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梓「1対1で勝てる動物ですか?」

1 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 22:45:21.12 ID:27NXrnN90.net
梓はきょとんとした顔で、唯の質問をオウム返しする。

「うん。何なら勝てると思う?」

唯はニコニコとした顔で繰り返した。

「そうですねぇ」

梓はうーんと唸りながら腕を組んだ。

2 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 22:46:23.22 ID:27NXrnN90.net
「ネズミくらいなら、勝てそうですけど」

しばらくすると、梓が顔を上げてそう言った。

「犬はどう? 勝てそう?」

唯は瞳をキラキラと輝かせている。

「犬は、無理だと思います。チワワでも吠えてると怖いんです」

梓は両手を広げてみせた。

「そうなのかぁ」唯が満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ私には勝てないね」

そう言うと頭にぴょこっと犬の耳が生えた。

3 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 22:46:25.43 ID:nqYLJx0E0.net
ゴキブリ

4 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 22:46:43.03 ID:cD6WjzeE0.net
急展開

5 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 22:47:44.08 ID:27NXrnN90.net
「な、な、な」

梓は絶句した。
何かを頭に付ける素振りはまったくなかったはずだ。
突然”それ”は生えてきたのだった。

「朝起きたら、できるようになってたんだよねぇ」

唯はそう言って立ち上がると、くるりとターンをした。
スカートの裾から尻尾がのぞいている。
柴犬のような、白と茶色の尻尾だった。

「なんですか、それ」

梓がやっとそう質問すると、ガチャリと部室のドアが開いた。

6 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 22:49:10.04 ID:27NXrnN90.net
二人は反射的にドアの方を見た。
しかし、誰も入ってくる様子はない。

「いったい、どうしたんでしょう」

唯の変化に対する疑問は、とりあえず置いておくことにした。
梓はドアの方へ向かって歩き出す。

誰ですか。

そう言おうと思い口を開いたが、
その言葉のかわりに絶叫が響いた。

「ぎゃあああああああああ!!!!!!」

「どうしたの!? あずにゃん!!」

唯が駆け寄ると、開いたドアの隙間から、
大きなワニが這い出してきた。

7 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 22:50:01.42 ID:YQONqIBk0.net
横書きの地の文はなんか迫力ある

8 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 22:50:18.46 ID:ubjl4Aua0.net
「なんだぁ。ムギちゃんじゃない」

唯はほっと胸を撫で下ろした。

「あら、すぐばれちゃったわね」

ワニが紬の声でそう言った。

「えっ!! ムギ先輩!?」

梓が驚きの声を上げると、
ワニはしゅるしゅると縮んでいき、
紬の姿になった。
その体はところどころウロコに覆われていた。

「唯ちゃんも驚くと思ったんだけど」

笑いながら言う。

「匂いで分かるんだよぉ」

唯が鼻をクンクンと動かした。

9 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 22:52:55.76 ID:ipYKc9wT0.net
「とりあえず服! 服着てください!」

梓が慌てて叫ぶ。
紬は全裸なのだった。

「あら、大丈夫よ。
 ちゃんと隠してあるから」

紬は腕を広げた。
その指先では、
アイスピックのように鋭くとがった爪が光っている。
よく見ると、胸と下半身はウロコで覆われていて、
まるでワニ革の水着を着ているようだった。

「それ便利だねぇ」

「唯ちゃんの耳と尻尾も、とってもキュートよ」

唯の言葉に、紬はそう笑って返した。

10 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 22:54:03.42 ID:3XOWeDgR0.net
紬は制服を着終えると、席に着いた。
その体から、ウロコの皮膚はもう消えている。
唯と梓の二人は、既に座って待っていた。

「二人とも、どういうわけか説明してください」

梓が困惑の色を顔に浮かべながらも、
強い口調で言った。

「どういうわけもないわよ。
 朝起きたらできるようになってたの」

「そうだよねぇ、ムギちゃん」

二人はそう言って笑った。

まったくわけが分からない。
梓はため息をついた。

「あずにゃんは細かいなぁ」

唯が笑いながら首を傾げると、
頭についている耳がぴょこんと跳ねた。

11 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 22:55:58.89 ID:3XOWeDgR0.net
「はぁ。もういいです。
 ところで唯先輩」

梓がため息をつきながら、唯の方へ向き直る。

「なぁに、あずにゃん」

また耳をぴょこんとさせた。
梓がピクリと反応する。
そして深呼吸をしてから言った。

「頭、撫でてもいいですか?」

梓の表情は真剣そのものだった。

「いいよー。はい」

唯はお辞儀をするように頭を差し出した。
梓が手を震えさせながら、腕を伸ばす。
指先が唯の頭に触れると、ぎこちなくそれを撫でた。

「えへへへ。なんか恥ずかしいね、これ」

唯は困ったように笑ったが、
梓の耳にその言葉は届いていなかった。

12 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 22:57:07.24 ID:3XOWeDgR0.net
かわいい!
かわいすぎます!

