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春と僕とちいさな死神

1 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:40:38 ID:naY8Lwk80.net
初めて投稿します。不定期更新ですが、なるべく毎日書きます。よろしくお願いします。

「死ぬ前に、心の浄化を希望されますか?」

「心の浄化?」
「ええ、そうです。希望されますか?」
「具体的にはどんなことを」
「大した事ではないです。必要な会場に行き、必要な手続きを終えたうえで、「施設」の方と一対一の面接を行います。そうして、自分の人生への未練を消してもらうんです」
「そりゃ、ずいぶんと親切なサービスがあるもんですね」
「まあ、いざ本番になって、安楽死を拒否される方も多いので、我々としてはこれを推奨しています。安楽死は、その事前手続きであなたの存在を完全に抹消することを前提としていますから」

2 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/22(金) 23:41:27 ID:FMg/IDdT0.net
ちゃんとみてるから最後までかけよ

3 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:42:16 ID:naY8Lwk80.net
安楽死。
法定の「人生選択」として認められたのは、2100年の国会でだった。死を選ぶ権利が叫ばれ、集団自殺が国内各所で決行されることを受けてのことだった。
それもそうだ。だれも生まれたくて生まれたわけではない。いつの間にか、生まれていたのだ。

「最も悪いことは、この世界に生まれたことである。次に良いことは、今すぐ死ぬことである」
そんな哲学者の言葉も、今や一つの価値観として浸透していた。特に僕のような、友達も、家族も、あらゆる人間関係に疲れ切った人間にとっては、素晴らしい救済措置であった。
大学二年の春には、退学届けを早々に出した。表向きの理由は、引っ越しだった。だが、僕が消えたからと言って、別に何かが変わるわけでもない。

「死亡前死亡同意書」という、非常にわかりづらい名前の書類が、僕の最後の公的文書となった。
これにサインをすると、僕が死んだらすぐに、行政関係のあらゆる記録から、僕の存在が抹消される手はずになっているのであった。すばらしいと思った。

この世に未練はない。そう思っていた矢先の提案に、僕は戸惑いつつも、その「浄化」とやらを受けることにした。

4 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/22(金) 23:42:28 ID:JPo+xVBRa.net
台本形式なら改行してくれ!
頼むエタらないでおくれ

5 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:43:17 ID:naY8Lwk80.net
―施設にてー

パイプ椅子が一つ、廊下の中央にぽつんと置かれている。
はたから見れば大変奇妙な状況だったが、むしろ、僕の精神状態を表すにはちょうどいいというか、
死を選んでここに来る人にとっては、むしろ楽になるんじゃないかとすら思った。

「施設」という名前で紹介されたこの建物は、外見はただの雑居ビルだった。
繁華街のど真ん中にある、さびれた見た目をした建物である。
しかし中に入ると、これまた、奇妙なくらいに静かで、
奇妙なくらいに居心地の良い場所だった。

だが、ここに来たということは、もう元には戻れないということでもあった。

僕は入り口でちょっといた書類を出すと、この椅子に座って待つようにと言われた。
相手は、無機質な受付用のロボットだった。もう20年以上前の古い型だった。
もし「それ」が「彼」や「彼女」だったなら、僕はもう少し人間らしい気持ちになったのかもしれない。

6 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:44:29 ID:naY8Lwk80.net
「お待たせしました。そのまま、廊下の一番奥の部屋にお入りください」

ロボットの人工的な声が、空間に木霊した。
僕は立ち上がり、その不気味な雰囲気の廊下を、ただまっすぐに歩いた。
突き当りの扉を、軽くノックする。

どうぞ、と、小さな返事があった。引き戸をガラガラと音を立てながら開ける。

「どうぞ、かけてください」

創造とは、かけ離れた空間がそこにはあった。
茶菓子が用意された洒落たテーブル。紅茶の香りが部屋に充満していた。
そして、その机の前に一人、小柄な少女が腰かけていたのだった。

7 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:46:08 ID:naY8Lwk80.net
「えっと……その……」
「大丈夫です。あなたのことはもう知っていますから」
「それって…」
「いいんですよ。ここはただ、私が居心地のいいようにした空間なんです。
ここで私という存在は完結していて、
これ以上も、これ以下も、私にはないんです」

