には、間違いなくその末端が発端となるため、捜査方針の鉄則と言ってもいいだろう。

(-@∀@)「もしも不法に入ってきた人間を見つけたらどうするつもりで?」

<ヽ`∀´>「放っておけばそこからまた腐るから、捕まえるしかないニダよ。
      で、今日アサピーに協力してもらいたいのはその人間達の生活とかを撮影してもらいたいニダ」

(-@∀@)「え? 捜査現場とか、密輸品現場とかそういうのでなく?」

警察の広報活動をするのであれば、警察の活躍を撮影する必要がある。
例えば、警官が犯人を逮捕する瞬間や、悪人が悪事を働く瞬間がそれにあたる。
逮捕された人間が、何故に逮捕されるのかを大衆に知らしめるためにもその類の写真は必要不可欠だ。
犯人に関しては可能な限り極悪そうに、そして、反省の色がないような一枚を撮影するのはアサピーたちのような人間にとっては絶対だ。

犯行現場の写真においては、同情をされるような写真が撮れたとしたら、大抵が破棄される運命にある。
子供の写真や、監禁されていたような痕跡一つでもそうだ。
真実は複数あってはならない。
新聞記者やジャーナリストの仕事は詰まるところ、“トマトはこんなにも赤いのだ”、と大声で叫ぶことにある。

それは真実を告げるのではなく、真実を可能な限り大々的に、そして衝撃的な言葉で伝えることなのだ。
単純な真実であればあるだけ、人はそれを盲目的に信じてしまう。
そうなればその記事を取り扱った社の新聞は売れ、犯人――ではない人間も含めて――は社会的な制裁を判決以上に受けることになる。
それこそが、新聞記者たちの仕事なのだ。

37 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 21:59:49 ID:J/rg8HVma.net
<ヽ`∀´>「この街中の人間に、現状を見せる必要があるニダ。
      不法移民の中じゃ、ジュスティアは無償で助けてくれることになっているらしいニダ。
      何ヶ月か前には、その権利を主張するデモを企てていたから全員捕まえて叩き出したニダよ。
      一般市民の協力を得るためにも、現状を大々的に知らせる必要があるニダ。

      街の中にもぐりこんだ奴を見つけるには、街の人間が一番の協力者ニダ」

(-@∀@)「じゃあ、ショッキングに見えるように撮ればいいですか?」

悲惨な現状を写すのであれば、そこに必要なのはより衝撃的に見えるよう配置をした写真が好まれる。
例えばベッドの隅にコンドームや注射器を置いたりするだけで、その写真が持つメッセージ性は非常に強くなる。
部屋の中に散らばっていた物を動かすときもあれば、人によってはあらかじめ用意する人間もいる。
一枚の写真にどれだけ多くの“情報”を詰め込めるのかが、カメラマンとしては重要なのだ。

<ヽ`∀´>「そこは全面的に任せるニダよ。
      上から何か言われても、ウリが責任を取るニダ」

このニダーという男は気休めのようにも思えるこの言葉を実際に行うため、厚い信頼を得ている。
来て間もないアサピーですら、それを認識できるほどに彼の言動は立派なものだ。
ジュスティアという街がそうさせるのか、それとも、彼が生まれながらにそう育ったのかは分からない。
元から写真で小細工を弄することは好きではないアサピーとしては、彼とともに仕事ができるのは気分が楽だった。

(-@∀@)「助かります。 で、今日はどんなスケジュールで動きますか?」

<ヽ`∀´>「とりあえず、朝食はしっかり食べるニダ。
      ウリはまだもうちょっと時間をかけて食べるから、アサピーもゆっくりしているといいニダ。
      パイナップルの芯食べるニダ?
      これを売ってる店の婆さんと仲が良くて、安くしてくれるニダよ」

ドライフルーツのパイナップルが入った紙袋を差し出され、アサピーは礼を言って一つ摘みとった。
棒状になったそれは、パイナップルの芯を加工して作られたもので、歯ごたえと食物繊維が豊富な食べ物だ。
口に含み、噛みしめると凝縮された甘みが口の中に広がった。
十分すぎる甘みが知らずに疲れていた脳へと染み渡る。

<ヽ`∀´>「仕事はオンオフが肝心ニダよ」

まだ湯気の立っているブリトーの最後の一片を口に収め、ニダーはそう言った。
警察官という人種を何人も見てきたが、ジュスティアに来て分かったのは彼らが実直な人間だということだ。
トラギコのような人間は例外として、仕事の同僚としてここまで付き合いやすい人種はそうそういない。
それぞれが己の仕事をこなし、余力があれば苦労をしている人間の補助に回り、その立場が逆になることもある。

そうしてその気遣いが連鎖し、仕事が円滑に回転していく。
これがジュスティア。
これが、“正義の都”として知られる街のその中心にいる人間たちなのだ。
冗談を言い合うことはあるが、仕事を疎かにしたり、粗雑な言動をする人間はいなかった。

(-@∀@)「個人的なことを訊いてもいいですか?」

<ヽ`∀´>「答えられる範囲でならいいニダよ」

38 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:01:51 ID:A/BL2nb70.net
支援

39 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:05:05 ID:J/rg8HVma.net
パイナップルを食べつつ、ニダーは答えた。

(-@∀@)「ニダーさんは警察官になって長いんですか?」

<ヽ`∀´>「そうニダね。
      気づいたらベテランの部類にいたニダね」

合間に紙袋が差し出され、礼を言ってパイナップルをまた一つ口に運ぶ。

(-@∀@)「ありきたりな質問なんですが、何故警察官を目指したんですか?」

<ヽ`∀´>「うーん、難しい質問ニダね。
     ウリは正しく生きる人の味方をしたいと思ったのがきっかけニダね。
     子供の頃にそう思って、気がつけば今の立場ニダよ」

(-@∀@)「なるほど。 主にどのような事件を担当することが多いんで?」

<ヽ`∀´>「この街は警察の足元だけど、だからこそ色々な犯罪が起こるニダ。
      規制の多い場所ではありがちなことニダよ。
      所謂グレーの部分を突っつくような連中がいるニダ。
      ウリはその犯罪を起こす人間たちから情報を得るのが主な仕事だから、特定の種類の事件、ってことはないニダね。

      だから正直、アサピーが来てくれたおかげで外回りの仕事ができて結構嬉しいニダよ」

(-@∀@)「ははぁ、本来は尋問担当者、ってところですかね?」

<ヽ`∀´>「まぁそんな感じニダね。
      あんまり華やかな仕事じゃないけど、やりがいはあるニダ」

(-@∀@)「今までで関わった中で、一番大きな事件は?」

<ヽ`∀´>「うーん、十字教の過激派が企てた大規模なテロニダね。
      間に合ってよかったニダよ」

(-@∀@)「それって、あの“グラウンドクロス未遂事件”ってやつですか?」

<ヽ`∀´>「おっ、よく知っているニダね。
      それを担当したニダよ」

世界にある宗教の一つ、その最大勢力である十字教。
その十字教の一部過激派が、ジュスティアに対して敵対心をむき出しにしているのは有名な話だ。
正義を掲げるジュスティアは悪魔の手先であると信じる彼らは、ある時、大規模な無差別テロを企てた。
ジュスティア市内で毒と爆薬を使った同時テロの計画は未然に防がれ、組織はジュスティア軍と警察によって文字通り壊滅した。

市内に潜伏していたテロリストとその支援者が逮捕され、裁判を受けるまもなく処刑された。
それに対して多くの人権活動家たちが講義の声を上げたが、ジュスティア警察代表者はただ一言、“殺されそうになった者の人権を案じよ”と言い放った。
密かに話題になったのは、果たしてどのようにその情報を得たのか、ということだったがコメントは一切出ないまま、事件は終わりを告げたのである。

(-@∀@)「いいんですか、それを僕に教えて?
      だって確か、関係者への報復を防ぐために関係者の名前は伏せるって――」

<ヽ`∀´>「あっ、やべっ……
      これ、オフレコで頼むニダね」

(-@∀@)「それはもちろんですよ!!」

<ヽ`∀´>「他に何かあるニダ?」

(-@∀@)「多分答えてもらえないとは思うんですけど、先日連行されてきたティンカーベル事件の容疑者たちの尋問は、ひょっとしてニダーさんが担当されるので?」

40 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:10:14 ID:J/rg8HVma.net
ニダーは相変わらず薄らと笑顔を浮かべたまま、涼しい顔で答えた。

<ヽ`∀´>「訊いてどうするニダ?」

(-@∀@)「いえ、僕の写真が使われるのなら、嬉しい限りだなぁと」

<ヽ`∀´>「あの写真は間違いなく使われるニダ。
      報酬は追加で出るから、安心してほしいニダ。
      あれだけの事件の写真だから、まぁ5000ドルは下らないニダね」