梓は興奮していた。
ただでさえかわいい唯先輩に、
犬の耳と尻尾がはえるなんて。
そのヴィジュアルの破壊力に、梓は体の芯から震えた。

「今日は唯先輩の家泊まりますから! いいですか!?」

頭を撫でるのをやめると、鼻息荒くそう言った。

「わーい。いいよー」

唯がにこやかに答える。

「そうと決まれば善は急げです!
 早く帰りましょう!」

梓は荷物をまとめると、唯を引っ張った。

13 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 22:58:14.26 ID:mbKSVx9B0.net
うん

14 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 22:58:43.62 ID:3XOWeDgR0.net
「えー、部活はー?」

唯が困ったようにして、梓に言った。

「そんなものは中止です! さぁ! 早く!」

グイグイと唯の袖を引っ張る。

「もうしょうがないなぁ、あずにゃんは」

唯も荷物をまとめ始めた。

「じゃあムギ先輩、お疲れ様です!」
「じゃあねぇ、ムギちゃん」

部室を出ていく二人の背中に、
紬は笑顔のまま手を振った。

15 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 22:58:54.07 ID:cD6WjzeE0.net
鼻息荒いとか言うな

16 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:01:04.07 ID:3XOWeDgR0.net
「あれ、ムギ一人か?」

律は部室に来るなりそう言った。
その後ろに澪の姿も見える。

「そうなのよ。唯ちゃんと梓ちゃんは帰っちゃったわ」

紬は満面の笑みを顔に張り付けていた。

「帰っちゃった、って。どうしたんだよ」

律が呆れたように言う。
相変わらずの笑みのまま、紬が答えた。

「私、女の子同士っていいと思うのよ」

部室が一瞬静寂に包まれた。

「はぁ?」

律と澪はよく分からないという顔をしていた。

17 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:02:40.39 ID:3XOWeDgR0.net
翌日、眠たげな顔の唯と梓が部室にやってきた。

「二人とも! 昨日は楽しめたの?」

紬がわくわくとした面持ちで質問した。

「どうもこうもないよぉ。あずにゃんが寝かせてくれなくって」

唯が目をこすりながら言う。

「まぁ!」紬が嬌声をあげた。
そして口元を手で隠す。
肩が震えているのは、笑いを押し殺しているためであろうか。

「だって唯先輩、寝ぼけてすぐ犬耳出すんですもん。
 あれが目の前にあったら、撫でずにはいられないですよ」

同じく目をこすりながら梓が言った。

18 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:03:26.06 ID:3XOWeDgR0.net
「うふふふふふ」
紬は手で顔を隠しながら笑い続けていた。

「どうしたの? ムギちゃん」

唯が聞くが、当の紬は質問には答えず、
ただただ笑っていた。

「何かがツボに入ったんでしょうね」

寝不足の二人はそれ以上追及することもせず、
椅子に座ると、うつらうつらと舟をこぎ出した。

19 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 23:04:51.33 ID:N/qh/Pba0.net
ほうほう

20 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:04:51.11 ID:3XOWeDgR0.net
ガチャリ。

ドアが開く音で二人は目を覚ました。
正面を見ると、紬はまだ笑っている。

「おーっす。今日はちゃんといるみたいだな」

律が入ってきた。

「今日の部活なんだが、
 中止にしようと思うんだけど。どうかな」

律が腰に左手をあてながらそう提案する。
二人は首を傾げた。

「なんで?」「どうしてですか?」

口々に疑問をぶつける。

「昨晩の通り魔事件は知ってるよな?」

律が左手はそのままに、右手を広げながら言った。

21 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:06:14.10 ID:3XOWeDgR0.net
「通り魔事件?」

二人はきょとんとした顔をした。

「はぁ? まさか、知らないのか?」

律は呆れた。

「ごめん、知らないや」

唯が「えへへ」と笑いながら言った。
表情を見る限り、梓も知らないようである。
唯と梓はずっとじゃれあっていたため、
昨日からニュースを見ていないのだった。

「はぁ」律はため息をついた。
「あのな。昨日の深夜、隣町で通り魔事件があったんだよ」

そして、事件の概要を話し始めた。

22 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 23:07:23.38 ID:T4/DupPi0.net
ホラー的なの好き

23 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:08:02.57 ID:3XOWeDgR0.net
「被害者は、全身を滅多刺しにされて死んでたんだってよ。
 凶器はナイフとかの刃物じゃなくて、
 なんか尖ったキリみたいなものらしい。
 エグイよな」

律は顔をしかめた。

「へぇ〜」「そうなんですかぁ」

唯と梓は眠たそうな声を出した。
律はふぅ、と短く息を吐く。

「それで、だ。
 さっきさわちゃんに確認しに行ったら、
 部活は原則活動自由だけど、
 中止にしてるところも多いみたいだ。
 だから私たちも中止にして早く帰ろうぜ。
 通り魔怖いし」

「そうだねぇ」「そうですねぇ」

睡魔に今にも負けそうな二人は、
快くその提案を受けた。
その後ろでは、紬が笑いを噛み殺し続けていた。

24 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 23:08:15.55 ID:EwpcvFE0i.net
しえん

