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コナン「オレは人殺しじゃないんだ!」
- 1 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 02:16:16.476 ID:Twbj+dTC0.net
- 朝一番の国語が終わり、小林教諭が部屋を去ると、四五分もの間鳴りを潜めていた「緩み」が一気に押し寄せてくる。
児童達は特に示し合わせるでもなくその「緩み」に身を委ね、或る者は大きく体を反らして息を吐き、また或る者は机に突っ伏して気の抜けた声を出す。すべてが見慣れた学校生活の日常だった。
次のコマに備えてコナンが文学史の資料を仕舞い込んでいると、隣席の円谷光彦に声をかけられた。彼は親友である。
光彦「あの、次って確か算数でしたよね。もしかして何か宿題がありましたっけ?」
コナン「えーっと、あー、あったあった。ほら、前の授業でリーマン予想についての論文配られてただろ? あの仮説に対する指摘を次の授業でそれぞれ発表するのが課題だぜ」
光彦「ええ! すっかり忘れてました。ピンチです」
- 2 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 02:20:56.287 ID:Twbj+dTC0.net
- 光彦は鞄の中を探るフリをした。そうすることで、もしかしたらやった記憶のない課題を仕上げている自分に期待したのだろう。しかしながら結果は知れたことで、彼はガックリと首を垂らすハメになった。彼のソバカスがすっかり剥がれ落ちて、床の上で踊った。
コナンはケラケラと嗤った。
コナン「バーロー、嘘に決まってんだろ。大体そんな論文配られてすらいねえって」
光彦「もう! ほんとに意地悪ですねえコナン君は!」
コナン「お茶目な冗談だろ。笑って許すのが器ってモンだぜ」
コナンはそう言うと、光彦が悪態を思いつく前にさっさと席を立った。10分休憩の間プールで泳ごうと考えたのだ。光彦もしつこい方ではないので、黙って彼を追いかける。
二人の去った教室で、掃除当番の歩美と元太がソバカスを綺麗に集めた。
- 3 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 02:28:58.640 ID:Twbj+dTC0.net
- プールは体育館の裏側にあるので、コナンと光彦は三階から階段を降りていく格好になった。
ニ.五階とでも呼ぶべき踊り場の窓からは職員駐車場が覗いていて、そこには黒いポルシェが一台駐まっていた。丸みを帯びたボンネットに水着姿の浅井成実が座っている。清潔感のある白いビキニが太陽の光を受けて輝いていた。
コナン「ナルミ先生、今そっちへ行くよ! そして一緒に泳ぐんだ!」
彼は嬉しくなって駈け出した。
成実に早く会いたいという思いが、彼に手摺をスケボーで走らせた。
一階までたどり着くと、彼は上履きを投げ捨て、スケボーを叩き割り、用務員室を通って裏口から外へ出た。真夏の容赦無い恵みが熱を持って彼の両目に飛び込んでくる。
しばらくして目が慣れ始めた頃、駐車場の横のクレイ・コートからポコポコと間抜けな音が響くのが聞こえた。右手を傘にして目を凝らすと、中年の男と若い女がソフト・テニスのラリーを続けているのが見えた。テニスも悪くないなとコナンは思った。
- 4 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 02:47:39.252 ID:Twbj+dTC0.net
- ともあれ、今は成実を迎えに行かなければ!
コナンは急いだ。
ガランとした駐車場のアスファルトの上に、一台だけ、ポルシェはまだそこに居た。そして成実も。
彼女はコナンに気がつき、慈しむような笑みを浮かべた。
コナンも負けじと微笑み返し、二人は無言のまま手を取り合った。
運転席で只管気配を殺していた長髪の外国人が、「Was this all really right?」と尋ねた。
「Sure it is.」とコナンは答えた。
長髪の外国人はもう何も言わずに車を出した。車が見えなくなるまで二人は見送った。
「This was all really right, isn't it?」と彼は呟いた。
その疑問には誰もこたえてはくれなかった。
- 5 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 02:52:27.083 ID:Twbj+dTC0.net
- いつの間にか追いついていた光彦が、コナンを呼んでいた。
「わかったー、今そっちへ行くー!」とコナンは答えた。
振り返ると、成実が「どうかしたのか?」という表情で彼を見ていた。
コナン「大丈夫。プールで泳ぐだけさ」
成実が笑う。コナンは彼女の手を引いてプールへ走った。
- 6 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 02:52:27.627 ID:IT2FBv3Ld.net
- ふむ
- 7 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 03:01:14.318 ID:Twbj+dTC0.net