(;-@∀@)「そ、そんなに?!」

<ヽ`∀´>「しかもあのカラマロス・ロングディスタンスの裏切りを証明する一枚ニダ。
      軍は大荒れ、上層部はもうカンカンだったニダよ」

(;-@∀@)「なるほど、もしやとは思っていましたが、ひょっとしてニダーさん、僕の護衛も兼ねています?」

<ヽ`∀´>「ん? そりゃそうニダ。
      重要参考人を警護しないなんて有り得ないニダよ」

(-@∀@)「それは心強い」

<ヽ`∀´>「だから泊まってるマンション一棟全部が、警察寮になっているニダ」

(-@∀@)「……え? あそこ、そうだったんですか?」

<ヽ`∀´>「聞いてないニダ? 特別武装隊警官の候補生たちの寮だって」

(;-@∀@)「そりゃ、確かにみんな同じ時間に帰ってきて、朝早いですが……」

<ヽ`∀´>「ま、そんなわけで暴漢が襲撃してくることはそうないニダ」

(-@∀@)「なるほど。 ありがとうございます」

<ヽ`∀´>「ウリからも質問してもいいニダ?」

(-@∀@)「えぇ、もちろんですよ」

<ヽ`∀´>「トラギコとはどこで知り合ったニダ?」

(-@∀@)「ティンカーベルで偶然……」

実際には彼の家にトラギコが潜伏しており、脅される形で協力することになったのがきっかけだった。
彼の噂は聞いていたこともあり、その破天荒さについては素直に受け入れることができた。
今ならよく分かるが、“虎”と呼ばれる刑事について知らない新聞記者はモグリだ。
ペンを用いても彼にも勝てない。

現実問題、ペンで対抗できる相手は限られている。
新聞が銃にも勝るとしたら、それは相手が命よりもプライドを重視する人間が相手の場合だけなのだ。
もし、アサピーが変な正義感に駆られた新聞記者で、トラギコの粗暴な言動について取材を進めていたら、カメラもペンも全て破壊されていただろう。
彼と行動を共にして分かったのは、彼は根っからの善人であり、警察の仕事は彼の天職だということだ。

<ヽ`∀´>「よく一緒にいられたニダね。
      殴られたりとかしなかったニダ?
      あいつ、マスコミが大嫌いだから、よく記者なんかと揉めるニダよ」

軽く小突かれることはあったが、それ以上の暴力行為はなかった。
トラギコが丸くなったのか、それともアサピーが特例なのかは分からない。

41 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:17:00 ID:J/rg8HVma.net
(-@∀@)「うーん、殴られはしませんでしたね。
      ニダーさんはトラギコさんとどれくらいの付き合いになるんですか?」

<ヽ`∀´>「うーん、多分向こうはウリのことあんまり知らないと思うニダ」

(-@∀@)「意外ですね、ニダーさん顔が広そうなのに」

<ヽ`∀´>「向こうは現場職、ウリは内勤だからしかたないニダよ。
      それに、ウリとあいつは仕事で顔を合わせることがまずないニダ」

(-@∀@)「ん? それはどういう……」

<ヽ`∀´>「っと、そろそろ始めるニダよ」

会話はそこで切り上げられ、二人は車を出た。
夏の日差しの下、これからさらに暑くなることを予感させる空気の中を歩く。
薄手のスーツを着ていたが、すでにその下には汗が滲み、額には汗が浮かんでいたためにすぐに脱いだ。

(;-@∀@)「しかし、今日も暑いですね」

<ヽ`∀´>「まだ九月ニダ。
      後は良くも悪くも、この暑さはスリーピースが原因の一つニダね」

(;-@∀@)「あの外壁が? 何故?」

<ヽ`∀´>「あれは冬になると外気を防ぐ役割があるけど、逆に、中に熱気が溜まりやすいニダよ」

(;-@∀@)「なるほど、防御の代償ですね」

<ヽ`∀´>「まぁこの時間は仕方ないニダ。
      八時になったら涼しくなるニダよ」

(;-@∀@)「確かに、八時以降は涼しいですよね。
      気にしてなかったけど、その理由を訊いてもいいですか?」

<ヽ`∀´>「壁が太陽光発電を兼ねているニダ。
      で、蓄えた電力を使って送風換気をするニダよ」

(;-@∀@)「でかい換気扇でもあるんですか?」

<ヽ`∀´>「そんな感じニダ。
      詳しくは安全の問題にも繋がるから教えられないけど、八時以降にならないと夏はちょっと厳しいニダ」

(-@∀@)「換気扇が止まったら大変そうですね」

<ヽ`∀´>「ははっ、確かにそうニダね」

ニダーの半歩後ろを歩き、彼の進む場所の見当を頭の中でいくつか浮かべる。
街の中には貧困層が多く住まう場所があり、それは意図的に密集させられていると聞いている。
それを実施した当時は治安の悪化が懸念されたが、警察の介入と行政による保障によってその心配は杞憂に終わった。
だがそれでも、収入が少ない家庭というのは存在し、街の保障は手厚いとは言っても、自ら稼ぐことが前提となっている以上は手放しで暮らすことは許されていない。

二人が歩いているのはまさにその貧困層の集まる場所であり、行き先については正直なところ、ここにある店の全てが対象と言っても過言ではない。
アサピーには記者の頃からの習慣として、何かが起きた際、その背景について想像を膨らませるという癖があった。
それは写真を撮る際の物語を作りやすくなるだけでなく、確信を突いた質問を相手にできるという行為を空き時間で済ませることで、相手に逃げる隙を与えないための工夫だった。
住宅密集地にある小さな駐車場で立ち止まり、ニダーは腕時計を見た。

<ヽ`∀´>「さて、そろそろニダね」

42 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:19:17 ID:ic122LF/0.net
支援

43 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:22:37 ID:J/rg8HVma.net
(-@∀@)「へ?」

何かを考える間もなく、次の瞬間、目の前にあった二階建ての建物の扉が爆音と共に吹き飛んだ。
間髪入れず、扉を失った入り口の奥で白煙と閃光、そして何よりも耳を弄する強烈な炸裂音があふれ出し、アサピーを襲った。
耳鳴りが耳の奥から消え去らぬ事を知りながらも、反射的にアサピーは左耳を塞いでいた。
これが閃光手榴弾によるものだと分かったが、それ以上は何もできない。

隣で同じだけの音を聞いていたはずのニダーは涼しい顔でその建物に目を向け、事の行く末を見守っている。
アサピーの右手はカメラを握り、無意識の内にシャッターを切って数枚の写真を撮影していた。
フィルムとは違い、そのカメラは彼の想像以上の速度で写真を撮影できるうえに、気に入らない物は後でいくらでも削除できるため、被写体を狙えない状況ではこうして何かを撮影することを癖づけていたのだ。
鼓膜の奥で音がこもり、やはり何も聞こえない中、アサピーがようやくカメラを構えることが出来たのは爆音から一分後のことだった。

<ヽ`∀´>「……」

ニダーが何か言っているのは分かったが、まだ言葉としての認識が出来ないため、アサピーは彼ではなくファインダーの先に意識を集中させた。
薄れていく白煙の中から、やがて、人影が見えてきた。
それは武装した警官と、後ろ手に手錠をされた男たちだった。
建物の近隣からぞろぞろと野次馬が出てきて、その様子を眺め始めている。

逮捕劇ではよくある光景だったが、アサピーは広角の写真を数枚撮影し、その後は逮捕された人間達が護送車に乗せられるまでを撮影した。
サイレンが遠ざかっていくのが分かったため、アサピーはニダーの方を向いた。

(;-@∀@)「何だったんですか、あれは」

<ヽ`∀´>「あれは売り子の逮捕ニダ。
      禁止されている薬物を仕入れて、それを売りさばいていたニダ。
      依存性の高い薬で、しかも安価ニダ。
      ここ最近で警察が一番手を焼いている代物ニダ」

(-@∀@)「安価で依存性が高い、ってことは、簡単に広まるってことですものね。
      その薬の出どころは分かっていないんです……よね?」

<ヽ`∀´>「そうニダ。
      ぶっちゃけて言うけど、これは相当重要な仕事ニダ。
      ウリたちは捜査本部とは独立した形で調査して、その根元を見つけるニダ」

(-@∀@)「で、どうしてそれを僕に見せたんですか?
      不法に入ってくる人間達の生活の様子を撮影するのが目的では?」

<ヽ`∀´>「それは署内で使う建前ニダ。
      本命は、そうやって入ってくる連中と薬との因果関係を示す物、そのパイプラインを見つけることニダ。
      アサピーは信頼に足る人間だ、って市長からの推薦もあってウリと組むことになったニダ。
      ただ、やることは変わらないニダ。