25 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:10:11.60 ID:3XOWeDgR0.net
帰り支度をしていると、梓は不意に気付いた。

「そういえば、澪先輩はどうしたんですか?」

「ああ」と律が顔を向ける。
「体調不良で、今日は学校自体休んだみたいだ。
 まぁあいつのことだから、
 通り魔にビビって引きこもってるのかも知れないけどな」

そう言って笑った。

支度が終わると、4人はそれぞれ帰路についた。
梓は家に着き、部屋に入るやベッドに倒れ込むと、
そのまま泥のように眠った。

その晩、梓は夢を見た。

26 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:13:04.19 ID:3XOWeDgR0.net
夢の中で、梓は黒猫だった。

「にゃあ〜」

梓が鳴くと、ご飯が用意される。

「にゃあ〜」

梓が鳴くと、目の前の扉が開く。

「にゃあ〜」

梓が鳴くと、おもちゃが現れる。

夢の中で、梓は王様だった。
「にゃあ〜」と声を発するだけで、全てが思い通りになる。
夢の中で、梓は鳴き続けた。
そう、ずっと。延々に。

気が付くと、ベッドの上で横になっていた。
なんだ、夢か。
梓は落ち込んだ。
猫になれたらいいのにな。
そう思いながら頭に手をやると、伸ばした指に何かが触れた。
慌てて鏡を覗き込むと、その頭には猫耳がはえていた。

27 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:14:28.03 ID:3XOWeDgR0.net
「よしよし。あずにゃんはかわいいねぇ」

唯が梓の頭を撫で続けていた。
猫耳がぴょこぴょこと動いている。

「唯先輩ばっかりずるいですよ! そろそろ交代してください!」

頭を撫でられながら梓が吠える。
ゆらゆらと揺れる細長く黒い尻尾が、スカートの裾から覗いていた。

「あずにゃんの気持ちが分かったんだよぉ」

唯はうっとりとした表情で言った。

「もう! 実力行使です!」

梓がそう言うと、唯の頭に手を伸ばした。
抱き合うようにして、お互いの頭を撫であっている。
その様子を興奮気味に眺めながら、紬は口元をだらしなく弛ませていた。

28 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:15:43.13 ID:3XOWeDgR0.net
「うわ! 何をやってるんだよ、お前らは」

律は部室の光景に驚きの声を上げた。
唯と梓は抱き合うような姿勢のまま、ドアの方へ顔を向けた。
しばらく律の方を見ていたが、
すぐに正面へ向き直り、お互いの頭を撫でまわし始めた。

「いやいや」

律は呆れた。

「さすがにやりすぎだろ。そのコスプレは」

「コスプレじゃないよぉ」
「そうですよ。本当に生えてきたんです」

二人は体を離すと、そう言い訳をした。

「え、マジかよ」

律は言葉を失った。

29 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:17:31.14 ID:3XOWeDgR0.net
最初は半信半疑だった律も、
唯と梓の頭を近くで見て納得したようだった。

「本当に、皮膚から生えてるんだな」

信じられないという風に首を振った。

「私たちは耳と尻尾だけだけど、
 ムギちゃんはもっとすごいからね。
 本物のワニになれるんだよ」

「さすがにそれは嘘だろ」

律が横を向くと、そこにワニがいた。

「うわぉぇっ!!!!???」

同時に変な声が出る。
律のその様子を見て満足した紬は、半分人間に戻って笑った。

30 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:19:06.10 ID:3XOWeDgR0.net
「私とあずにゃんが半獣化。
 ムギちゃんのは獣化だね」
唯が言った。

「ワニも”獣”って呼ぶのかしら?」
紬が首を傾げる。

「ゴジラを怪獣って言うし、ワニもそれでいいんじゃないですか」
梓が適当な言葉を並べた。

他の2人もそれで納得したようだ。

「いや、名称はどうでもいいんだけど」律が割って入った。
「それは、どうしてそうなったの?」

「朝起きたらなってたのよ」
「朝起きたらなってたんだぁ」
「朝起きたらなってました」

3人が口々に言うと、律はため息をついた。

31 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:21:23.27 ID:3XOWeDgR0.net
「驚いてて言うのが遅れたけど、
 また通り魔事件が起きたみたいなんだ」

律は気を取り直すようにして言った。

「さっき速報が出てたんだけど、
 一気に3人の死体が見つかったんだと。
 また尖ったもんで滅多刺しだって言うから、同じ犯人だろうな」

真剣な面持ちでそう告げた。

『尖ったもんで滅多刺し』

そういえば。
唯の頭に、紬の爪が思い浮かんだ。
あれもすごい尖ってたなぁ。

「じゃあ今日も部活は中止ですか?」

梓の質問が唯の思考を止めた。
律が声のした方へ体を向ける。

「ああ。言っちまえば無差別の連続殺人だろ?
 隣町とはいえ、マジで危険だと思う」

そう言って肩をすくめた。

32 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:23:07.21 ID:OemZyxJQ0.net
梓は自室のベットに寝っ転がりながら、
一人思案にふけっていた。

