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半年かけて練った小説のプロットが完成した
- 165 :以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします:2018/07/02(月) 22:41:37.310 ID:jB5aaaI50.net
- 12月24日。
口先で燃え尽きた煙草の煙が、ゆっくりと空に上がっていく。汚れた空気で改造された冬の天気は、少し灰色がかっていた。
凍てつく風が煙草の火とアキラの鼻先に当たる。カイロとして買った無糖のホットコーヒーは、いつのまにかポケットで氷嚢と化していた。
駅前の喫煙所。駅にはショッピングモールが併設されており、日曜日ということもあって、家族連れやカップルが楽しそうに買い物をしている。
ゴミを灰皿に押し付け、もう一度右ポケットから煙草を取り出した。お気に入りのマルボロトロピカル。同じ種類の煙草を吸っている人間を見たことないくらいには、珍しい種類だ
った。
煙草の先端に包まれたカプセルをかみ砕く。
かちっ。
空気に冷やされながら揺れる火種から、僅かに暖を頂きながら二度、強く吸った。
口に燻った煙が染み、肺を満たした。引っ越したばかりのアパートで眠るような安心を直接ぶち込む。
午後2時15分。待ち合わせから15分も過ぎていた。時間にきっちりとしているアキラには理解できない行為だった。
嘆息が白い水蒸気となって町に消える。
かれこれ、三十分は喫煙所にいるだろう。アキラのように喫煙所にずっと立っているのは稀だ。アキラ以外の人間は、自分の煙草を取り出し、八割ほど吸い終わったところで灰皿に入れ改札へ向かっていく。
そこからさらに十分、三本目を吸い終わったところでようやく待ち人は改札口に姿を現した。
真っ赤なコートを羽織り、ハイヒールの音を鳴らし闊歩する姿は、敏腕なキャリアウーマンだと思うだろう。手入れされた長い黒髪を後頭部でまとめ、人を喰ったような、いやもしか
したら知らないだけで本当に喰ったのではないかと錯覚させるほどの眼光は、血を分けた家族であるはずのアキラを見ても変わることはない。
彼女の名を、アキラは生まれたときから知っていた。
咲桜ユミという姉は、アキラから見ても美しい容姿だった。
ユミはアキラに目配せをしたあと、なにも言わずに上質なコートのポケットから窮屈そうに潰れた煙草のボックスと百円ライターを取り出した。
ライターは燃え盛るような炎を発し、小さく細い女性用煙草へ乗り移る。
パンパンに膨らんだ肺から吐き出すその様は、遅刻してきたことなど何一つ気にしない堂々たるいでたちだ。
アキラが大きなあくびを二回ほどし、薄紅色の塗料がフィルターにしっかり烙印されたところで、ようやく姉であるユミは口を開いた。
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