      連中に関する写真を撮ってほしいニダ」

つまり、撮影するべき写真も目的も変わらないが、本質が変わってくるということだ。
アサピーが撮影した写真は恐らく、不法移民を摘発するために市民に協力を仰ぐことに使われるだろう。
それはあくまでも副産物であり、本命は薬物売買の根本を見つけること。
その証拠品と人間の撮影に、アサピーは使われるのだ。

(-@∀@)「……なるほど」

<ヽ`∀´>「今さっき撮った写真、ちょっと見せてほしいニダ」

アサピーはカメラをギャラリーモードに切り替え、ニダーに渡した。
撮影した写真を次々に見比べ、そして、広角で撮影した写真を拡大し始めた。

<ヽ`∀´>「まずは、ここから始めるニダ」

44 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:29:44.853 ID:J/rg8HVma.net
ニダーが指さしたのは、件の建物から離れた場所に立つ女だった。

(-@∀@)「何故、この女性を?」

夏だからだろうか、女性は薄手の服を着ており、現場となった建物から離れるようにして歩いている様子だった。
髪は肩まであり、根元が黒く、毛先が茶色い。
近くで見なければ年齢は分からないが、偶然移った手の皺がそこまで歳を取っていないことを暗に示している。
顔は化粧でいくらでも誤魔化せるが、手の甲には年齢が如実に表れる。

しかし、とりわけ不自然そうな恰好をしているわけでもないため、アサピーは何故ニダーがこの女性を指したのか理解できなかった。
彼は出し惜しむこともなく、その答えを教えてくれた。

<ヽ`∀´>「ウリが見ていた限り、こいつは閃光手榴弾が使われたか、扉がぶち破られた際の一回しか振り返らなかったニダ。
      恐らく、この建物にいた人間と何か関係があったか、警察に後ろめたいことがあったか。
      もしくは、その両方が考えられるニダ。
      普通、誰が連れていかれるのかまで見たくなるのが人間ってものニダ」

(-@∀@)「なるほど……」

人間の心理、そして、この地域柄が生み出す無意識下の行動がある。
何か揉め事が起きた時、その場所が自分に関係のある場所であれば、人はそこから遠ざかろうとする。
そうでない場合は、事の顛末を見たいという人間の知識欲が働き、事件現場から現れる新たな情報に目を向けようとする。
この近隣の人間は警察に対して、間違いなく好印象を抱いていない。

グレーゾーンの中で生活する人間達にとっては、警察はいつ現れてもおかしくない存在であり、それが自分に関係のある存在である場合、すぐにでも逃げなければならない。
そのため、警察が誰を連行するのかを見定める必要がある。
自分に関係のある人間であれば足早に逃げ去り、関係がないようであれば、元通りの生活を今までよりも慎重に過ごすことになる。
ニダーの観察眼が確かであれば、女性は一度だけしか振り返らなかった。

それはつまり、音のした場所には彼女の関係する人間、もしくは彼女はこの地域に関係のない人間であることになる。
前者がニダーの予想で、後者だった場合は完全な徒労に終わる可能性があるが、服装と時間帯がそれの可能性を極めて低くさせている。
徒労に終わらない捜査など、警察官の中にはないのだろう。

<ヽ`∀´>「ま、捜査の基本は足を使うことニダ。
      一緒に頑張るニダよ」

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           '///ア=、 7== ゝ'~~し
           ゝイ   ノ {
                {_丿
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鉄製のフライパンの上で、厚切りのベーコンが弾けるように踊り、甘く香ばしい香りを放つ。
弾ける油に臆することなく適切な時間でそれを反転させると、黄金色と表現するにふさわしい焼け目が上になる。
そして再び油の中でベーコンが爆ぜ、香ばしさを際立たせる。
そこに新鮮な鶏卵を加え、少量の水と共に素早く蓋をする。

料理人の体内時計通りにトースターが時間を告げ、エプロンを付けた男はフライパンから蓋を取る。
白い湯気と共に甘い香りが広がる。
素早くコンロの火を止め、ベーコンが目玉焼きと一体となったまま、余分な水分が入らないよう慎重にフライ返しで平皿に盛り付ける。
瑞々しいレタスとミニトマトを添え、焼けたばかりのトーストを別の皿に乗せて朝食が完成した。

45 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:34:05.107 ID:sD1JC+fBM.net
支援
カリカリベーコン食べてえ

46 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:34:52.159 ID:J/rg8HVma.net
(´<_` )「おーい、イモジャー、ご飯できたぞー」

オットー・スコッチグレインは日課の朝食作りを終え、妹のイモジャ・スコッチグレインを呼びに部屋に向かった。
恐らくは着替えを終えている妹の部屋は、彼が料理を作ったキッチンのほぼ真上に位置している。
跫音や物音は特に聞こえなかったため、まだ寝ていると考えた。
起立性調節障害を患っているイモジャは、朝早くに起きることが非常に難しく、誰かの手を借りなければ自力で起床するのは困難を極める。

起立性調節障害はその特性ゆえに、理解のない人間からは怠け病の様に言われるが、本人とその家族は苦しみの中である一定の時期を過ごさなければならない。
彼の妹もまた、その理解を得られなかったためにこうして引っ越すことに同意し、ついてきたのだ。
田舎の町ではあるが、学校は機能をしており、妹の抱える病気についての理解もあった。
冷房の効いた部屋に入ると、イモジャはまだ布団の中にいた。

l从-∀-ノ!リ人「うー」

(´<_` )「半熟の目玉焼きが台無しになっちゃうから、起きてくれ」

揺さぶるが反応はなく、オットーは仕方なく彼女を持ち上げるようにして起こした。

l从・∀・ノ!リ人「うおー、おはようなのじゃー」

猛烈に気だるげな返事をする妹に、オットーは微笑みをもって挨拶を返した。

(´<_` )「おはよう、イモジャ。
     さぁ、ご飯にしよう」

妹の手を引く形で起こし、階段を慎重に降りる。
気が付けば、階段にまでベーコンの香ばしい香りが届いていた。
この町で作られている燻製ベーコンの味は彼が今までに食べてきたどのベーコンよりも濃厚で、芳醇だった。
恐らくは燻製の段階で使われているチップが違うのと、育てられている豚がいいのだろう。

人の脳を起こす手段として香りが有効なのは言うまでもなく、それが食欲をそそる物だとなおの事効果は高い。
テーブルに誘導されて席に着き、イモジャは目の前に並ぶ朝食に目を輝かせた。
ナイフとフォークを使って、彼女はすぐに料理を食べ始めた。
その姿を見て、オットーは自分の努力が一瞬で報われ、誇らしい気持ちで満たされる。

自分も椅子を引いて食事を始め、改めて自分の料理の才能と食材の持つ潜在能力の高さに驚かされる。
こうして並ぶ食材の全てがこの町、カントリーデンバーで生産された物だ。
若干分厚く切ったベーコンの脂身はサクサクとした食感をも有し、噛む度に甘い油が口の中に広がる。
目玉焼きに使われている卵の黄身は味が濃厚で、単純な料理でありながらも、その味は贅沢なものだった。

ベーコンに黄身を絡ませたものをトーストに乗せれば、それだけで十分な料理へと変貌する。
レタスはみずみずしさだけでなく、程よい苦みと甘みがあり、トマトの酸味と甘みは口の中を一口毎に再調整してくれる。
紅茶をポットから妹者の目の前に置いたマグカップに注ぎ、自分のカップにも注ぐ。
漂う豊かな香りにめまいを覚えそうになる。

これと同じものを栄えている街のレストランで食べようものなら、百ドルは下らないだろう。
だがここでは数ドルで済む。
費用的にも味的にも優れた食事が供給されていれば、確かに、この町が悪戯に発展の道を選ばないのも頷ける。
経済を選んだ先にある物を、オットーは知っているつもりだった。

経済とは確かに生き物のように成長と減退を繰り返すが、その根底にあるのは人間があってこそだ。
人間がいなければそもそも経済などという概念は存在せず、それは意味を持たなくなる。
より豊かな富を求めるのであれば話は別だが、幸福な生活を目指すのであれば、この町は非の打ち所がない。
衣食住が整ってさえいれば、人は十分に幸せなのだ。

(´<_` )「学校はどうだ? 慣れたか?」

l从・∀・ノ!リ人「慣れたのじゃ!
        皆優しい人ばかりで、すっごい楽しいのじゃ!」

47 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:39:08 ID:J/rg8HVma.net
以前までは教師の理解が得られなかったために、学校に登校することを嫌がっていた妹の変化に、オットーは改めて自分の決断が正しかったと確信する。
学校が楽しいという言葉は、保護者としては嬉しいことこの上ない。
学び、育ち、そして自分の夢を見つけられることが兄の願いだ。
彼女が生きるこの世界を、少しでもよくしようと活動する甲斐がある。

力が全てを決定し得る時代など、人間ではなく動物の歴史だ。
武力、財力、権力。
それらを持たない者は無力さを嘆き、力の前に屈するしかない。
オットーはそれが我慢ならなかった。