律はあの後、しばらく部活を中止にすること、
澪が引き続き学校を休んだことをみんなに告げた。

「はぁ」

梓はため息をついた。
ゴロゴロとベッドを転げまわる。

部活を中止にする。

そんなことしたら、唯先輩にしばらく会えないじゃないか。
頭撫でまわすために向こうの教室にまで行ったら、
変態だと思われるかも知れないし。

「唯先輩……」

梓はぎゅう、っと枕を抱きしめ、ベッドの上を延々と転がり続けていた。

33 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 23:23:25.66 ID:MMK+noVBO.net
獣王紬ダイン

34 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:28:39.11 ID:TuFwuwPK0.net
翌日の放課後、梓は一人部室にいた。

「唯先輩、遅いなぁ」

俯いて呟く。
昨晩、我慢しきれずに唯にメールをした。

『明日の放課後、部室で会えませんか?』

送信した後は、枕に顔をうずめて、
手足をジタバタとさせながら返信を待っていた。
その3分後に『いいよー』とだけ返ってきた。
放課後、じゃなくて、時間を指定すればよかったかな。
梓がそう後悔した。
そのとき。

ガチャリ。

と、音がしてドアが開いた。

35 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:30:48.33 ID:TuFwuwPK0.net
「唯先輩!」

梓はドアに向かって駆け出した。
その途中、おかしいな、と足を止める。
ドアは開いたっきり、
廊下と階段をその隙間から覗かせているだけで、
その空間に誰の姿も映し出さなかったからだ。

「唯先輩?」

隙間に向かって恐る恐る声をかける。
何の返事もない。

「誰、ですか」

ドアに近づくと、一気に押し開いた。
素早く動く影が目に飛び込んでくる。
梓の意識は、そこで途絶えた。

36 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:32:40.79 ID:TuFwuwPK0.net
「あずにゃーん。遅れてごめんねぇ」

唯はドアを開けながらそう言ったが、
部室には誰もいなかった。

「あれ、あずにゃんいない」

どうしたんだろう、と思っていると、
机の上に紙が置いてあるのに気付いた。
近づくと文字が書いてあるのが分かる。

「あずにゃんかな」

手紙らしきそれを手に取った。
隅の方に赤黒い染みがこびりついているのが目につく。
そこにはこう一言書かれていた。

『中野梓は預かりました』

自分の手が震えているのが分かる。

「何、これ」

唯が呆然と立ち尽くしていると、
背後でガチャリ、とドアの開く音がした。

37 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:34:39.07 ID:TuFwuwPK0.net
「ムギちゃん。これって、どういうこと」

唯の声は震えていた。

「ごめんなさいねぇ、唯ちゃん。
 私、どうしても知りたかったのよ」

紬が心の底から申し訳なさそうに言う。
唯が鋭い視線を投げかけた。

「知りたいって、何を」

「どちらが強いか、よ」

力強くそう言うと、紬の全身がウロコに覆われた。

「ムギちゃん! 自分が何してるか、分かってるの!?」

そう叫んだ唯の頭の上で、犬の耳がぴょこんと跳ねた。

38 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:37:15.21 ID:TuFwuwPK0.net
「ムギちゃん! やめて!」

唯が爪の一撃を躱しながら叫ぶ。

「なかなかやるじゃない!」

紬が体を伸ばすと、唯の左腕に噛みついた。

「痛いっ!」

唯の顔が苦痛に歪む。
紬がそのまま体を激しく回転させ始めたので、
唯もそれに合わせてゴロゴロと転がる。

「……っ!!!」

あたりが一瞬で血に染まった。
唯は右手で紬の頭を掴むと、
左腕ごと押し込むようにして後頭部を机の角に叩きつけた。
そしてようやくその牙から解放される。
唯の左腕は半分千切れかけていた。

39 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 23:39:41.34 ID:EwpcvFE0i.net
しえん

40 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:39:47.27 ID:TuFwuwPK0.net
紬がゆっくりとした動作で立ち上がった。
頭から血を垂れ流し、無表情で唯を見つめている。

「なんで、こんなこと……」

唯は叫びかけたが、途中でやめた。
紬の瞳は深く、深く。沈んでいた。
無意味な問答を続けても無駄だと悟る。
紬を強く睨み付けた。

「そう来なくっちゃ、ねっ!」

紬はニヤリと口元を歪めると、唯に躍りかかった。
唯が身構える。
鋭くとがった爪をギリギリのところで躱す。
紬がまた体を伸ばした。
その牙の先には唯の左腕がある。
次は完全に引きちぎる気だ。

「ぐぇっ」

紬の喉から妙な音が鳴った。

41 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:43:06.92 ID:TuFwuwPK0.net
紬の牙は確実に唯の左腕を捉えていた。
本能のままに体を回転させようとする。