8 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:46:44 ID:naY8Lwk80.net
不思議な言葉遣いだった。
白衣の下に、細く、透き通る様に白い体のラインが浮かんでいた。
小さな、それほど自己主張が大きいというわけではない胸。
青い瞳が、美しく光を反射した。
肩のあたりで切りそろえられた髪の毛は、開いた窓から吹き込んだ春の風に、うっすらとなびく。

「私は、赤桐ユキ。ここの所長であり、日本の法律で、
公的に認められた「浄化師」であり、正真正銘の「死神」です」

9 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:47:15 ID:naY8Lwk80.net
彼女の笑顔が、僕の網膜に焼き付いた。
彼女は「死神」だ。僕の本能が、そういった。

「……死神?何かの比喩ではなく?」
「えぇ、正真正銘の「死神」です」

10 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:48:20.028 ID:naY8Lwk80.net
彼女の言葉に、ごまかしているような様子はなかった。
むしろ、彼女が死神であるという事実が、
初めからわかりきった世界の真理であるようにも感じられた。
それくらい、自然だったのだ。そうして、その自然な表情で、
彼女は温かい紅茶を一口、静かに飲んだ。
コーヒーカップの無機質な音が、部屋に響いた。

11 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:49:36 ID:naY8Lwk80.net
「私が「死神」ってことが、どうしてこんなにもしっくりくるのか、疑問ですか?」

それは、まさに僕がいま考えていたことだった。不自然なほどに自然。
あり得ないほどにありえている。

「その質問にはお答えできません。
でも、まぁ、そういうことが世の中にはあるということですよ。
そして、その事実を、あなたの本能は知っているはずです」

それは死神だ。と、僕の意に反して、僕の本能が告げた。

12 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:50:19 ID:naY8Lwk80.net
「さぁ、面倒な質問はやめて、さっさと本題に入りましょ。
それと、早く飲まないと紅茶が冷めちゃいますよ」

人に紅茶を入れてもらったのは何年ぶりだろうか。
いや、それ以前に、人に紅茶を入れてもらって、
ふるまってもらうという行為自体が、僕の人生に存在しなかったことでもあった。
それは初めての経験であり、あまりに静かで、あまりに平穏な出来事だった。

13 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:51:31 ID:naY8Lwk80.net
僕は一口、カップからその紅茶を飲んだ。
ぷつり、と、僕の意識は、突然すべてが幻想的な空間に包まれたかのようになった。
視界は確かに、先ほどと変わらない部屋にいた。
しかし彼女が、僕の目の前から、ゆっくりと、こちらに近づいてくるのであった。
そうして、彼女は、「僕」が「僕」であるための境界線のようなものを、軽々と超えた。
唐突に、胃の内容物を吐き出したくなるような吐き気に襲われた。
激しい頭痛がやってきた。めまいが襲った。苦しかった。

14 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:52:05 ID:naY8Lwk80.net
「つらいのは最初だけです。すぐになれます」

赤桐は気にも留めずに、僕の中へと侵入していた。
彼女の輪郭は、もはや完全に保たれてはいなかった。

いや、正確には「初めから」そんなものはなかったのだ。

彼女は僕の中に、ゆっくりと入りこんでいく。
僕と彼女の輪郭が、ほとんど不鮮明になる。
そうして、彼女は僕の記憶を、ゆっくりと紐解き始めた。

瓦解していく心象風景。
僕の意識は、生まれ故郷の小さな村にとんだ。
そうすると、僕の意識の不快感も、遠のいた。

15 :さよならさん:2020/05/22(金) 23:54:14 ID:naY8Lwk80.net
今日の更新分はここまでです。ある程度メモ帳のほうに書き溜めてあります。
次回からは、今回の半分くらいの分量になると思います。

エタらないように頑張ります。>>4、>>2 を含め、どうか見守ってください。
それでは、また明日。

16 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2020/05/22(金) 23:55:06.252 ID:FMg/IDdT0.net
>>15
お疲れゆっくり休んでや

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