人が人である以上、対話は可能なのだ。
対話が出来るのならば、協力も出来る。
協力が出来るのならば、世界は間違いなく変化できるのだ。
力で全てを押し切らずとも、人は分かり合える世界を作り出せる。

そのための歩みを人が選ぶために、彼は、ティンバーランドへと協力しているのである。
フィンガーファイブ社はティンバーランドへの資金援助と活動の協力をする内藤財団直系の企業であり、彼らはその従業員だ。
親族が主な経営を行っており、オットーたちも役割のある従業員だったが、特例休暇を取得して今に至る。
彼らがティンバーランドへと加入する条件に挙げられたのは、イルトリアの魔女、ペニサス・ノースフェイスの殺害だった。

それは辛くも成功し、二人はティンバーランドの一員として認められた。
兄のアニー・スコッチグレインは大怪我を負い、自力での歩行は出来ない。
ペニサスを襲撃した際に右腕と右足、睾丸を欠損し、入院中に左足の健が切られて焼き塞がれた。
意識を取り戻してからはリハビリに専念するため、今も自室で体を動かしている。

そんなことを考えていると、汗で濡れたシャツを着たアニーがやってきた。

( ´_ゝ`)「おお、美味そうだな」

機能を奪われた腕と足には、軽量合金で作られた強化外骨格が装着されている。
戦闘用ではなく、医療用の強化外骨格は短い充電で長時間の活動が可能であり、失われた手足の機能を補って余りある力を持っていた。
使い慣れるのに少しだけ時間がかかるが、それでも、手足を失ったストレスを大いに緩和する力があった。
防水性が高く、腐食しない素材で作られた強化外骨格を取り外すのは就寝中ぐらいだろう。

今では新たな手足として受け入れることにし、彼はこうして毎朝運動を兼ねて自室でのリハビリに勤しんでいる。
給与は会社からもらえるが、ここでは金があっても大した意味を持たない。
生活できるだけの力がなければ、金など、意味がないのだ。
小さなコミュニティ故に対人関係は慎重にならざるを得ず、オットーは家事を済ませた後は町の人と共に山に向かい、害獣の駆除などを手伝うことになっている。

害獣駆除には銃や罠を使い、獲れた獣は参加者に平等に割り振られる。
毛皮などは加工され、土産や冬に使う道具に姿を変える。
まさに、自給自足の生活だ。
その生活を一人で行うのは不可能であり、協力し合わなければならない。

例えそれが、越してきて間もない人間だとしても。
この町に住むということは、この町の一部になるということなのだ。

(´<_` )「美味そう、じゃないぞ。
     美味いんだ」

( ´_ゝ`)「そりゃあ期待できそうな言葉だ。
     どうだ、イモジャ、美味いか?」

l从・∀・ノ!リ人「美味しいのじゃ!」

( ´_ゝ`)「イモジャがそう言うんなら美味いに違いない」

48 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:49:49 ID:ic122LF/0.net
規制か?支援

49 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:51:10.063 ID:PPGsJOv10.net
間に合ったか支援!

50 :>>48 さっきからずっと規制の連続でごわす:2020/05/16(土) 22:51:19.250 ID:kBa9++NCa.net
そして、家族団らんの時間が始まる。
登校開始まではまだ時間があるため、三人は他愛のない話をして、この時間を有意義なものにする。
彼らは、まだ知らない。
知る由もない。

――その団欒がそう遠くない内に失われるということに、まだ、気づいていない。

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                    ゝ.::::              ノ.::  ノ     └┘
  , ⌒ヽ . .. :. .:.:.:.         (.:::                     /\.:.:.
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        .:.:.... ...   ┌へ、          _∩__,,
               _,/.::/.:::::;>‐''゙ ̄ ̄ハ .  i . ===|     ‐''゙ ̄ ̄ハ .r─r--::;:-.:.、_::
      _/`yヽ√\ヘヘ:/  ..:::. ...::/ ,::',ノ.:i  .::.:::|;;.;;:;::.:./.::、:/´ ̄`\:-:ー:┴-
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.  . '  :     '    ,     ;   '   ,     ;   同日 AM09:56
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51 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 22:56:41 ID:kBa9++NCa.net
ヴォルデモールから海岸沿いに西に進んだ場所に、その町はあった。
スミーカノステという小さな町で、レストランと兼業しているモーテルが一件だけしかなく、料理を提供する店も五指に収まる程だ。
漁村、という言葉がしっくりくるとデレシアは胸中で思った。
南にあるカントリーデンバーと同じように、極力自給自足を目指しているつつましい町だが、ここは気候が厳しいために農作物は外部に頼らざるを得ない。

新鮮な魚介類を買うことが出来るが、近くにある大きな街と比較すればその漁獲量は微々たるものだ。
自分たちの生活を維持するために毎日働く。
それが、このスミーカノステという町なのだ。
このような形態の町は特別なものではなく、世界中に点在している。

豊かな経済力を手にできない以上は、そこに住む人間達が不都合なく生活できるだけの生活力を身に付けるしかない。
そうして自力で生きられるようになった町だけが、今は生き残っているのだ。
優れた形態の町だけが生き残り、そうでない、依存しきった町は衰退し、滅んでいく。
特に、不定期に訪れる食糧難と異常気象は海沿いに住む人間達にとっては決して避けられない問題だ。

内陸の町も日照りなどの被害を避けられるわけではなく、いつの日か訪れる災厄に対抗する力を蓄えている。
近隣の町が協力し合うこともあれば、逆に、相手の町の持つ力を奪い取ろうとする人間達もいる。
自然淘汰の末にあるのが今の町であり、今ではほとんど小競り合いのようなことは無い。
町が生き残るためには経済に頼らなくてもいい。

町とは人間が集まって出来る物であり、人間が集まるためには安定が必要だ。
非常時に硬貨など何の意味も持たない。
水と食料。
この二つと住む場所さえあれば、人は生きていくことが出来る。

故に、今生き残っている町は非常時への備えがあるか、圧倒的な力を有しているかだ。

ノパ?゚)「見事に何もねぇ町だな、ここは」

ヒートの感想が彼女の口から思わず漏れ出た感想は、核心を突いていた。
建ち並ぶ家屋の間隔は広く、道路は未舗装。
屋根や地面には雪が残り、吹き付ける風を防ぐものはほとんどない。
ヴォルデモールと比べて市場に活気もなく、寒々しく寂しい印象は拭いきれない。

ζ(゚ー゚*ζ「市場もこの町の人間向けのだから、呼び込む必要もないからね。
      活気を出す必要がないのよ」

(∪´ω`)「お店は、それで大丈夫なんですか?」

いい着眼点と質問だった。

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、誰が何を売って、誰が買うのかが決まり切っているから大丈夫なのよ。
      それにここでは物々交換が基本になっているから、お金のやり取りがあまりないの。
      波力と風力発電があれば、ベルリナー海でいくらでも電力が作れるからね」

ノパ?゚)「船の修理とか、その辺はどうなってるんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「修理屋さんを代々やる家があるから、そこが請け負っているのよ。
       何かあった時に修理をする代わりに、食料とかを先払いでもらえるの」

このような形態の町は世界中に点在し、世界の経済活動には大して関心を持たない人間の集まりとなっている。
稀にその形態を変えて商売の道に切り替える町もあるが、その多くは失敗に終わっている。
観光を売りにするには他とは違うものがなければ意味がなく、付け焼き刃的な名物などを生み出したところで、客は来ないのだ。
口コミやラジオ、あるいは新聞を使って情報を広めたとしても、素人の思いつく発想はたかが知れている。

文明的な道具に頼らなければ、人は十分に生きていくことが出来る。

(∪´ω`)「おー、その人たちの道具が壊れたら、どうするんですかお?」

52 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:01:41 ID:kBa9++NCa.net
ζ(゚ー゚*ζ「あら、いい質問ね。
       その時は町の外に行かないといけないから、お金が必要になるの。
       大体の場合、何か売る物を持って別の町に行ってお金を稼いで、それから道具を修理してもらうわね」

ノパ?゚)「道具に頼らなければ自給自足で済むわけだな」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 だからこの町はある意味、完成された形でもあるの」

三人の後ろを静かに自立走行するディを見て、デレシアはそう言った。

ζ(゚ー゚*ζ「この辺りは来たことあるの?」

(#゚;;-゚)「はい、通り過ぎたことがあります」

(∪´ω`)「じゃあ、こうしてお散歩するのは初めて?」

(#゚;;-゚)「そうですよ、ブーン。
    むしろお散歩自体、私にとっては初めてのことです」

ノパ?゚)「散歩のできるバイクなんて、多分ディぐらいだろうよ。
    あたしの知る限りはそうだ」

デレシアの知る限りでも、同意見である。
普通のバイクに散歩という概念は当てはまらないが、ディの場合、情報を吸収するための活動としてそれを自発的に行う設定が可能だ。
実際、ラヴニカでは単独での走行によって地形情報の更新を行っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「自立走行が出来るバイクは何種類か作られたけど、こうして理想的な形態になったのはディだけよ。
       どう? 初めてのお散歩は」