「ぐるるるるる……」

唯が唸り声を上げていた。
紬の首筋に、自らの牙を突き立てながら。

「ぎょっ」

紬が鳴いた。
そのまま体を回転したために、
喉に深く唯の牙が食い込んでいた。
その白い首筋に、真っ赤な鮮血がしたたり落ちている。

「あが、が」

紬は唯の左腕を解放した。
そして唯の肩を抱きしめる。
それでも唯は力を弱めなかった。
牙がギリギリと喉に食い込んでいく。
このままだと1分ほどで紬は絶命する。
それは二人の共通認識でもあった。

「何してるんだ! お前たち!」

”二人”を助けたのは澪の叫び声だった。

42 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 23:44:14.37 ID:MMK+noVBO.net
紬「ぐわぁああああああああああ!!」

43 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:44:45.47 ID:TuFwuwPK0.net
「ごめんなさいね。唯ちゃん」

澪に手当てを受けながら、血に染まった顔で紬は謝った。
どうやらそれほど傷は深くなかったらしい。
唯が首を振る。

「ううん。私の方こそ、殺しちゃうとこだった」

その目には涙が浮かんでいた。
現在唯の心の中には、大切な友人を殺しかけたという後悔と、
殺さずに済んだという安心が、
同程度入り混じった状態で存在している。
先程までの興奮が嘘のようだった。
あれが獣の本能なのだろうか。
唯はしばらく黙って震えていたが、
ふと梓のことを思い出した。

「ムギちゃん。あずにゃんはどこ?」

唯は赤黒く汚れた紙を頭の中に描いていた。
あれは梓の血だったのだろうか。

「梓ちゃん? 私は知らないわよ」

紬はきょとんとした顔で言った。

44 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:48:54.45 ID:TuFwuwPK0.net
「だって、あの手紙に」

唯が血だまりに落ちている紙を指さす。
紬が視線を落として、首を傾げた。

「手紙? 私は、果たし状しか書いていないけれど」

これはいったい、どういうことなのだろう。
唯は考えた。
そもそもなんで、私が部室に来ることを知っていたんだ。
しばらく部活は中止ということになったはずなのに。
唯は首をひねる。

「そういえば澪ちゃん。どうして」

突然紬が、自らの背後にいる澪に声をかけた。

「唯ちゃんが部室に来るって知っていたの?」

そこまで言うと紬は、
ゼンマイが切れた人形のように固まってしまった。

45 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:51:25.63 ID:TuFwuwPK0.net
紬は椅子に座った姿勢のまま横に倒れると、床に叩きつけられた。

「どうしたの!? ムギちゃん!!」

唯が慌てて駆け寄る。
紬は焦点の合わない目をして、時折痙攣をしていた。

「澪ちゃん! ムギちゃんが……」

顔を上げると澪と目があった。
不気味に口元を歪ませている。
その表情を見て、唯はゾッとした。

「なんで、笑ってるの」

唯が顔を驚愕の色に染めて、疑問を投げかけた。
澪はさらに顔を歪ませただけで、答えを出さず、
無言のまま唯に近づくと、そのまま抱き付いた。

「っ! 痛いっ!? 痛いよ!!
 澪ちゃん!!!!」

澪は耳元で上げられている悲鳴に興奮するように、
じわじわと締め上げる力を強めていった。

46 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 23:51:36.85 ID:MMK+noVBO.net
やはり噛ませだった!

47 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:53:29.51 ID:TuFwuwPK0.net
血だまりに倒れた唯が痙攣している。
澪はそれを見下ろしながら、ため息をついた。

「存外、あっけないんだな」

つま先で唯の体をつついた。

「ううぅ」体から無数の針を生やしたまま、唯が呻いた。
澪は眉根を上げる。

「なんだ、まだ意識あるのか」

同じく体から無数の針を生やした澪が、驚いて言った。

「澪ちゃん、だったんだね」

『尖ったもんで滅多刺し』
唯は律の言っていた、通り魔事件のことを思い出していた。
そうだ。澪ちゃんは、数日学校を休んでいた。

「ああ、そうだよ」

澪が肩をすくめる。

「お前らみたいな肉食は、天敵だから怖いんだよ。
 私はか弱いハリネズミなんだ」

そう言って口元を歪めた。

48 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/08(日) 23:57:28.98 ID:TuFwuwPK0.net
時を遡ること約1時間。
両手両足を縛られた梓は「うーうー」と呻いていた。
猿ぐつわをはめられているため、声を出すこともできない。

「もう意識戻ったのか」

紬に唯の居場所を知らせ、体育倉庫に戻ってきた澪は、
パイプ椅子に腰をかけると、足を組んで梓を見下ろした。
梓は「うー!」とひときわ大きく呻いて澪を睨み付ける。

「おお、おっかないおっかない」

澪は両手を広げてそう言いながら笑うと、
梓の猿ぐつわを外した。

梓が「ぷぁっ!」と息を漏らす。
「澪先輩! なんでこんなことするんですか!」

固く歯を食いしばると、頭の猫耳がぴょこぴょこと震えた。
澪はジロリとそれを一瞥する。

「それが、気に入らないんだよ」

澪は針のように固い毛が生えた腕を、梓の首元に近づけた。

49 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/08(日) 23:58:50.35 ID:A00kw1Kl0.net
デッドオアアライブかよ