- 右手で彼女の手を引いていたら、突然左腕を掴む腕があった。
コナンが振り向くと、そこにはテニス・ウェア姿の蘭がいた。不安げに眉を寄せ、そして強い力で彼の左腕を拘束していた。
コナン「蘭ねえちゃん、離してよ」
蘭「ダメよ、コナン君」
コナン「いいから離して!」
蘭「行っちゃダメ!」
コナンは仕方なく麻酔銃で蘭を撃ちぬいた。
ゾウをも一撃で葬る劇薬の前では、蘭も赤子同然だった。
少し後ろで成り行きを見ていた中年の男が、恐れるような眼差しでコナンを見ていた。
コナン「おっちゃん……」
- 8 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 03:08:39.700 ID:Twbj+dTC0.net
- どうやら小五郎は、それだけですべての真相を見ぬいたらしかった。
彼らしからぬ鋭利な眼光が、まっすぐにコナンを射止めていたのだ。
小五郎「おまえは、俺を……!」
コナン「どうだっていい! 探偵なんかもうたくさんだ!」
小五郎から逃げるようにして、コナンは全速力で走った。何度も前に転ぶんじゃないかと思うほどだった。
間もなくプールにたどり着き、二人はシャワーの洗礼を受けて貯水に浸かった。
B棟の図書室のベランダから、服部平次が見下ろしていた。
- 9 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 03:15:37.105 ID:Twbj+dTC0.net
- コナン「オレはもう、探偵なんかやめたんだ!」
服部は驚きに目を見開き、なんども瞬きを繰り返した。やがて彼の肌が一層黒くなって、みるみるうちにしぼんでいき、それが発火剤となって火がついた。
炎はあっという間に図書室のカーテンに燃え移り、メラメラと校舎を呑み込んでゆく。
成実の両目が、さかんに燃え盛る炎に吸い寄せられている。
火を消さなければ!
コナンはボール射出ベルトのスイッチを使って、即席のサッカー・ボールをこしらえた。
それをオーバー・ヘッドで蹴ったくり、図書室の真上の、美術室のベランダへ飛ばした。
ボールはベランダにあった公衆電話に命中した。緑の受話器が崩れ落ちる。
コナン「ア〜〜〜〜ア〜〜〜〜ウ〜〜〜〜〜♪」
消防車が呼びだれたのだ。
- 10 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 03:20:26.610 ID:IT2FBv3Ld.net
- なんか電話のそれあったなぁ
- 11 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 03:33:52.188 ID:Twbj+dTC0.net
- けれど炎の勢いは確実に上がっていくし、それが消防車の到着を大人しく待っている訳がなかった。
いつの間にか黒煙が空に立ち込め、業火は四階をも蝕もうとしていた。
成実は魅入られたようにプールから上がり、スタスタと校舎へ向かっていく。
コナン「行っちゃダメだよ、ナルミ先生!」
成実はコナンを無視して校舎へ歩みを進めた。あるいは、彼の声が届かなかったのかもしれない。
たまらずコナンもプール・サイドへ上がって、彼女を追いかけその手をとった。
コナン「見てご覧この有様を。一体誰がこんな中へ分け入って無事でいられるっていうんだい? そりゃ僕だって中にいる人達を助けたい。光彦が屋上から手を振って助けを呼んでいるのも僕には見えているんだ」
コナン「けれどそれは仕方がないことで、僕達にはどうしようもない。あなたがいたずらに誘蛾灯の中に身を投げ出そうというなら、僕はそれを看過できない」
成実はコナンの腕を振りほどこうとはしなかった。しかし、両の目はメラメラと暴れまわる凶暴な炎しか映していない。コナンは成実のことを悟った。そして見難い自分のことも。
コナン「僕はあなたが焼け死ぬのをもう見たくない! 君にここにいて欲しいんだ!」
成実は最後、一度だけコナンに振り返って微笑んだ。
そして、空気に溶けるようにして炎の濁流に吸い込まれていった。
コナンの目から零れた涙が、水着から滴るプールの水と混ざって染みをつくった。
- 12 :以下、\(^o^)/でVIPがお送りします:2016/03/27(日) 03:42:37.274 ID:Twbj+dTC0.net
- ふと、燃えている教室の黒板の上のスピーカーから、小さな音でBGMが流れ始めた。それはどこかのピアニストが演奏するベートーヴェンのピアノ・ソナタ14番だった。
コナンは堪らず目を塞ぎ、両手を固く握りあわせて額に押し当てた。
耳に流れ込んでくるピアノの旋律が、血液のように彼の体を駆けまわって離さない。もう炎の音さえも耳に入らなくなっていた。
弾いているんだ、あの人が、炎の中で。コナンはそう思った。
やがてやってきた消防隊によって火事は鎮火され、光彦は一命を取り留めた。
わかっていたことだが、成実先生の遺体は見つからなかった。
コナンは彼女の姿をもう一度胸に描き、そっと学校をあとにした。もうすぐ朝がやってくるのだ。
そうしたらセイジは今度こそどこにもいない。それでも彼の姿を心に刻んで生きていくしかないのだ。
コナンくーん、という蘭の声が聞こえた。
ベッドの上だった。
完
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