(#゚;;-゚)「走るよりも細かな情報の取得が可能です。
    交通量や人の動きについては、このように観測する他ありませんから」

町を見て回るのに、そう時間は必要なかった。
数十分で一通り見終わると、三人と一台は見晴らしのいい高台へと向かった。
灯台の立つそこからはベルリナー海を一望でき、眼下に岸壁と砂浜が広がっている。
絶えず強風が吹きつける立地だが、高潮に巻き込まれる心配もなく、仮に襲撃者がいてもその方向が特定できる。

夜は風が強く寒いだろうが、それもまた、キャンプの楽しみである。
ディを停め、デレシア達はテントの設営を始めた。
ティンカーベルでのキャンプを思い出したブーンは、腕のリハビリを兼ねて作業をするヒートを積極的に作業を手伝う。
時にはブーンがハンマーを振るってペグを打ち付け、フレームを組み立てる。

三人と一台が寝泊まりするのに十分な広さのテントが建ったのは、設営開始から数十分後のことだった。
冷たい風が火照った体を心地よく撫で、太陽の光が強さを増す。
白い雲が風に流され、ベルリナー海から続々とやってくる。
椅子を海に向けて置き、ローテーブルの上でデレシアは紅茶を淹れ始めた。

(∪´ω`)「はいすいの、じん?」

(#゚;;-゚)「背水の陣、です。
    あえて自らを追い込むことで力を発揮させる方法と言われています」

53 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:04:55 ID:9405EiT8M.net
なにこれ?

54 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:06:10 ID:kBa9++NCa.net
(∪´ω`)「怖いお……」

(#゚;;-゚)「はい、怖いですね。
    ですが人間には、その怖さが力になる時があるようです。
    ちなみに私は、まんじゅうが怖いです」

(∪´ω`)「お? まんじゅう?」

(#゚;;-゚)「今のは冗談です」

ヒートとデレシアが紅茶を飲む間、ブーンはディの上に跨り、会話を続けていた。
正確には、ブーンはディのタンクの上で本を広げ、勉強を教わっていた。
人とバイクとがあのように接する時代を、果たして、誰が予想できただろうか。

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、楽しそうね」

ノパー゚)「あぁ、いいことだな。
    そういえば、前にした話の続きをしてもいいか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、いいわよ」

ノパ?゚)「連中は国を作る、って言ってたけど何でそんな面倒なことをするんだ?
    今のままじゃ何か不都合なことでもあるのか」

ζ(゚ー゚*ζ「そうねぇ、昔の話になるんだけど、国っていくつもあったのよ」

デレシアは木の枝を使って、地面に絵を描く。

ζ(゚ー゚*ζ「ここからここまでは、A国のもの。
      ここからここまでは、B国のもの、って分け合っていたの」

ノパ?゚)「へぇ、線でも引いて管理してたのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「壁を建てている国もあったけど、基本的にはあまりなかったわね。
      地続きの国は壁を建てるだけでも結構なお金がかかるから。
      その境目に関して問題が起きると、国同士で争うこともあったわ」

ノパ?゚)「今でいう、街同士の戦争か」

ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 今は境目についてはかなり曖昧でしょ?
       それが厳格だったのよ、大昔は」

境目が曖昧だからこそ、道路を進んで舗装する街は少ない。
物流に関わる街であれば、安全な輸出入の道を確保するために舗装と整備を行うが、そうではない田舎の町になると舗装路がある方が珍しい。
旧時代の道路が残っていたとしても、整備されていなければ穴とヒビの多い悪路と化してしまう。
それを避けるために、近くの町同士で資金を出し合い、舗装を依頼することがある。

ノパ?゚)「そんな状態に戻してどうすんだ?
    というか、得しないだろ、そんなことしても」

55 :>>53 ブーン系小説でございます:2020/05/16(土) 23:11:40 ID:kBa9++NCa.net
ζ(゚ー゚*ζ「今の状態だとそうね。
      国という統治方法よりも、街の方が便利だもの。
      ただ、あいつらがやろうとしているのは国に分けることじゃなくて、一つの国にすること。
      世界政府、あるいは世界国家、なんていう風に言われている考え方よ」

国境を廃し、統一の基準の元に国という概念を解体する。
そして国を再編成したものが、彼らが長年夢見ている最終目標だった。
今のティンバーランドも恐らくは同じ思想で動いていることだろう。
単位の統一、そして情報の統制がその証拠だ。

各地に散らばった細胞を使い、街と町を繋ぎ、強力な姿へと変貌させる。
カルディコルフィファームはそのいい例で、見方を変えれば小国家としての体を成している。
離れていた町を繋ぎ合わせ、一つの大きな街に姿を変貌させた。
それまで小さかった町が力を得たことにより、周辺地域への影響力は無視できないものがあるはずだ。

ノパ?゚)「内藤財団がラジオをあっちこっちに撒いたのも、やっぱりその下準備か」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、間違いなくね。
      世界情勢をすぐに伝えられるし、何より、それが嘘の情報でも十分に機能をするもの」

情報は時として、銃よりも厄介な武器になる。
限られた情報を盲信した人間が昨日までの隣人を殺して回り、大規模な虐殺と紛争が発生することが数年に一度は起こる。

ノパ?゚)「ってことは、世界中を巻き込む準備は出来上がっているってことか。
    デレシアはどう思ってるんだ、国ってやつを」

ζ(゚ー゚*ζ「正直、この時代には不要の考え方ね。
      街で十分よ。
      それぞれ違うから面白いのよ、この世界は」

ノパー゚)「そいつは同意見だ」

ζ(゚ー゚*ζ「多分ネックになってるのは、ジュスティアとイルトリアでしょうね。
      国にする必要がないほどの力を持つ街を巻き込むには、それ以上の力がいるわ。
      長期的な目で変えようとはしないで、変えるとしたら一気に動くと思うわよ」

ノパ?゚)「大体答えは見当がついてるけどよ、もしもあいつらが動いたら、デレシアはどうするつもりなんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「潰すわよ、徹底的に」

ノパ?゚)「質問ばっかりで悪いんだが、あいつらの事を知ってるのは他にもいるのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、正にジュスティアとイルトリアね。
      “デイジー紛争”をきっかけに、組織の存在は察知していたわよ」

ティンカーベルで起こったイルトリアとジュスティアの軍事的な衝突。
その背後には、間違いなくティンバーランドの影があった。
双方を争わせることで弱体化、あるいは消滅を目論んだのであろう画策は、だがしかし、ペニサス・ノースフェイスと当時の市長たちの活躍により未遂に終わった。
一発の銃弾が世界を変えたかもしれない事件の当事者は、今はもう誰も生きていない。

56 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:14:08 ID:sD1JC+fBM.net
支援

57 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:16:01.494 ID:kBa9++NCa.net
ひょっとしたら、ディはいくつかその時のことを記憶しているかもしれない。

ノパ听)「ま、何かあったらあたしも手を貸すさ」

ζ(゚ー゚*ζ「無理はしないでね、ブーンちゃんが悲しむわ」

ノパー゚)「あぁ、もう無理はしないってことと、あの糞尼は、間違いなくあたしの手で殺すって決めたからな。
    でも、次に無理をするとしたら、そん時はブーンのためって決めたんだ」

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日が傾き、周囲が徐々に暗くなっていく。
殺伐とした風景が続く中を、トラックの一団は同じ車間と同じ速度で走り続ける。
未舗装の路面が積み荷にかける負担を考え、速度は決して速いとは言い難いが、不満のある速度でもなかった。
最後尾を走るトラックの運転席で、ポットラック・ポイフルはラジオから聞こえてくる音楽を口ずさみ、同乗者に声をかけた。

从´_ゝ从「なぁ、トラギコ、あんたは晩飯何が食いたい?」

二人掛けの助手席に座っていたトラギコ・マウンテンライトは読んでいたペーパーバックから目を上げ、答えた。

(=゚д゚)「肉だな。
    血の滴るような肉とワインがいいラギね」

从´_ゝ从「オサムは?」

トラギコの後ろにある広々とした席で眠っていたオサム・ブッテロが、ぼそぼそと言葉を紡いだ。

( ゙゚_ゞ゚)「あー、パンケーキだ、シロップの滴るようなパンケーキとハチミツが飲みたい」

(=゚д゚)「……気にするな、とりあえず、あんたたちに合わせるラギよ。
    またどこかのダイナーに寄るラギか?」

58 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:17:52.331 ID:ic122LF/0.net
ああ飯テロ