50 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:01:16.48 ID:TiRuSotu0.net
ブチブチブチ。
梓の首筋の皮膚が突き破られる音がする。

「んぎぃっ!!!」

梓は固く目を閉じ、
歯を食いしばって痛みに耐えていた。
澪が顔をしかめる。

「何を耐えてるんだよ。
 別にいいんだぞ、無様に叫んだって」

ブチブチブチ、とまた音がした。

「……っはぁ!!! はぁっ!!」

荒い呼吸をつく。
額に脂汗が滲んでいた。

「叫んでなんて、やるもんですか。
 どうせ、澪先輩が、喜ぶだけなんでしょう」

梓が喘ぐようにして言った。

「はぁ」澪は呆れた顔でため息をつく。
「別に、拷問は趣味じゃないぞ?」

ブチブチブチ。体育倉庫に音が響き続けていた。

51 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/09(月) 00:01:47.85 ID:KTrJyOZP0.net
>>49
ブラッディロアだった恥ずかしい

52 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/09(月) 00:01:53.54 ID:kZ04WrGi0.net
この前もけいおんのキャラ使って無人島の別荘での殺人事件書いてた?

53 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:07:20.15 ID:TiRuSotu0.net
梓の焦点の合っていない目の前に、皿が置かれた。
それにはツナのようなものが盛られている。
梓は顔を上げて澪の方を見た。
霞んだ景色の中にぽっかりと浮かんだ澪の顔が、
分裂と融合を繰り返しながら近づいてくると、
そのまま自分の顔を突き抜けて、視界の隅に消えた。

「猫缶だよ。好きだろ?」

耳元でそう囁かれた。
澪が離れると、いびつな笑い声が梓の頭の中で響く。

ふざけないでください。

そう言おうとしたが、
口が少し動いただけで言葉にはならなかった。
一層歪んだ笑い声が響きわたる。

「やっぱり食べたいんじゃないか。
 そんなに口をパクパクさせて」

梓の脳味噌はそれでも働くことを放棄せず、
しかしそこには整合性というものはかけらも存在しないので、
滅茶苦茶にその回路をつなぐのだった。

54 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/09(月) 00:10:11.47 ID:FLhWva1C0.net
>>52
うん。書いた

55 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:11:14.51 ID:TiRuSotu0.net
「まぁ、食べたくないなら食べないでもいいけどな。
 針に塗った毒の、解毒剤が入ってるんだよ。それ」

澪はそう言って笑った。

解毒剤が、入ってるなら、食べないと。
梓はそう思った。

だって私、猫だし。
猫缶食べても、普通だし。
梓はそう思った。

「にゃあ〜」って鳴いた覚えはないけど、
目の前にご飯が用意されたのは、私が猫である証拠なんだ。
梓はそう思った。

私が、王様である、証拠なんだ。
梓はそう思った。

「梓、お前。完全に目ぇ逝っちゃってるじゃん。
 私は他に用事があるから。じゃあな」

澪は呆れたようにそう言うと、体育倉庫を出ていった。

56 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:12:18.80 ID:TiRuSotu0.net
梓は一心不乱にエサにかぶりついていた。
両手両足を縛られているため、
皿に頭を突っ込んで食べる。

「にゃあ〜」

梓は鳴いた。
そうして口に含んだ食物を咀嚼する。
飲み下すとまた、皿に頭を突っ込んだ。

そこには人の尊厳なんてものは微塵もない。
他者が行う生存活動の邪魔をする権限なんてものは誰にもない。

梓が食事を終えるまで。
エサを咀嚼し、飲み下す。その音が鳴りやむことは無かった。

57 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:14:24.16 ID:DJMr9Nrd0.net
解毒剤の効果が出てきたのだろうか。
梓はふと我に返った。
口元に不快感を覚えたため、腕で顔を拭う。
見ると、猫缶のついた真っ黒の腕が目に入った。

「あれ、私こんなに日焼けしてたかな」

首を回して自分の体を見てみると、
全身が真っ黒の短い毛に覆われていた。
気付くと四本の足で立っている。

「大変。私猫になっちゃったみたい」

梓は焦ったが、すぐに別の思考が頭を覆った。

「そうだ! 澪先輩!
 絶対に許さないから!」

子猫の大きさになったため、両手足の拘束から逃れられた。
梓は体育倉庫から出ると、
部室に向かってタタタッと走り出すのだった。

58 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:16:25.81 ID:MEJPgOb/0.net
「紬のいるところへ、お前もすぐに連れていってやるからな」

澪がそう言って、針の生えた腕を唯に近づけた。
唯が顔を逸らすと、ビクビクと痙攣している紬が目に入る。
こんなこと、続けさせていいわけがない!
そうして死力を振り絞った。

