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梶井基次郎の『ある崖上の感情』のラストって凄いよな

1 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2015/08/03(月) 08:53:56.205 ID:IV9vkmQN0.net
ある晩のこと、石田はそれが幾晩目かの崖の上へ立って下の町を眺めていた。
 彼の眺めていたのは一棟の産科婦人科の病院の窓であった。それは病院と言っても決して立派な建物ではなく、昼になると「妊婦預ります」という看板が屋根の上へ張り出されている粗末な洋風家屋であった。
十ほどあるその窓のあるものは明るくあるものは暗く閉とざされている。漏斗型じょうごがたに電燈の被おおいが部屋のなかの明暗を区切っているような窓もあった。
 石田はそのなかに一つの窓が、寝台を取り囲んで数人の人が立っている情景を解放しているのに眼が惹ひかれた。こんな晩に手術でもしているのだろうかと思った。
しかしその人達はそれらしく動きまわる気配もなく依然として寝台のぐるりに凝立ぎょうりつしていた。
 しばらく見ていた後、彼はまた眼を転じてほかの窓を眺めはじめた。洗濯屋の二階には今晩はミシンを踏んでいる男の姿が見えなかった。やはりたくさんの洗濯物が仄ほの白く闇のなかに干されていた。たいていの窓はいつもの晩とかわらずに開いていた。
カフェで会った男の言っていたような窓は相不変あいかわらず見えなかった。石田はやはり心のどこかでそんな窓を見たい欲望を感じていた。それはあらわなものではなかったが、彼が幾晩も来るのにはいくらかそんな気持も混じっているのだった。
 彼が何気なにげなくある崖下に近い窓のなかを眺めたとき、彼は一つの予感でぎくっとした。そしてそれがまごうかたなく自分の秘ひそかに欲していた情景であることを知ったとき、彼の心臓はにわかに鼓動を増した。
彼はじっと見ていられないような気持でたびたび眼を外そらせた。そしてそんな彼の眼がふと先ほどの病院へ向いたとき、彼はまた異様なことに眼を瞠みはった。
それは寝台のぐるりに立ちめぐっていた先ほどの人びとの姿が、ある瞬間一度に動いたことであった。それはなにか驚愕きょうがくのような身振りに見えた。すると洋服を着た一人の男が人びとに頭を下げたのが見えた。
石田はそこに起こったことが一人の人間の死を意味していることを直感した。彼の心は一時に鋭い衝撃をうけた。
そして彼の眼が再び崖下の窓へ帰ったとき、そこにあるものはやはり元のままの姿であったが、彼の心は再び元のようではなかった。

2 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2015/08/03(月) 08:57:00.720 ID:bxqRqy9q0.net
ぽーにょぽーにょぽにょさかなのこ〜

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