59 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:20:13.378 ID:7UeCXyAhp.net
兄者と弟者の生活が平穏すぎて怖い…

60 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:21:13 ID:kBa9++NCa.net
从´_ゝ从「あぁ、さっきヴォルデモールを通り過ぎた時に看板が見えたなかったか?
     トラック野郎御用達の店は、大体決まってるんだ。
     それに安心してくれ、肉もワインも、パンケーキも食える。
     味は保証するよ」

(=゚д゚)「へぇ、そいつは嬉しいラギね。
    料理評論家みたいなやつらよりも、あんたらみたいな連中の口コミが一番信頼できるラギ」

派遣型の警官であるトラギコにとって、各地にある美味なものを食べるのは小さな楽しみである。
少なくとも、頭の痛くなるような事件が連続している時には美味い物を食べれば多少は心が安らぐ気がするのだ。
高級な料理よりも、やはり、大衆向けの味がトラギコの好みだった。

从´_ゝ从「肉を食っても余裕があるようだったら、そこはコロッケが美味いんだ。
      ジャガイモだけで作ったコロッケなんだが、抜群に美味い」

(=゚д゚)「あとどれぐらいで着くラギ?」

从´_ゝ从「そうだな、この速度ならざっと一時間、ってところだな。
     この辺は路面があんまりよくないから、速度を出せないんだよ。
     小腹が減ったんなら、後ろの席に色々あるぞ」

間髪入れず、後ろの席でオサムが立ち上がる音が聞こえた。

( ゙゚_ゞ゚)「どの辺りだ?」

从´_ゝ从「保冷庫があるだろ? そこに色々あるはずだ。
     腹いっぱいにすると、次のところで食えなくなるぞ」

まるで子供に言い聞かせる親のような言葉だった。
オサムはその言葉で探索する手を止め、席に戻った。

( ゙゚_ゞ゚)「ちぇっ、仕方ない」

二人の苦笑が同時に口から出た時、ラジオからジュスティアに関するニュースが流れ始めた。

『それでは、本日のニュースです。
昨夜、ジュスティア市長のフォックス・ジャラン・スリウァヤからの発表があり、ティンカーベルでの事件を企てた組織に関する情報に懸賞金がかけられました。
ティンカーベルでの事件においては、セカンドロックの襲撃、容疑者移送中の襲撃など、非常に多くの戦闘行動があり、多数の死傷者が出ています。
これを受け、有力な情報提供者に最高で100万ドルの報酬を出すことと、契約先の街に派遣している警察官の人数と装備を改めることが決定されました』

( ゙゚_ゞ゚)「随分とでかく動いてるな」

(=゚д゚)「そりゃあ大事だったからな」

从´_ゝ从「あれだろ、橋を落とされたやつだろ?
      どうなってんだかな、今の世の中」

(=゚д゚)「まったくラギ。
    これで賞金稼ぎが増えることになるラギね」

61 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:26:38.476 ID:kBa9++NCa.net
賞金首は主に発見して逮捕することが困難であると判断した犯罪者にかけられることが多く、その目的は犯罪者に対する牽制だった。
周囲に自分を狙う人間がいると疑心暗鬼になり、不安に襲われて自首する者は決して少なくはない。
生死を問わずにその人物が社会的、法律的な制裁を受けることがジュスティアの達成するべき最低限の目標であるため、賞金首の形態は便利なものだった。
ただし、それを発令するには街単位の判断に委ねることが原則で、ジュスティアが率先してそれを発表することはない。

誤認による被害者や巻き込まれる人間のリスクを天秤にかけた時、ジュスティアとしてはあまり容認できることではないのだ。
故に、市長が依頼をして初めて賞金首が各所に知らされることになる。
今回異例だったのは個人ではなく、組織に対して賞金がかけられたことだ。
トラギコのような現場の人間がこの発表を聞いた時に思うのは、警察本部でさえ組織の情報を掴めていない、という点である。

優れた情報網を持ち、世界中にいる関係者でも有力な情報を得られていないということは、かなり手ごわい組織であると判断することになる。
トラギコの所属する“モスカウ”も恐らくは、正確な情報を掴めていないのだろう。
彼が情報を提供した上層部の下した判断は、決して悪手とは言えなかった。
中途半端に情報を秘匿しても、喜ぶのはジュスティア内部に潜んでいる組織の人間だけだ。

疑問があるとしたら、何故フォックスの発表が遅れたのか、という点だ。
彼は優秀な人間で、判断を誤るとは思えない。
決断するのに時間が必要だとしても、襲撃から二、三日で発表が出来るはずだ。
何かを準備していたのか、それとも、何かを警戒していたのか。

半月も間を開けたことに、トラギコは何か意図があると考えた。

( ゙゚_ゞ゚)「賞金のシステムは悪くないんだが、どうやって情報の真偽を判断するつもりなんだ」

(=゚д゚)「俺に訊くな。 俺は関係ねぇラギ」

情報に対して賞金を懸ける際、必ずと言っていいほど、偽の情報が出てくる。
それは捜査を混乱させ、正確な動きを邪魔する効果がある。
牽制が目的の懸賞金であるのなら、やはり、フォックスが時間をかける必要はない。
モスカウの統率者、ワカッテマス・“ロールシャッハ”・ロンウルフを派遣したことと関係があるのだろうか。

ラヴニカで別れて以降、連絡らしきものは一切ない。
単独行動がモスカウの人間が持つ性質的なものである以上、トラギコとしてはありがたい限りだ。
幸か不幸か、トラギコが欲している情報を持つオサムを手元に置くことが出来たが、言い換えれば面倒を押し付けられた形でもある。

从´_ゝ从「あんたら色んな街に詳しそうだな。
      さっきの店だけどな、ホールバイトって街の出身者がやってるんだ。
      行ったことあるか?」

ポットラックの良い所は、トラック運転手らしく相手の過去に深入りしないところだ。
これがもしも別の、例えば街にあるバーやホテルでの会話であれば、トラギコたちがどこの出身者かと訊くことだろう。
そして二人の仕事についても、あれこれと詮索したかもしれない。
しかし彼は、その辺りの距離感を心得ていた。

(=゚д゚)「“食い倒れの街”か。
    行ったことは無いけど、話は聞いたことがあるラギね」

( ゙゚_ゞ゚)「俺は名前も知らんな。
     どんな場所なんだ?」

62 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:30:59 ID:kBa9++NCa.net
从´_ゝ从「タルキールとヴィンスの真ん中辺りにある街で、正直そこまで大きな街じゃない。
     だけど、そこは飯がとにかく美味いんだ。
     屋台だろうがどこだろうが、美味い。
     そんでもって、量がやばい」

ヨルロッパ地方にある街で、海から離れた内陸の方にあることは知っている。
街中にある飲食店の数は、ホテルの数よりも多いと言われているほどだ。
観光客はホテルを予約しなくても飲食店で眠りに落ちるまで滞在できるため、その行為自体が一種の名物の様になっていると聞いたことがある。

(=゚д゚)「他の大盛りがホールバイトの小盛り、って言うのは聞いたことがあるラギ」

从´_ゝ从「あぁ、そのぐらいの差がある。
     実際、三日もいれば四ポンド半は――っと、今はキロで言うんだったな。
     ちょっと待ってくれよ、今勉強してるところでな、一ポンドがコンマ四だから……
     三日で大体二キロは太る」

(=゚д゚)「へぇ、運送業も単位の変更をするラギか」

先月行われた内藤財団による新単位の発表。
内藤財団が関わっていた企業を筆頭に単位の変更が速やかに行われ、その影響は予想に違わず世界中に広がっている。
世界最大の企業である彼らが単位を切り替えると言えば、それに従う会社も切り替えることになり、取引先も否が応でも変更しなければならなくなる。
製造業において単位を握られるということは命を握られることに等しい。

大手の取引先が新規格で製造を指示すれば、下請けはその規格に合わせて製造をする。
すると、従来の規格が邪魔になるため、製造の速度と精度が低下することにつながる。
そうなれば、大手は新たな下請け会社に依頼をするだろう。
取引先を失った下請け会社は生命線を絶たれることになり、待っているのは廃業、もしくは買収されるという未来だけだ。

つまり内藤財団の発表はある意味で、世界中の企業に対する宣戦布告に等しかったのだ。
ライバル視をしている大手企業でさえ、内藤財団とのつながりを完全に断つことは出来ない。
どの企業も商売をする以上、どこかで内藤財団とのつながりが見つかるのである。
“内藤財団指数”とも呼ばれるその形態は、一歩間違えれば経済の支配に繋がってしまう。

それを分かっているからこそ、新単位の発表に対してどの企業も声を上げなかったのだろう。

从´_ゝ从「俺たちは長さと重さの単位が絶対に必要になるからな。
      荷物の大きさと重さで値段も変わるし、トラックの調節も必要になる。
      ま、仕方ねぇさ」