「澪ちゃん、いい加減にして!」

唯が頭の犬耳を揺らすと、澪に噛みつこうとした。

「痛っ!」

しかしすぐに顔を引っ込めてしまう。
頬っぺたに数本針が刺さっていた。

「あはは、唯。お前、そこまでアホなのか」

澪がおなかを抱えて笑う。
しばらく笑い続けると、急に真顔になった。

「じゃあな、唯」

そう言った澪の背後で、ドアの開く音がした。
澪が振り返り見ると、黒猫がドアの隙間から入ってきた。

「澪先輩! 唯先輩から離れてください!」

59 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:18:58.37 ID:NeHVhKEf0.net
「梓、なのか?」

そう言った澪の顔には狼狽の色が浮かんでいた。
明らかに怯えている。

「そうです! もう許しませんよ!」

そう言ってシュタッ!と跳躍するように駆け出した。
澪が慌てて体を丸めた。

「はは、は! 馬鹿! こうやったら手出しできないだろ!」

そう言って無理に笑った澪の姿は、
巨大なイガグリのように見える。
梓はそれでも疾走をやめない。

「馬鹿はそちらです! 弱点が丸見えですよ!」

梓はそう叫ぶと澪の頭にガブリ、と噛みついた。

「いだだだだだ!!!!」

澪は絶叫した。

60 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/09(月) 00:19:30.83 ID:k7QQTuO20.net
なんかすげえなおい

61 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:21:13.52 ID:NeHVhKEf0.net
「ふががが! ふが!」

澪の頭に噛みついたまま、梓は何かを喋ろうとしている。

「ふがが! ふががががが!」

「痛いぃぃぃ!!!! やめてくれぇぇええっっ!!!!!」

澪が叫んでも梓は噛みつくのをやめない。

「ふががががががががが!!!!!」

見ると、梓の体がどんどんと巨大化している。

なんで!
澪は混乱したが、やがてそれは誤りだということに気付いた。
私が小さくなっているんだ!
澪は観念した。

「どんなもんですか! ネズミなんかには、負けませんよ!」

澪を開放すると、梓はそう叫んだ。
その足元に、気を失った小さなハリネズミが転がっていた。

62 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:23:01.51 ID:XrRhFp500.net
「みんな! 本当にごめん!
 ただ、みんなが怖かっただけなんだ」

澪が深々と頭を下げた。
紬が困ったように笑う。

「私も似たようなことしたもの。
 とても、澪ちゃんだけを責められないわ。
 だから、私にも謝らせて? ごめんなさいね」

紬も頭を下げる。

「あはは。私の方こそ、ごめんね」

唯は笑って許した。
殺してしまいそうになった責任を、
もしかしたら感じていたのかも知れない。
梓は終始ムスッとした表情を浮かべていたが、
やおら口を開いた。

「私はそんな謝罪じゃ、絶対に許しませんよ。澪先輩」

63 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:26:09.88 ID:ylJCRSNC0.net
そうしてギラリとした視線を澪に投げかける。

「梓」そう言うと、澪の目にみるみる涙が溜まっていった。
「本当にごめんな」

ボロボロと涙を流す。
梓は無表情でしばらくそれを眺めていたが、
「ふっ」と鼻を鳴らすと笑顔になった。

「駅前のケーキ屋のシュークリーム2つ。
 これで手を打ちましょう」

顔の横に指で”2”と示す。
それはピースサインのようにも見えた。

「梓」澪は先程より一層の涙を流していた。
「ありがとう」

ぐしゃぐしゃの顔で、ようやくそれだけ言った。

64 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:27:15.00 ID:o9vXivPC0.net
「どうしてあずにゃんと澪ちゃんは完全に獣化したの?」

唯が疑問をぶつけた。
澪にも理由は分からないようで、赤く腫らした顔で首を傾げている。

「では、私がご説明しましょう。
 気持ちまでその動物になると、獣化するんですよ」

梓がそう言って胸を張った。

「動物の気持ち?」涙声で澪が言う。

「そうです」と梓。
「私は澪先輩が置いていった猫缶を食べてたら猫になりました。
 澪先輩は、肉食獣である私に噛みつかれたので獣化したんです」

そこまで言って、梓はエッヘンと腰に手を当てた。

「なるほどねぇ」紬が頷く。
「私もワニの気持ちになっていたもの」

そう言ってうふふ、と笑った。

65 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:29:25.13 ID:o9vXivPC0.net
「本当にごめんな、みんな。
 梓のあとをつけてる時は、
 ここまでやるつもりなかったんだけど」

澪が再度謝りながら、視線を落とした。

「梓が唯と待ち合わせしてることとか、
 紬が唯と戦いたがっているとか、
 そういうことが、色々組み合わさって、それで」

その目にまた涙が溢れる。
唯が手を広げて制した。

「澪ちゃん、もういいよ。
 でも、私たちにしたことは許されたけど、
 ちゃんと罪は償わないといけないよ」

真剣な顔で諭すように言った。

「罪?」澪が首を傾げた。

「とぼけないで。通り魔事件の犯人、澪ちゃんなんでしょ」

紬と梓がぎょっとした顔で澪の方を見た。

66 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:31:33.82 ID:o9vXivPC0.net
「ちょっと待ってくれ」