( ゙゚_ゞ゚)「なぁ、その店は値段は高いのか?」

从´_ゝ从「これがな、びっくりするぐらい安いんだよ。
     安くて美味くて量がある、っていうのが売りだからな」

(=゚д゚)「よくそれで商売できるラギね」

トラック運転手は通りかかる街について、旅行客よりもその内情に詳しい。
これからトラギコが向かうヨルロッパ地方は、彼にとってあまりなじみのない地域なのだ。
小さなことでも情報があるだけで物事は有利に進む。
目的地であるイルトリアについて、足を踏み入れようと思うジュスティア人や警察官はいない。

トラギコでさえ、立ち寄ろうと思ったことも、その機会に恵まれたこともない。

63 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:34:26 ID:kBa9++NCa.net
从´_ゝ从「街が本家で、その店のノウハウやらレシピやらを系列店や関係店に年間契約で売ってるんだ。
      フランチャイズ、って運営形態らしい。
      だから街全体が潤っているから、飲食業への保証金も多い。
      その分価格が抑えられるんだそうだ」

( ゙゚_ゞ゚)「じゃあ今晩行くところも、そういう店ってことか」

从´_ゝ从「そうそう。 コロッケのレシピとかがそうなんだ。
     例えば1ドルのコロッケが一年で1万個売れたとしたら、その分の売り上げの何割かを支払うんだ」

(=゚д゚)「でもよ、売り上げを誤魔化せば支払う金額は安く済むんじゃねぇのか?」

从´_ゝ从「そう思うだろ? そうなんだよ、実際。
     ただ、そこは信頼関係で成り立たせているのが面白い所なんだ」

(=゚д゚)「ってぇと、店側の主張を信じるってことラギか」

从´_ゝ从「そりゃ、年間の契約費用は別に取られるけどな。
      プラスアルファの金については、店側の主張を信じることになってる」

(=゚д゚)「お人好しっていうか、このご時世に珍しい商売の仕方をするラギね」

从´_ゝ从「あぁ、だから皆あの街が好きなのさ。
     悪事を働こうって気持ちがなくなる」

それから三人はこれまでに訪れたことのある街についての話を始めた。
世界にある街の数、そしてその名前を正確に全て言える人間は学者でさえもいないだろう。
街は生き物のように生まれ、潰え、別れ、そしてまた生まれる。
地図屋は毎年その会社のある街の周辺地域を調査し、地図に仕上げる。

そして地図屋たちは異なる会社であろうとも、最終的にはその地図をある程度の地域ごとにまとめて記載したものを販売する。
特に物流に関わる人間はその地図を頼りに配送をするため、街の位置は非常に重要になる。
道路のある場所ならばまだしも、今彼らが走っているような荒涼とした大地が広がり、道路標識も舗装もない場所では地図が頼みの綱になる。
目標物だけで位置が分かる程に慣れている人間であっても、悪天候や夜間にはその感覚が狂ってしまうため、地図は必須なのだ。

時間が経ち、目的地が近づいてきたことが無線機を通じて先頭車両の男によって全員に伝えられる。
自動運転を切り替える準備を始め、ポットラックは姿勢を正した。

从´_ゝ从「そろそろだな。
      買い出しに行くのはドミニクって奴だ。
      悪いけど、また頼むぜ」

(=゚д゚)「任せるラギ。
    俺たちは店で食ってていいラギか?」

从´_ゝ从「あぁ、ここで一旦長い休憩を取ることになってる。
      トイレとか外の空気を吸いたいとか、色々あるからな。
      ただ、積み荷のことがあるから外に出るのは交代制にしてるんだ。
      モーテルがこの先にあって、到着は大体11時ぐらいになるから、それまでの休憩さ」

(=゚д゚)「分かったラギ。
    何かあったらすぐに声をかけてくれよ」

从´_ゝ从「頼もしいな、助かるよ」

日が暮れ、空が黒と群青色に染まる頃、右手側に広大な駐車場――整地しただけ――と店が見えてきた。
空に輝く星のように、その店の看板は小さな光で照らし出されている。
赤茶色の屋根を持つ一階建てのダイナーはその見かけの割に大きく、店の中は外から見ただけで賑わっているのが分かる程だった。
辺鄙な土地にも関わらずこの人気ぶりは、必然、その料理が優れていることを示している。

64 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:37:23 ID:PPGsJOv10.net
オサムが普通に会話できててなんか驚くわ
デレさんの前でおかしくなってただけなんやね…

65 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:37:55.197 ID:kBa9++NCa.net
トラックの一団は無駄のない動きで隣り合わせに駐車し、無線機を使ってそれぞれの運転手が夕飯の依頼をドミニクに伝える。
トラギコとオサムはトラックを降り、ドミニクと共にダイナーに入った。
店内は外から見た通りに混雑しており、高めの天井が解放感を演出している。
外の空気とは違い、店内の室温は程よく調節されていた。

メモ帳に書かれた注文を店員に伝え、三人は待機用の椅子に座った。

(^J^)「あんたらはここで食うんだろ?」

(=゚д゚)「あぁ、せっかくだからな。
    コロッケが美味いって聞いてな、どうせならビールと一緒に飲もうと思うラギ」

(^J^)「ポットラックはあれで結構グルメだからな、あいつのお勧めなら間違いないさ。
   ……なぁ、あんまり深い意味はないんだか、あいつをどう思う?」

(=゚д゚)「いい奴ラギよ。
    詮索してこないってのがいいラギ」

( ゙゚_ゞ゚)「あぁ、詮索好きは好きじゃない。
    それは俺も同感だ」

(^J^)「そっか、そりゃ安心したよ。
   あいつ結構自分のことを話さないから、苦手な奴もいるみたいでな。
   仲良くしてやってくれ」

(=゚д゚)「そりゃそうラギ。
    むしろ俺らからしたら、乗せてもらってるだけありがたいラギ」

(^J^)「あんた、見た目によらずいい奴なんだな」

(=゚д゚)「よく言われるラギよ」

( ゙゚_ゞ゚)「俺も言われるんだ、実は」

(=゚д゚)「まだ寝ぼけてるのか、後で俺がタバスコジュース奢ってやるラギ」

(^J^)「それならちょうどいいメニューがここにあるんだ。
   チャレンジメニューって言ってな、完食できればタダ、できなければ罰金って奴さ。
   チキンレース、って名前の料理だ」

(=゚д゚)「臆病者でも炙り出すレースラギか?」

(^J^)「鳥の手羽を使った唐揚げなんだが、辛さが五種類あるんだ。
   これが厄介なのさ」

( ゙゚_ゞ゚)σ「辛い料理なら任せてくれ、こいつがいくらでも食う」

(=゚д゚)「そりゃあいい、後で手前の目に特製の目薬をくれてやるラギ」

(^J^)「はははっ、仲いいな、あんたら。
   おっ、料理が来たぞ」

店員が持ってきた紙袋を三人で分担して受け取り、それぞれの運転手の元へと届ける。
そして運転手たちがトラックで食事をする間、トラギコたちはダイナーへ再び向かった。
カウンター席に案内され、二人はビールとコロッケを注文した。
注文の品が来るまで、一分もかからなかった。

66 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:42:25 ID:kBa9++NCa.net
コロッケは小皿に一つだけ盛られ、付け合わせには申し訳なさ程度のキャベツの千切りが乗っている。
この辺りの気候の関係でキャベツなどの葉物が高いことは知っているため、二人はそれに対して何も思わなかった。
大人の顔程の大きさのジョッキには金色に輝くビールが注がれ、真綿の様に白く柔らかそうな泡が乗っている。
二人はビールジョッキを無言でぶつけ合い、その中身を呷るようにして一気に飲んだ。

(=゚д゚)「ぷはっ!!」

( ゙゚_ゞ゚)「ふほっ!!」

ソースをたっぷりとつけたコロッケをフォークで半分にすると、中から湯気が立ち上ってきた。
ザクザクとした衣は、間違いなく揚げたてであることを意味している。
潰したジャガイモと、ザク切りのジャガイモで作られたコロッケからは甘く香ばしい香りが湯気と共に漂う。
口に放り込み、咀嚼した瞬間、猛烈な旨味が口中に広がった。

コロッケにつけたソースは酸味、辛味、そして甘味がちょうどいい塩梅で一体となっており、それだけでも十分に美味い。
中のジャガイモには甘味と若干の塩気があり、それがソースによって口の中で一つの料理として完成する。
衣の歯応えは楽しくすらあった。
それを一気にビールで流し込む。

(=゚д゚)「うめぇ!!」

溜息と共に声が出る。
単純な味の中にある複雑な構成は、酒だけでなく普通の食事としても優秀だ。
白米か、もしくはコッペパンが欲しいところだった。
この皿に乗っているキャベツとコロッケを挟めば、恐らくは最高のコロッケパンに化けることだろう。

( ゙゚_ゞ゚)「確かに、こんな美味いコロッケは初めてだ」

(=゚д゚)「そういやよ、お前は主にどこで活動してたんだ?」

( ゙゚_ゞ゚)「何だ、今更俺を逮捕しようってか?」

ラヴニカで合流して以降、二人の関係は良好な物になっていた。
名うての殺し屋のオサムに関する逮捕案件は、トラギコの知る所ではない。
むしろ、記憶を失っている犯罪者を外に連れ出したのは他ならぬワカッテマス・ロンウルフ本人だ。
つまり、ジュスティア警察がオサムの正体を知っておきながら逮捕しなかったことになる。

トラギコがここで彼に手錠をかけてジュスティアに連れて行ったところで、得られる物は交通費などに関する申請書ぐらいだ。
二人の目的が一致している間は、まだ協力関係でいても問題はない。

(=゚д゚)「そりゃまた今度ラギ。
    土地勘がある場所なら、色んな情報が得られるからな」

( ゙゚_ゞ゚)「なるほどな。 だけど俺はヨルロッパ地方にはあんまり来たことはないぞ。
     こっち側はイルトリアがあるからな、殺し屋をやるんならこっち側は相当な実力がないと商売にならない」

(=゚д゚)「確かにな」

西のイルトリア。
東のジュスティア。
世界を二分する時には、このように切り分けることが出来る。
位置もそうだが、互いの街が持つ圧倒的な力が分断する時の最たる理由だ。

( ゙゚_ゞ゚)「仕事で数回だけだな。 少なくとも、十回以下だ」

(=゚д゚)「ってことは、イルトリアも初めてラギか」

( ゙゚_ゞ゚)「あぁ。 あそこに好んで行く奴なんていないだろ。
    それに、あの街で俺が仕事をすることはねぇよ。
    俺よりもやばい奴がいるんだ、冗談じゃない」

67 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:47:07 ID:kBa9++NCa.net
残ったコロッケが冷めない内に二人はそれを胃に収め、ビールを追うように飲む。
イルトリアはその多くが軍人、あるいはそれに似た職業に就くことで有名なことからも分かる通り、戦闘行為が日常生活の中に組み込まれているのである。
ジュスティア人が警察に憧れるように、イルトリア人は軍人に憧れ、その職を志すという。
異なる民間軍事会社に就職したイルトリア人が戦場で再会し、殺し合うことは良くある話のようだ。

彼らの恐ろしいところは、人を傷つけることに対して幼少期から訓練を積んでいる人間が多いということである。
学校教育の中で行われる自己防衛の授業では徒手格闘、武器を使った訓練も行うと聞いたことがある。
流石のジュスティアでも護身術を学ぶ程度で、武器を使った学習は行わない。
ある意味、殺しの英才教育を受けた人間達が住む街であるため、目的がない限りは寄り付く人間はまずいない。

しかしその反面、イルトリアの犯罪率は極めて低く、その解決率は極めて高い。
殺し屋であるオサムが忌避するのも頷ける話だ。
イルトリアは銃で武装し、ジュスティアは正義で武装する。
どちらも厄介な存在であることに変わりはないが、正義という精神的なものが介入しない限り、単純な厄介さはイルトリアに軍配が上がる。

( ゙゚_ゞ゚)「この後の話だが、イルトリアに着いてからどうするんだ?」

(=゚д゚)「そりゃ、お互いの目的が来るのを待つだけラギ」

言わずもがな、それはデレシア一行のことである。
彼女がイルトリアに向かうというのは、ただの勘ではなかった。
トラギコが調べた限り、これまで彼女が関わってきた人間の多くがイルトリア出身者である可能性が高かった。
つまり、イルトリアとの強いつながりを持つのであれば、最終的にはそこに辿り着くはずだ。

スノー・ピアサーの到着駅を考えても、イルトリアへ向かう可能性は非常に高い。
件の組織、ティンバーランドと深い因縁のある彼女がイルトリアに向かう理由も、いくらでも考えつく。
無論寄り道などはあるだろうが、トラギコは自分の推測が正しいことを確信していた。

( ゙゚_ゞ゚)「待つのはいいとしても、金はあるのか?
     俺の手持ち、後三ドルだけだぞ」

(=゚д゚)「まだ大丈夫ラギ。
    小遣いもらったからな」

出張費としてもらった金もあるが、ワカッテマスが密かにトラギコの荷物に忍ばせていた金もあった。
付箋に追加出張費、と書かれていただけだが、一万ドルも費用でもらったのは初めてのことだった。
それだけ長期間の出張を予定しているのか、それとも、別の面倒ごとを押し付ける気なのか。
両者である可能性は否めず、これまでの傾向を見るに、その可能性が一番高かった。

しかし金がある以上、トラギコは憂うことなくこの仕事を続けられる。
ティンバーランドの一件がどれだけの期間続くのかは分からないが、彼らがまだ本格的に動いていないのが気がかりだった。
世界中でこれだけ騒ぎを起こしておきながら、まだ、その最終目的が分からない。
経済の支配を目論んでいるのであれば、それはもう十分に果たされている。

だが、それはあくまでも第一段階、途中経過でしかないとトラギコは考えている。
その気になればもっと早い段階で実行出来た問題であり、尚且つ、街を巻き込んだ争いを起こす必要はない。
途中経過のその先、ティンバーランドの歩みの先にある物が分からなければ、この一件は解決することは無いだろう。
恐らくはデレシアがその答え、もしくはヒントを持っている。

68 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:51:53.027 ID:kBa9++NCa.net
彼女に再び会った時の事を考えつつ、トラギコはメニューを開き、豚のスペアリブを注文した。
揚げ物が美味い店は大抵何を食べても美味いのだ。
そして二人は腹八分目で食事を終え、トラックに戻ることにした。

(=゚д゚)「……」

( ゙゚_ゞ゚)「……」

トラックに近づいたところで、二人は無言になった。
二人は同時に拳銃を抜き、安全装置を解除して遊底を引いた。
撃鉄の起きた拳銃を構え、トラックが牽引しているコンテナの方に回る。
コンテナのすぐ傍で三人の男たちが一人の男を囲んでいた。

取り囲まれている男はポットラックだった。
トラギコは銃を背中側に隠し、片手をあげて声をかけた。

(=゚д゚)「よう、どうしたラギ?」

取り囲んでいる男たちは、トラックの運転手ではなかった。
覆面をし、手にはナイフを持っている。
その切っ先はポットラックの喉元に押し当てられ、彼の怯えている表情が見えた。
怯えて声が出せないのは、一目で分かった。

(::0::0::)「うるせぇ、失せろ」

(=゚д゚)「おいおい、怖い事言うなよ――」

次の瞬間、銃声と共にポットラックにナイフを向けていた男が崩れ落ちた。
銃声はトラギコの背後からだった。

( ゙゚_ゞ゚)「――怖すぎて銃爪引いちまったじゃねぇかよ、おい」

残った二人の男が体の向きを変えるよりも先に、トラギコはM8000で二人の膝に銃弾を馳走していた。
膝を破壊されたことによって男たちは悶絶しながらその場に倒れ、悲鳴と呪詛を口にする。
オサムが撃った男は口を押え、くぐもった悲鳴を上げている。

(=゚д゚)「平気か?」

从;´_ゝ从「あ、あぁ、ありが……とう」

(=゚д゚)「なぁに、良いってことよ。
    ところで、この辺りの犯罪者の扱いはどうなってるラギ?」

周囲に見える明かりはまばらで、非常に小さな町の端にこのダイナーがあることは分かる。
問題は、その町の法律がどうなっているのか、だ。
必要であれば引き渡しの手続等があるのだが、それは町の人間でなければ分からない。

从;´_ゝ从「あんたら一体、何なんだ……」

(=゚д゚)「言っただろ、腕っぷしがいいって」

店員の通報を受けて警備会社の人間が現れた時には、すでにトラックは出発した後だった。
駐車場には血痕と重症の強盗。
そして、三つの薬莢が転がっているだけであった。

69 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/16(土) 23:54:10.512 ID:ic122LF/0.net
あーーコロッケくいてーー

70 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/17(日) 00:01:55 ID:GS/MT5lKa.net
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Ammo→Re!!のようです Ammo for Remnant!!編
第一章【Remnants of footprints-足跡の残滓-】 了

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71 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/17(日) 00:03:57 ID:GS/MT5lKa.net
夜遅くまで支援ありがとうございました

これにて本日の投下は終了となります
なお、最後の大型AAは連投規制のためにカットいたしましたので、ご了承くださいませ

72 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/17(日) 00:10:04.209 ID:OEUldFFlM.net
投下乙です
飯テロの破壊力ありすぎる

73 :以下、VIPがお送りします:2020/05/17(日) 00:25:09.85 ID:BIltyCpW5


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