涙声でそう言うと澪は両手を広げた。

「私の針に、殺すほどの力が無いことは、
 お前が一番よく知ってるんじゃないのか」

「あ」

そうだ。
唯は澪にその腕で抱きしめられたことを思い出した。
確かに痛い程度で、ダメージすらほとんど残っていない。
体を見渡すと血はもう止まっていた。

「学校休んでたのは?」

「それは。外にいる犬とか猫が、怖くて」

澪は体を震わせた。

「身を守るために針に塗った毒が相手の体の自由を奪うだけで、
 死ぬほどのもんじゃないよ。
 その毒も時間がたてば勝手に抜けるし」

そこまで言うと、また俯いてしまった。

「それでも、申し訳ないことしたなって、思う」

またボロボロと涙をこぼしながら、そう言った。

67 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:33:08.35 ID:tmIGJI9X0.net
ガチャリ。とドアが鳴った。
4人が反射的にそちらを見る。

「お前ら! そんな血だらけでどうしたんだよ!」

入ってきたのは律だった。
4人の様子を見ると大仰に驚いて、
「救急車救急車」と言いながらスマフォを取り出した。

「大丈夫だよぉ、律ちゃん」

唯が律の手を押さえた。
律がぎょっとした表情を剥く。

「大丈夫って、お前! 腕千切れかかってんぞ!?」

「だから大丈夫よぉ、律ちゃん」

律が声をした方を向くと、そこにはワニがいた。

「ぎゃあああああ!!!!!」

慌てて飛び退く。

「ムギ! それ心臓に悪いからやめろよ!」

律がそう叫ぶと、澪の顔にもようやく笑みが戻ったようだった。
律以外の4人は声を出して笑った。

68 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:35:53.80 ID:rGAizCJt0.net
「律先輩は、どうして部室に?」

梓が疑問をぶつけた。

「ああ」とぶっきらぼうに律が答える。
「さっき通り魔が捕まったってニュースやっててな。
 誰かいないかと思って、来てみたんだよ」

そう言ってため息をついた。

「つーかマジでお前らはどうしたの、それ」

ジロリと睨むようにして、4人を交互に見る。

「食物連鎖、かなぁ」

しばらく考え込んだ後に、唯が言った。

「食物連鎖ぁ?」律が怪訝な声を上げる。

「そうだな。食物連鎖だな」
「そうね。食物連鎖ね」
「そうですね。食物連鎖ですね」

3人が口々にそう言うと、律は黙ってため息をついた。

69 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:38:58.71 ID:oYgduZ1n0.net
「なんで私達、いきなり動物になったのかしらね」

紬が言うと、唯・梓・澪の3人は首を傾げた。
律はその話には興味無さげにスマフォをいじっていたが、
いきなり素っ頓狂な声を上げた。

「お、おい! これ見ろよ!」

みんなに向けて、慌てた様子でスマフォを掲げた。
ブラウザで開かれているのは、有名なニュースサイトだった。
そこには件の通り魔事件の記事が早くも更新されていて、
「ある日突然、動物に変身できるようになり、
 その力を試したくなった」
という犯人の供述が掲載してあった。

「お前らだけじゃなくて、他にもいるみたいだな」

律は冷や汗を浮かべながら言った。

70 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:40:30.43 ID:oYgduZ1n0.net
「つまり、まだ戦えるってわけね」

紬が言う。
3人は黙って頷いた。

「おい、戦うって。
 まさかお前らの怪我、それ戦ってついたの?」

律が呆れて言うと、4人は鼻で笑った。

「本能がね、そうさせるのよ」
「本能だな」
「本能だね」
「本能ですね」

律は本日何度目かのため息をついた。

もう、勝手にしてくれ。
そう思って、またため息をつくのだった。

終わり

71 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:43:51.15 ID:pQIRIeJM0.net
ここまで読んでくれた方、レスくれた方、ありがとうございました

72 :アドセンスクリックお願いします:2014/06/09(月) 00:43:56.59 ID:FRYbsg320.net
うむ

73 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/09(月) 00:44:14.23 ID:k7QQTuO20.net
乙面白かった

74 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/09(月) 00:45:36.71 ID:HhroTcfbO.net

いつも思うんだけどおまえのSS文章も読みやすいし着想も毎回面白いんだけど
落ちが尻すぼみになる傾向があると思う
もうひとひねりするともっとよくなるんじゃないかな
偉そうな事言ってすまんがいつも楽しみにしてるので

75 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/09(月) 00:46:22.18 ID:8sJts0vq0.net
今から読みます
乙乙

76 :1 ◆K82PBRmK9Q :2014/06/09(月) 00:52:17.75 ID:Gts9JrUw0.net
>>74
なるほど、オチが弱いのか
実は今回の話は自分でも薄々そう思ってたんだけど、
話に矛盾が生じそうでオチをひねるのが怖くて
臆病にならず次はもうちょっと攻めてみるわ
アドバイスありがとう

77 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2014/06/09(月) 01:05:54.70 ID:Q2v5pT+w0.net


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